02【長谷川麗の場合】その弐

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 ようこそ、世界改変のページへ。

 これより、あなたが求める理想の世界を構築するための質問を開始します。

 中断された場合は、理想世界の住人たる資格を失いますのでご注意下さい。

 また、最後までお答え頂いても、住人資格を得られる保障はございません。

 ご了承いただけましたら【開始する】をクリックして先へお進み下さい。

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 ――なんなのこれ? 新サーバーのβ版ベータテスターでも募集してるのかな?


 なんにせよ、この状態を抜け出すには電源を落とすか先に進むしかない。


 ――何かやるにしたって、何でよりによって今日なのよっ!


 時計を見ると、イベント開始から既に一時間近くが経過していた。

 イライラしながら【開始する】を左クリックするうらら


 直後、画面一杯に表示される、質問項目とチェックボックス。

 質問は全部で三十項目だったが、左下に小さく表示されているページ数を確認すると「1/14」とある。

 全部で十四ページ――つまり、全て同じようなレイアウトだと仮定して四百項目以上の質問があることになる。


 ――それを全部答えろと? アホかっ! 暇な時だってやりたくないよ!


 再び時計を見て眩暈めまいを覚える。


 ――これ、絶対イベント開催中に終わらないよね……。


 麗は一旦机から離れ、スマートフォンを片手に大きなクッションの上で横になるとメッセンジャーをタップした。

 メッセージの送信先は黒崎初美くろさきはつみ――一緒にL・C・O(ラストクレイモアオンライン)をプレイしているゲーム仲間だ。


「LOC スタート画面おかしくなった」


 一分と待たずに初美からの返信。


『今 パーティーの空き待ち中。あー、もしかしてあのノートみたいな画面?』

「うんうん」

『私もわけわかんなかったから 一回電源落としたら消えたよ』


 ゲームが正常に出来てるということはサーバーダウンではないらしい。


 ――やっぱり、強制終了が正解だったかあ。

 

「そっちでは 何か噂になってる?」

『全員に出たわけでもないみたいよ 見た っていう人が何人かいるくらい』

「私も電源落とすべきかー」

『麗 まだその画面のままなの?』

「うん てか クリックしたら変なアンケートページに飛ばされたw」

『クリックできたんだ あれw』

「うんうん 何かのアンケートみたい 四百項目以上あるっぽいw」

『イベント期間中に 嫌がらせじゃん 新手のデスペナかよwwwww』

「多分 内容みると 新サーバーか何かのベータテスター募集っぽい」

『へー! 私もそっちやってればよかったなあ 人数多過ぎて狩りできん(-"-;)』


 β版とは、新しいゲームサービスが開始される前に解放されるテストプレイ用のサーバーのことだ。

 人数を限定してプレイしてもらい、サーバーへの負荷やゲームの不具合をチェックした上で本サービスに移行するのが一般的だ。

 通常、β版のプレイデータの全部、または一部は本サービスにも引き継がれるため、β版のプレイはネットゲーマーの間でも人気のプレミアムとなっている。


 ――今からインしても混んでそうだし、大人しくアンケートやってようかなあ。


 気を取り直して、再び机の前に座り、


 ――え~っと、最初の質問は、っと……私が主に活動してるサーバー?


 麗は〝ジャパネスタ〟のチェックボックスをクリックした。


               ◇


 麗の話を聞きながら、世界改変や黒いノートなど、俺たちの体験といくつか共通点があることに気付く。

 

 リリスも、机の上から麗の話を興味深そうに聞いている。


「じゃあ、元の世界では、黒崎さんとはゲームを通じて知り合ったんだ?」


 俺の言葉に麗が「んっ?」と小首を傾げる。


「同じゲームをしてたから仲良くなった、ってのはあるけど……知っていたってだけなら、もっと前からよ」

「そうなんだ。どういう知り合い?」


 麗と黒崎が、不思議そうな表情で顔を見合わせる。

 これ、最近よく見てた光景だ……。

 俺が頓珍漢とんちんかんな質問をした時の、華瑠亜かるあ立夏りっかが見せる戸惑いの表情と一緒なのだ。


「どういう、って……クラスメイトじゃない。船橋第二高校、二年B組の……」

「はあ?」


 クラスメイト? 黒崎が?


 もう一度、麗の隣に座っている美少女の顔をまじまじと見る。

 俺の視線に気付くと、頬を染めながら目を伏せる黒崎。


 ――誰だよ、この子?


「まったく覚えてないんだけど……」


 俺の言葉に、二人とも驚いたように目を見開いて――。

 しかしすぐに、何かに気が付いたように、麗の眼鏡がキラリと光る。


「私の事は、覚えてる?」

「そりゃ、麗は覚えてるよ。教室でよく変な本読んでたじゃん。勇哉ゆうやと話してるのも何度も見かけたし……」

「変な本ってなによ! ……っていうか、私が川島くんと?」

「あ、ああ。ゲーム仲間だったんだろ? その〝L・C・O〟とか言うやつの」

「川島くんがL・C・Oやってたなんて初耳よ?」


 ええっ!? 一体、どうなってんだ!?


 少しの間、麗は頭の中で考えをまとめるように首を捻っていたが、やがて何かしらの結論に辿り着いたのか、うんうんと小さく頷いて――、


「なるほどね……なんとなく分かった気がする」

「何が?」

「うん、まあ……それはまたあとで。とりあえず、話を続けていい?」

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