10【鷺宮優奈】頼れる女教師
オアラ洞穴内――。
先頭を進んでいた
「何なのよ……これ」
すぐに私や他の生徒たちも追いついて、彼女と同じように目の前の
私たちの希望を打ち砕くように積み重なった岩の壁。
ここは、頼れる女教師、
「さっきの揺れで、新たに落盤が起こったのね!」
「そんなの見れば分かるよ、先生……。問題は、この先にどうやって進むのか、ってことですよね?」
「あ……う、うん……」
わずかに苛立たしさを含んだ藤崎さんの口調に、私は思わず肩を
彼女の言う通り、今考えるべきはこれからのこと。
藤崎さんはこの先へ進むことを前提にしているみたいだけど、私は引率として、どうすれば生徒たちの安全確保を第一に考えなければならない。
――やっぱり、引き返して正規のレスキュー隊が編成されるのを待つべきかな?
そんな考えが頭を過ぎった、その時。
洞穴の奥から聞こえてきたのは大きな爆発音。続いて、地響きと共に洞穴が微かに震え、天井や岩壁から小石がパラパラと落ちてくる。
「な、何、今の!?」
「立夏の魔法じゃ?」
キョロキョロと周囲を見回す藤崎さんと、それに答える
――魔法……ということは、
皆も私と同じことを考えたのだろう。一様に顔を輝かせたメンバーの中で、しかし、
「洞穴を振動させるだけの威力。恐らく立夏のギガファイアだと思うけど……」
「問題は〝なぜギガファイアを撃ったのか〟か……」
石動さんの懸念を悟って、語を継いだのは森くんだ。
「脱出のためか、あるいは……」
彼の言葉に、場は再び緊張した空気に包まれる。
皆の頭に浮かんだもう一つの可能性――それは〝強敵との遭遇〟だから。
「お――い! ここの下なんだけど……」
岩礫の山を調べに行った
「ここに詰まっている砂利を取り除けば、なんとか通れそうじゃね?」
皆で彼を囲むように集まり、指差された辺りを松明で照らす。
岩壁に、斜めに寄りかかるように止まった岩盤の下に、大小の石が詰まっているように見える。砂利と呼ぶにはかなり大きな物も混ざっているようだけど……。
「よし。そこの石を取り除いてみよう」
即断即決の石動さん。私より、よほど先生らしいな。
「このまま進むにしても、正規のレスキュー隊を待つにしても、少しでも作業を進めておいた方が救助も早まるだろう。……どうですか、先生?」
「う、うん……でも、下手に動かして、さらに崩れたりしないかな?」
「もちろん十分に注意はしますが、見たところこの岩盤が支えになっているので、大丈夫じゃないでしょうか」
石動さんに言われて、私も顔を上に向ける。
天井から崩れ落ちた大小の
「そうね……うん、注意しながら、やってみましょう!」
◇
「よぉ――し。上、崩れないように気をつけて、ゆっくり引っ張って!」
石動さんが、撤去作業中の男子二人に声を掛ける。
私はと言えば、少し離れたところで、上に積もった土砂に変化がないかを見張っている係に任命された。
こんなポジションでいいのかな?と、私も手伝いを申し出たのだけど『先生は、離れていてください!』と、満場一致で制止されたので……仕方ない。
最近、みんなにドジっ子だと勘違いされているようで不安なんだけど……私を気遣うように眉を八の字にした石動さんの目を見て、なんとなく悟った。
『唯一のヒーラーである先生に何かあったら困りますので』という、彼女の心の声を聞いた気がしたからだ。
なるほどそういうことか。
それならそうと、石動さんも口で言ってくれればいいのに。
――先生、安全な場所で、しっかり見張りを頑張るね!
「「ぬぐぐぐぐ――――ぅ!」」
川島くんと森くんが大きな石の撤去を始める。
石の両側に指をかけ、呼吸を合わせて手前に引くと、ズリッと数センチだけ動いて、隙間に詰まっていた小石がコロコロと転がり落ちてきた。
「上は、大丈夫よ!」
私が声をかけると、もう一度二人が力を合わせ――。
「「ぬんぐううぅぅぅ!」」
不意に大石がグラッと傾き、勢い良く手前へ転がり落ちてきた。
ガッコ――ン!と大きな音を立てて地面に当たり、真っ二つに割れる。同時に、大石の向こうに溜まっていた細かい砂礫も一気にこちらへ流れ出てきた。
男子二人が割れた大石を撤去する間、ポッカリと開いた穴に
「向こう側が見えるぞ!」
土砂を撤去し始めて約一時間半。たった数センチではあるけれど、ようやく向こう側へ繋がる隙間が開いた。
ずっと動きっ放しだった男子二人がさすがにへたり込む。
「後はそこまで大きいのはなさそうだし、あたしたちも手伝おうよ!」
藤崎さんの言葉に、石動さんも頷きながら。
「お疲れ様。しばらく私たちで作業を進めるから、おまえたちは休んでていいぞ」
男子二人に声を掛ける。
でも、川島くんと森くんは顔を見合わせて――、
「馬鹿言うな!」と、再び腰を上げる。
「どけどけ! ここまでやって、おいしいとこだけ持っていかれてたまるかよ。先生、俺と歩牟にヒール、頼んます!」
「あ、うん!」
ヒールと言っても、食事や睡眠を取れない中での効果は限定的だ。
それでも、施術が終わると元気な素振りを見せて穴の中へ入っていく二人。
川島くんはああ言っていたけれど……まだ二、三十センチ台の岩は沢山残っているし、うっかり手を滑らせでもしたら爪先を潰しかねない。
やっぱり、女の子に任せられる作業ではないよね。
そう考えて男子が奮起してくれていることは、石動さんも分かっているんだろう。
二人に『ありがとう』と声を掛けたあと、藤崎さんの方を顧みる。
「じゃあ私たちは、後ろで男子が取り除いた岩を脇に
「あ、うん……分かった! しっかり見張ってるね!」
不安を押し殺して黙々と作業を続ける生徒たちを眺めながら、私も引率として……頼れる女教師として、もっと他にできることはないかと考えを巡らす。
――せめて、声を出して元気付けるくらいはしてあげないと!
「よぉ――し、ここから生きて帰れたら、先生がみんなに美味しい物おごってあげるからね!」
すかさず、私の方を振り返る藤崎さん。
「ちょっ……先生、それ、フラグ……」
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