03【長谷川麗の場合】その参
最初の設問で〝ジャパネスタ〟のチェックボックスをクリックすると、続けて次の質問を目で
最初の数十
その辺りは機械的に答えられるので大して頭も時間も使わずに済んだが、その後、設問の内容は徐々に奇妙なものに変わってゆく。
●あなたの理想の世界に電力はありますか?
――電力? 新サーバーの話よね? ファンタジー世界に電力は要らないでしょ。
NO!
●あなたの理想の世界にガスはありますか?
――ガス、って……ファンタジー世界にガスコンロとか!
NO!
●あなたの理想の世界に水道は必要ですか?
――水道くらいは……あってもいいとは思うけど。
とりあえずYES。
●上記の質問でYESと答えた方に質問です。
●あなたの理想世界の水道は、どのような物ですか?
□上水道 □井戸 □手漕ぎポンプ □公共の水汲み場 □その他
――手漕ぎポンプ辺りが落とし所かなあ。……と言うか、なんでこんなにライフラインを詳しく? ゲームの中で電気ガス水道に関わる描写なんてあった?
●あなたの理想の世界人口はどれくらいですか?
□ 八十億人 □ 三十億人 □ 十億人 □ 一億人 □ 五千万人以下
――もう……何なのこれ? ファンタジーRPGに世界人口の概念とか要る? 数字にもちょぉ開きがあるし。
とにかく、設問全てが何と言うか……非常に
単なるゲームの世界設定ではなく、新世界を一から構築しようとしている――。いくつかの設問に答えた段階で、すでに麗はそんな印象を受けていた。
面倒臭さから全問適当なところにチェックしていこうにも、『この問いには右から二番目をチェックして下さい』なんていう設問も混ざっているので、完全に機械的な回答をするわけにもいかない。
そもそも、いい加減な回答をしていると見られて
麗は椅子に浅く座り直すと、モニターに顔を近づけて気合を入れ直した。
――どうせ今日の
途中、夕食や入浴で席を離れたり、初美とのチャットに時間を取られたりしたせいで〝トータル三時間半〟と見積もっていた所要時間は大幅に超過していく。
残り数ページとなった時点で麗がふとスマホを覗くと、時刻はすでに二十三時を回っていた。
そこからは、いよいよおかしな設問が続く。
●あなたが通う学校を理想の世界にどの程度リンクさせますか?
(
●学校での人間関係を引き継ぐ所属グループを選んでください(複数回答可)
□ クラス □ 部活動 □ 委員会 □ その他【____】
●特に設定を指定したい人物とその内容を記入してください(最大二十名)
人物名【____】ジョブ【____】特記事項【______】
学生以外のユーザーもたくさんいるはずなのに、学校と限定されているのも、回答者である麗のことを見透かしているような質問だ。
いや、それ以上に、全世界でプレイされているネットゲームに彼女の知り合いを個人名で登場させるなど、どう考えてもおかしい。
――一体、こんな質問が新サーバーのサービスにどう生かされるんだろう?
そう考えたあと、すぐに思い直して首を左右に振る麗。
先日、たまたま深夜放送で見た古い映画のタイトルを思い出していた。
――これはベータテスターの抽選なんかじゃない。よく分からないけれど、私は今〝
とりあえず、実在の人物の特記事項にうっかり自分の妄想を書き込んだりして、万が一情報が流出でもすれば……。
――間違いなく、社会的に殺されちゃう!
麗は、温めていたBL設定を思う存分表現したい衝動を抑え、とりあえず〝特になし〟を無難にチェック。
遂に、ラストクエスチョンに辿り着く。
●あなたは、これまでの回答を基に改変された世界への移住を希望しますか?
――移住……ゲームプレイの
当然、麗は〝YES〟にチェックを入れて送信ボタンをクリックする。
モニターの中でゆっくりとノートが閉じ、スタート時と同じ画面に戻った。
最後に出てきたメッセージには……。
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
改変後の世界への移住が認められた場合あなたの元へこのノートを届けます。
そのノートを枕元へ置いて寝ることで改変後の世界へ移住できます。
但し、ノートが届いて七十二時間以内に移住を完了しない場合、
移住の権利は他の方に移り、あなたの権利は永久に失われます。
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
もう一度麗が画面をクリックすると、ノートの画面は消え、いつの間にかL・C・Oにログインしていた。
いつもの見慣れた噴水広場で、すぐに知り合いが声をかけてきたが、『ごめん、今日はもう落ちるね』と言い置いてログアウトする。
すぐにゲーム関連の掲示板をチェックしてみる麗だったが……。
――やっぱり、アンケートの情報はないかあ。
黒いノートについては何件かの記事が見つかったが、すべてゲームの不具合扱いで、運営会社への不平以上の内容は見当たらない。
設問に関する情報はおろか、アンケート画面を見たと言う報告すら皆無。
――本当にあったことなのかな?
数時間もかけて答えていたはずなのに、終わってみると麗には不思議と現実で起こった出来事には思えなくなっていた。まるで夢でも見ていたかのような浮遊感……。
――あぁ~、とにかく疲れた! 今日はもう寝よう。
時間は、すでに深夜零時。
乾いた瞳からコンタクト外して洗浄機に入れると、椅子から立ち上がりベッドへ向かう。
……と、次の瞬間、麗の肌がゾワリと粟立った。
枕の上に、先程までパソコンの画面に出いていた物とそっくりの〝黒いノート〟が置かれていたからだ。
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