07.あいつを助けなきゃ!
対戦相手となるE組の方は、当然だけど俺たちほど男女比も極端じゃない。何人かは元の世界で見知った顔もあった。
「勝てますかね?」
「討伐時間を競わせることで効率的な連携を心がけるように
——そうなのか。でも、さっきの華瑠亜の様子は……。
「さっきの、藤崎さんの言ってたことを気にしてるの?」
「え? あ、はい、まあ……」
「パーティー特性があるんだから、まずは確実に倒すことの方が大事だよ。もちろん勝率点の加算もあるから頑張るに越したことはないけどね!」
——元の世界の華瑠亜も負けず嫌いだったからなぁ。
ほどなくして、カラーン、カラーンと鳴り響く鐘の音。
それぞれのフィールドでダイアーウルフを繋いでいた鎖が解かれ、同時に両組のメンバーも動きだす。
「
隣のフィールドにも目を配りつつ
こちらは立夏の魔法発動まで約四分。それまでに
「こっちもなかなか頑張ってますよね」
初めて目にすることなので印象で言ってるだけだけど、隣りで先生も頷く。
「基本は
どうやら魔物は、基本的に攻撃してくる対象に反撃をするという習性があるらしい。
いわゆる〝
ただ、可憐の動きが少しぎこちなく思える。
「可憐、もしかすると両手剣の方が活躍できるかも知れませんよ?」
元の世界では剣道部だったことを思い出して話してみると、
「ええ。石動さんが両手剣を持てば噛み付いてこないダイアーウルフなんて一人で倒してしまうでしょうけど、それだとチームワークの査定はできないでしょう?」
「あ、あれを一人で!?」
「さっきも言ったけどこの戦闘実習は連携面を重視した加算法だから、藤崎さん瞬殺しちゃったら評価点としてはむしろ低くなっちゃうの」
「な、なるほど……」
——あいつ、両手剣ならあれを瞬殺できんの!?
逆に言えば、本来の戦闘力を抑えて臨むくらいの余裕はあるということか。
見た目にビビッていたけど、もしかするとそれほどの強敵ではないのか?
そう思い始めた矢先、不意に乱れが生じる。
ダイアーウルフの
体勢を崩しながらもとっさに突き出したショートソードの剣先が、運悪く魔物の口輪の隙間に潜り込んだ。
続けて、ガギンッという鈍い金属音。
気がつけば、可憐の右手から弾かれたショートソードが宙を舞っていた。
同時に、魔物の頭の周囲で何かがキラリと弾ける。
——金属片? さっき変な音がしてたけど、武器が破損したのか?
「狼さん、こっちこっち!」
可憐が押し込まれて距離が開いたため、両手のダガーを投擲して魔物の
ダイアーウルフが紅来へ飛び掛かった直後、
「今度はこっち!」
華瑠亜の射た矢が魔物の背に刺さり、徒手となった紅来と可憐からから魔物のヘイトを引き剥がす。
さらに、ダイアーウルフの
……が、これは振り回した頭に弾き返された。
——あ、れ?
何かが、乾いた音を立てて地面に落ちた。
あれは……鋼の口輪!?
先刻見えた金属片は、武器ではなく口輪の破損だったのか!
口輪による封印は魔物の動きも鈍くしていたのか、先ほどまでとは比較にならない身のこなしで華瑠亜へと突進するダイアーウルフ。
しかも今度は、解放された巨大な
片手剣を拾った可憐が追いかけるが間に合いそうにない。
「藤崎さん、逃げてっ!」
隣から聞こえる優奈先生の叫び。
その声色と
——華瑠亜っ!
あの鋭いダイアーウルフの牙に噛まれたら、ものすごく痛そうだ。
そもそも、生きていられるんだろうか?
しかし、恐怖心に縫い止められるよりも先に、俺の両足は最初の一歩を踏み出していた。
そのとき脳裏に
特別好かれていたわけじゃない。
それでも、帰りはたまにコンビニでアイスを買って食べたり、くだらない冗談を言って他愛なく笑い合ったり。
準備室ではさんざんな言われようだったけど、それなりに仲良くやってたんだよ、元の世界では。
そんな女の子が、目の前であの恐ろしい魔物に噛み付かれるシーンをチラッとでも思いかべた瞬間、体が勝手に動き出していた。
あれほど怖かった魔物だけど、仲間が戦っているのを見ているうちに『自分でもなんとかできるかも?』なんて思い始めていたのかもしれない。
あるいは、自分でも気づかないうちに何か役に立ちたいという思いが
理由は分からない。
ただ、今、俺の頭の中で
——とにかく、
必死に次の矢を
かと言って、逃げたところで……。
有効な選択肢がないと悟ったのか、ついに諦めて棒立ちになる華瑠亜。
そんな彼女を、俺は真横から思いっきり突き飛ばした。
——間に合った!?
と、同時に今まで経験したことのない激痛が左半身を駆け抜ける。
目線を落とすと、ダイアーウルフの牙が俺の左肩から上半身にかけて深々と突き刺さっているのが分かった。
肋骨が浮き上がり、傷口から勢いよく
息を吸っても、聞こえるのはヒューヒューと空気の漏れるような音だけ。
完全に片肺は潰されたようだ。
——即死じゃないってことは、心臓は生きてるのか。
脳だけはやけに冷静だ。
俺を
その激痛に一瞬で意識が断ち切られそうになる。
「あっ……あ……あ……ゴボッ!」
喉を塞ぐ生温い液体のせいで叫び声すら上がらない。
溢れ出た赤い
「紬ぃぃぃ——っ!!」
俺を呼ぶ声が聞こえて、辛うじて意識を繋ぎ止める。
目だけを動かすと、霞みゆく視界の
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