02【リリス】ちっぱいで童顔のリリスには朗報だな
「夢は夢でも、こんなお色気に特化した淫夢ばっかりだとは思ってなかったんだよ」
授業内容だけじゃない。
胸と腰だけを隠した黒いボンデージファッションにニーハイブーツとウェットルックグローブ。背中にはコウモリの翼を
信じられないことに、こんな小悪魔コスプレでもしているような、やたら露出部分の多い格好が夢魔科の制服なんだよ。
魔女科なんてワンピースに三角ウィッチハットだし、魔戦士科も
机に突っ伏していると、背中の翼を、後ろの席からティナが意味もなくポンポンと
「あんたのお母さんだってサキュバスだったんでしょ? その辺のこと、詳しく聞いてなかったの?」
——一応、聞いたは聞いたんだけどねぇ……。
はぁ……と、小さく息を吐いて再び後ろのティナを振り返る。
「サキュバスなら旦那は選び放題よ、って言われただけ」
「旦那って……サキュバスが選び放題できるのは相手がアホな人間の場合だけよ?」
「うん。母さんがアホな人間と結婚してたことを忘れてた」
「何を悩むことがあるんですか、リリス?」
隣の席のシトリーも、眼鏡を光らせながら会話に入ってきた。
スラリとした高身長ボディから溢れ出るフェロモンは優等生の証!
「人間の殿方など、セクシーポーズで甘い声をかければすぐに尻尾を振ってくれるんですから、楽なものじゃありませんか」
「それな! 難しく考え過ぎなんだよリリスは」
「お色気お色気って、二人とも夢魔脳をこじらせ過ぎなんだよ! ふしだら! ビッチ!」
「おう、褒めても何もでないぞ?」
——褒めてないわよ!
「人間の殿方を誘惑するのに、お色気以外に何があるんです? まさか、裸にならずに誘惑しようなんて、そんなイヤらしいこと考えてるわけじゃないですよね?」
イヤらしいの基準が違うんだよ!
これだから夢魔って連中は……。
「あのね二人とも、昔と違って今は、男だからってエロ
「今も昔も、一皮剥けば殿方なんてみんなエロ河童ですわ」
——無視、無視。
「私もね、いろいろ調べたんだよ。最近の人間界について」
「あら、例えば?」
「例えば、人間界の日本って国では、別にボインでセクシーなだけがモテるわけじゃないの。ちっぱいだって、童顔だって需要があるし……」
「ちっぱいで童顔のリリスには朗報だな……
再び茶々を入れてきたティナの頭頂部を、すかさず引っ
「ツンデレとかヤンデレとかダンデレとか……男子の趣向も多様化してるんだよ!」
「リリスは何デレなの?」
「私は別に……あえて言うなら……ただの、クールビューティー?」
「……ややウケ」
「ギャグじゃないわよっ!」
「とにかくさ、クーデレだってデレはデレでしょ? お色気使わないでどうやってデレるのよ?」
——この子たちは、他にデレ方を知らないのかっ!?
「百歩……いえ、千歩譲ってよ? もし二人が言うように過激なお色気作戦に出るとしても、それはやっぱり誰でもいい、ってわけにはいかないよね?」
「そりゃまあ、性欲旺盛で精子も濃い方がいいわよね」
「そう言うことじゃない! ちゃんと私が、この人なら落としたい! って思えるような……そう、愛がなきゃ!」
「愛って……悪魔が一番口にしちゃいけない言葉だぞ?」
「ハァ……。夢魔相手に話してたって
「リリスも夢魔だって何度言ったら……」
「もういい、分かった!」
プリントを片付けて席を立つ。
「とにかく私は私で、お色気以外の方法を考えるわ!」
「そのコスチュームでそういうセリフを言われても、説得力ないのよねぇ」
「コスじゃないし! これは制服だから仕方ないし!」
仮にお色気路線だったとしても、スッポンポンになるだけが唯一の手段というわけではないでしょ?
いえ、もしかしたら、あけすけな方法なんて今どき流行らないまであるよ?
「もっとこう……萌え重視のソフト路線みたいな方法もあるはずだよ」
「握り拳を固めてるとこ悪いんだけどさぁ……その萌え路線で、どうやって精液を採取するつもり?」
「あ……」
——忘れてた。
「そ、それはそれで、そのときまた、考えるよ……」
「で、その純愛相手とやらは、どうやって探す気ですの?」
「いい質問ね委員長。以前、授業で習ったやつよ。夢ノートを使うわ!」
夢ノート——。
夢魔が利用する基本的な
人間がそこに見たい夢を書いて寝ると、呼び出された夢魔が人間に希望通りの夢を見せるというアイテム。
本来は、人間に渡して自由に夢の世界を楽しんでもらう代わりに、その人間とさまざまな契約を交わすことができるという、いわゆる契約促進型のアイテムだ。
今回の課題には誘惑技術の査定も入っているので、契約道具としてこのノートを使うことはできない。
——でも、対象の趣味趣向を調べるだけなら問題はないはずよね。
どんな夢を希望するのか?
あるいは夢の中でどんな行動をするのか?
自分しか見ない夢の世界だからと、人はそこへ自分の本性をさらけ出してくる。
それを分析すれば、本気で誘惑したいと思える男子がきっと見つかるはず!
再び、シトリーが心配そうに眉根を寄せて、
「最近はノートの力を信じるような人間も少なくなっていると聞いてますわよ?」
「中には、信じるアホもいるはずよ!」
「あんたの純愛相手ってアホでいいわけ? ……って
「うるさい! 購買部に行ってくる!」
ほんとにあいつら、ああ言えばこう言う、こう言えばああ言う!
人の考えにケチばっかりつけて!
「すみませぇ~ん。夢ノートくださぁい」
「はいどうぞ。百五十ダミエンです」
あれ? 夢ノートって、こんな黒の革張りだったっけ?
表紙にも何も書かれてないし、なんとなく年季も入ってるような……。
前に先生に見せてもらったのはピンク色で、もっとチープな感じだったと思うけど……まいっか。デザイン変更でもされたのかな?
でも、さすがに何も書かれてないんじゃ渡された方も意味不明だよね。
え~っと、日本を調べた時に手に入れた五十音図表が鞄にあったはず……。
あ、これだこれだ!
異界語を読むことは魔力でこなせても、書くには文字を覚える必要があるなんて、ほんと不便だわ。
【こののうとに みたいゆめおかいてねると そのゆめがみれます】
このノートに見たい夢を書いて寝るとその夢が見れます——。
よし! 表紙はこれで完璧!
あとはこれを、目ぼしい人間の男子にどんどん回していくだけね。
これできっと、ただのエロ河童じゃない好青年が見つかるはず!
今日は終業式だからこの後は授業もないし、さっそく行ってみるか。
悪は急げよ!
校舎裏で人間界へのワームホールを開くとさっそく足を踏み入れる。
と同時に、
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