04.トリップ!ハーレム!チート!
部活は弓道部に所属しているが、大して熱心な部でもないので、適当にのんびり練習して夕方五時にはきっちり終了する。
きちんとした指導者もいない公立高校の運動部なんて大抵そんなものだ。
ファミレスのアルバイトがない日はそのまま帰宅。
すぐに宿題や予習などを終わらせ、あとは夕食、風呂、そして自室で寛ぎタイム……というのがだいたいの日課。
普段は友達とチャットをしたり、ゲームやアニメなど趣味で気ままに過ごす時間帯だが、今日は勇哉から渡された黒いノートを鞄から取り出して、ベッドに横になる。
――
さっそくノートを開いてみると、
〝トリップ! ハーレム! チート!〟
のっけから視界に飛び込んできたのがこの、デカデカと書かれた文字。
――なんだこれ?
よく見ると、最初の数ページは破り捨てられた跡も見て取れた。
書き間違いでもして捨てたのか?
二行目には夢権利者としてあいつの名前、
――それじゃ『
もしかしてあいつ、俺の苗字も知らないんじゃないだろうな?
とりあえず袖の部分だけは消して
そして、冒頭のワードの意味についてだが――。
トリップというのは主人公がどこか別の世界に召喚されたり、あるいは転生したりするような設定のことだ。
異世界転生や異世界転移という言葉はよく聞くが、要はその総称。
もちろん、ノートに書かれた夢の主人公は夢を見る人、つまり、俺か勇哉となる。
で、その異世界の設定はというと――。
〝世界設定〟と書かれたページに、ゲームの公式ウェブページをプリントアウトした紙が貼り付けてあった。
これ、勇哉が最近ハマっているMMO(多人数型オンライン)RPGじゃん!
ありがちと言えばありがちなファンタジー設定を斜め読み。
あいつ、夢の中で超大作RPGでもやるつもりか?
とりあえず分かったことは、和製ファンタジーによくある中世ヨーロッパ風を基本としながらも、現代風のモチーフも所々に混在した雑多な世界観、ということ。
町の外にはモンスターなんかも
二つ目のハーレム、というのは、とにかく主人公が異性にモテまくる! という、これも
キャラクター表で、筆頭に書かれているのが
――
と、思わず
別に同級生がダメというわけじゃないが、生徒と教師の間にははやり禁断の壁が立ちはだかっている……気がする。
ある程度現実味のある同級生との恋愛に比べると、先生相手の背徳ロマンスなんて夢の中ならではだろう。
ちなみに優奈先生は夢の中でも教師で、
続けて、ノミネートされている面子をざっと流し見ると、クラス内でも可愛いと思われる女子五人が並んでいた。
同級生一人目は
群青色のロングヘアが似合う、クールビューティーという修辞がピッタリのしっかり者。
たまに手厳しく叱られている男子もいたりするが、ファンにとってはそれがまた堪らないらしい。
可憐の職業は――
剣道部のあいつにはピッタリだ。
俺と同じ弓道部の
やっぱり
捻くれた性格といい、トレードマークのツインテールといい、アニメやラノベ風に表現するならツンデレヒロインと言ったところだろう。
ほとんど話したことがなく、正直、眼鏡をかけている文系少女くらいの印象しかない。
一人でいることが多く、大勢とつるんでいるシーンは見たことがないが、大人しい……というよりも我が道を行く、といったタイプだ。
そう言えば最近、勇哉と話してるのはよく見かけるな。
二人で同じネットゲーム――しかも、スマホではなくパソコン専用のMMORPGをプレイしてるらしい。
俺も一度誘われたことはあるが、ゲームなんて暇な時間に寝転がりながらするもので、パソコンに噛り付いてまでやるようなイメージは持てなかったので断った。
他の二人も、
いつも無表情で、必要以上のこと……どころか、必要なことすらほとんど喋らない立夏。
逆に、人を
それぞれの職業の役割も細かく書かれているが、面倒なのでここも斜め読み。
イメージでだいたい分かるしな。
全てクラスの女子から選ばれていることに、最初はあれ? と思った。
学校中見渡せば、男子に人気がある可愛い女生徒はまだまだいるからだ。
しかし、それを夢の中で具現化させるのはあくまでも自分たちの脳。
よく知らないの他のクラスの女子を無理矢理登場させても、うまくイメージできるかどうか自信がない。
それなら、俺も勇哉も、しっかりと記憶が定着しているクラスメイトの方が……という判断は正しいように思える。
――深いぜ、勇哉! こういう部分の回転だけは尊敬するよ。
最後のチートというのは、英語の〝cheat〟が語源で、本来は〝騙す〟〝ズルをする〟といった意味だが、転じてサブカルの世界では、神様などから貰った特殊能力などでズルいほどの強さを発揮することを言う。
これも、ラノベやアニメなんかでは人気の設定と言っていいだろう。
主人公の職業は
ふむふむ……まあまあだな。
バカにするつもりだったが、ゲームの設定資料集的なノリで、わりと真面目に目を通してしまった。
正直、こんな設定の異世界転生アニメがあったら、よほど作画や脚本に見る部分がない限りは、量産型テンプレアニメ! なんて辛口評価にしていただろう。
しかし、いざ自分が本当にその世界に
受験や就職の心配もない、ファンシーでファンタジーな世界で、どっぷりぬるま湯に浸かりたいと思うのが普通じゃないだろうか?
もちろん苦労なんてしたくないし、異性にだってモテてみたい。
そう、自分で体験するならチーレムバンザーイ! なのだ。
どちらか言うと少し蔑んでいた
世知辛い現実を生きながら、なんで空想の世界に行ってまで苦労しなきゃならんのだ? という感覚なんだろう。
――せっかくだし、俺も何か書いておいてやるか。
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