15.灰羽の矢
発動条件もわからないし効果もまちまちだが、六尺棍の攻撃で、通常攻撃とは別の付加効果を与えてるんだ!
トゥクヴァルスで、
体調や精神状態にも左右されるんだろうか?
いや、キルパンサーにはバインドも入っていた上に、叩いたらすぐにテイム状態に入ったし、あまり参考にならないか……。
噛まれた右腕と左足が痛むが、これくらいの手傷ならまだまだいける!
気合を入れ直した直後、視界の隅――向こう岸で不穏な動きを捉える。
目線を向けると、数匹の黒い影がまさに川を飛び越えようとしている瞬間だった。
「三匹? ……いや、四匹か!?」
川へ体を向け直そうとしたその時、大きな爆裂音と共に水際で広がる劫火。
――メガファイア!
動き出していた四匹だけでなく、その背後にいた数匹をも巻き込みながら、流炎が渦を巻き、徐々に収束して火柱に変わる。
――助かった……。
ホッと息をついた次の瞬間、
「アッチッチチチッ!」
熱風に巻き上げられていた川の水が、顔や手足に
思わず
しかし、傷のせいか、あるいは俺に対して芽生えた警戒心のせいなのか……。
動きは先程までよりも格段に鈍い。
――この程度なら、当てるだけに集中すればなんとかなるぞ!?
細かい棍
息つく間もなく、新手が入れ替わるように向かってくる。
一、二……今度は三匹!
ったく、次から次へと!
「犬だ! お前らは犬だっ! ただの中型犬だ――っ!」
自己暗示をかけるように、頭の中で繰り返していた言葉が無意識のうちに口から零れると、それを聞いた紅来たちの頭上に〝
――だが、もうそんなことはどうでもいい! 恥も外聞もない!
あと二回……いや、一回でもメガファイアが撃てるくらい時間を稼げれば、リリスも温存したまま、残りは俺と紅来だけででなんとかなるだろう。
――ほら首! 次は脇腹!
再び、当てることだけに集中して細かく六尺棍を振る。
連続ヒットで二匹までは退かせたが、直後、手元がズルッっと滑り、六尺棍の軌道が不安定に揺れた。
――三匹目、外した!
見れば、右腕の傷口から流れ出した血がグリップにべっとりと付いている。
俺の打突をかいくぐり、右足首に喰らい付いてくるケイブドッグ。
さらに、今しがた退かせたばかりの二匹に加え、群の中から新たに三匹――。
地を這うように暗闇から現れた計五匹の魔犬に、あっという間に取り囲まれた。
一匹! 二匹!
なんとか三匹までは攻撃を当てられたが、やはりそれ以上は追いつけない。
残りの二匹が、俺の左足首、そして右太腿に鋭い牙を突き立てる。
「ぐあ――っ!」
三匹のケイブドッグに食らい付かれ、動きを封じられる。
連携しながら最初に相手の機動力を、続いて攻撃手段を奪っていくのがこいつらの常套手段らしい。
「紬ぃ――っ!」
「まだだ! そこにいろ!」
駆け寄ろうとする紅来の気配を察し、声だけで制止する。
戦っていてなんとなく感じたことがある。
――向こう岸の群れは
遊撃的に動く魔犬はいても、基本的に向こうの群の視線の先にいるのは、常に立夏と紅来だった。
以前〝ダーウィンが来るかも〟で観たリカオンの群れのように、思っていたよりもずっと統制が取れている。
今、紅来が俺に加勢すれば、間違いなく一人になった手負いの立夏が狙われる。
――あいつら、虎視眈々とその瞬間を待ってるんだ!
どうやら今は紅来の存在が牽制になっているようだが、もし立夏が襲われる事態になればさすがにリリスを使わざるを得ない。
大丈夫、喉さえ守れば致命傷にはならないし、致命傷さえ避ければ後からポーションでなんとでもなる!
「おい! リリスちゃん! 紬を助け――」
「だめだ! どっちもまだ動くな!」
再び聞こえてきた紅来の声を遮るように、すかさず二人を止める。
まだ何が潜んでいるかも分からない、得体の知れない地下空洞だ。
切り札であるリリスは出来るだけ温存したい……そう考えて、俺が自分で提案した
せっかくここまできたんだ。
せめてもう一撃、向こう岸にメガファイアを
それまで耐えれば、あとはリリス抜きでも蹴散らせる。
いや、残り数から言って、それで退散する可能性だって十分に考えられる。
先程追い払った三匹が、動けない俺を見て再び反転するのが見えた。
もうあいつらを迎え撃つ余力はない。
六尺棍を地面に投げ捨て、両手をクロスさせるように、喉と頚動脈を守る。
メガファイアまで、あと何秒だ!?
それまで、ガードに徹して耐え切ってやる!
地を蹴り、宙を跳び、さっきのお返しとばかりに牙を剥いて俺の喉元に肉薄するケイブドッグたち!
……と、その時だった。
三匹が、何かに弾かれたように軌道を変え、短い悲鳴を上げて地面に落下する。
――何だ? 今、左から何かが飛んできて……。
視線を落とすと、地面をのたうつ三匹の魔犬が視界に飛び込んでくる。
それぞれの首、脇腹、そして側頭に突き刺さっているのは……。
――
弾かれたように左へ首を向け直し、薄暗闇の向こうへ目を凝らす。
真っ先に目に留まったのは、
視線を上げれば、同じく浅葱色のケープに、耳の上で二つに束ねられた
光を放つ
弓を構えたまま、驚いたように目を
――
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