02.登場人物はクラスメイト

 三日後――。


 一限後の休み時間、教室棟とは別棟の滅多に生徒も来ない自販機コーナーへ、なぜかリュック持参で俺を呼び出す勇哉。


「何だよ、コソコソと?」

「あのさ、例のNASAのアレなんだけど……」


――なさ?


「………………」


――あ……ああっ、あれか! マジで忘れてた。


「あ~、はいはい、夢の、アレね! そう言やどうなった? あのクソメガネ」

「クソメガネ言うなって! それがさ……」


 と言いながら、リュックに手を突っ込んでごそごそやり始める勇哉。


「届くには届いたんだけど……」

「ほう。思ったより早かったじゃん」

「うん、そうなんだけど……届いたのがこれなんだよ」


 勇哉が、リュックの中から取り出した物、それは……、


「何これ。スケッチブック?」


 A4版位の黒いノートで、表紙には白いインクで何か書いてある。


【こののうとに みたいゆめおかいてねると そのゆめがみれます】


――このノートに見たい夢を書いて寝るとその夢が見れます?


 ミミズが死んで干乾びたような文字に、幼稚園児より怪しげな文章力。

 とても日本人が書いた物とは思えない。


「どう思う、これ?」

「どうもなにも……外国人っぽい、っつう共通点はあるけど、とてもNASAには見えないな」

「だよな。達筆すぎるっていうか……」


 達筆……って言うのか?


「でも、メガネじゃないけど、一応好きな夢を見るとかって書いてあるし、偶然にしては出来すぎなんだよなあ」

「急に商品の仕様が変更になったとか……」

「眼鏡からノートにか? 怪しくね?」


 そもそも、怪しむとか、そういう生易しいレベルじゃないだろ。


「それにこれ、宅配便じゃなくて、部屋の窓にこのまま立て掛けてあったんだよ」

「何それ! こっわ!」

「だろ? 細かいことは気にしないことで有名な俺でも、さすがにツッコミ所が多過ぎて当惑してるぜ」


 そりゃそうだろうな。俺なら除霊を頼むレベルだ。

 ……って、なんだこれ?


 何気なくノートをペラペラ捲ると、何やらビッシリと文字が書きこまれている。よく見ると、勇哉の字だ。

 他にも、何かウェブページをプリントアウトして貼り付けたような箇所も。


「…………?」

「ああ、それは、せっかくだし、試しに何か書いてみようか思ってさ」


 当惑してたんじゃなかったのかよ。


「試しって量じゃないだろ、これ」

「実はさ、商品届いたらこんな設定の夢にしようって、忘れないように箇条書きでメモっといたんだよね」


 その中の一つを基にして書いてたらなんだか筆が乗っちゃってさぁ、と、勇哉が半笑いで頭を掻く。

 こんなことにそこまで真剣になれるおまえって、ほんとすげぇ――よ!


「で、夢は? 見れたの?」

「いや、それがさあ、書きかけのまま机に置きっぱなしにしちゃったんだよね」

「それじゃダメなん?」

「そういうのって、枕元とかに置くもんじゃないの、普通?」

「普通がよく分かんねぇけど……」


 まあ、言われてみればそんな気もする。


「でさ、一応二人で買ったもんだし、お前も何か書くかと思って持ってきたんだけど……」

「律儀かっ! 俺はいいよ、あからさまに怪しいし。勇哉が先に使えよ」


 まさかほんとに、五千円ずつ割り勘したつもりでいたりして……。


「いやいや、ほら、紬の方が一ヶ月とはいえ年上だし、お先にどうかなって思って……」

「おまえ、今まで年上を敬ったことなんて一度もないだろ!」


 ははぁん……さては勇哉、オカルト展開にビビッてんな?

 すぐわけの分からない話に飛びつくくせに、いざとなると尻込みするところあるからな、こいつ。


「い、一応、俺たち共通の夢ってことで、登場人物はクラスメイトにしたんだぜ!」


 煮え切らない態度に見えたのか、さらに俺の興味を引こうと勇哉が続ける。

 それは見抜きながらも、しかし、クラスメイトと聞いて俺も興味が湧いてきた。


 勇哉が試した後じゃその伝説のお笑い設定も闇に葬られかねないな。

 今のうちに読んでおくのも悪くないか。

 なんだったら写真も撮っとくか?


 始業のチャイムが鳴り始める。


「分かった。じゃあ、今晩目を通しておくよ」と、ノートを受け取る。

「おう! 紬も、何か書き足したいことがあったら書いていいぞ」

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