さきゅばす☆の~と!【改稿版】
緋雁✿ひかり
第一部 異世界サマー・バケーション(前編)
序章 プロローグ
01【リリス】無理っ! 絶対無理!
——無理、無理、無理っ! 絶対無理っ!
回ってきたプリントの束から一枚を抜き取り、残りを後ろの席に回しながら、手元に残った〝夏休みの課題プリント〟なるものに視線を落とす。
ターゲットにした異性の特徴を書きなさい?
ターゲットの欲望内容についての調査方法?
誘惑コスチュームについて特に気を使った点? ってイミフなんですけど!
なお、下半身のみ何も着用しなくても可、って……気遣いなしが最強じゃん!!
——このプリントは、馬鹿が書いたのかな?
でも、眉間の
「プリント、全員に行き渡ったかあ?」
見栄を張ってA寄りのB程度の私から見たら、FだかGだかHだかも分からない、中にメロンでも詰まっているかのようなバズーカップだ。
セクシーダイナマイトという死語を絵に描いて額に
その名はラウラ・クローディア!
——それに比べて、私はどうよ……。
手鏡を覗けば、青く艶やかな前髪の奥から覗いているのは子供のような円らな瞳。
十六歳にしてはあどけなさの目立つ丸みを帯びた輪郭に、幼児体系の寸胴ボディ。
百戦錬磨のラウラ先生はともかく、同級生と比べてもあまりにも子供っぽい。
——自分で言うのもなんだけど、どう考えても場違いだ。
「いよいよ、夏休みの課題では実際に人間を誘惑してもらうよぉ!」
全員にプリントが行き渡ったのを確認して、話を始めるラウラ先生。
まず男子! と、教鞭で黒板をピシリと叩く。
指された箇所に並んでいるのは〝悪魔の子〟だの〝妊娠〟だのと言った、私にとってはなんとも憂鬱になるような単語ばかり。
「
へぇ~い、と男子たちの面倒臭そうな返事が室内に響く。
「次に、女子!」と、再び黒板がパシンと鳴る。
「人間の男を骨抜きにして精液を搾り取るのが
——精液とか、さらっと言っちゃうんだもんなぁ……。
ラウラ先生の声が、私にはやけに遠くに感じられた。
ホームルーム終了後、さっそく後ろの席のティナが私の肩を叩いてくる。
「ねえリリス! あんた、どんな男を狙うつもり?」
「そんなのまだ決めてないよ、って言うか、この課題やらないかも……」
「はあ? 今まで禁止されてた人間界での男漁りが堂々とできるのよ? こんな楽しい課題ないじゃん」
私は首を回し、悪友におもいっきり侮蔑の流し目を送る。
「これを楽しいなんて思うのはティナが
「そりゃリリスも一緒でしょうよ」
「私は間違えたのっ!」
頬に空気をためてプイッ、と前に向き直っても、そんな私におかまいなくティナが話を続ける。
「よく分かんないけど、とりあえず課題やらなかったら落第決定じゃん」
「他の課題で埋め合わせるわよ。セクシーコスチューム作り、とか?」
——って言っても、
「いろいろ馬鹿だとは思ってたけど、算数的な脳もちょっとアレなわけ? 配点の八割がこの淫夢課題だよ? どんな計算したら残り二割で進級できるのよ?」
「それは分かってる! 分かってるんだけど……自分から下着を脱いで男を誘惑? そんなこと、恥ずかし過ぎて無理っ!」
「別にいいじゃん。夢の中なんだし」
「実物を見せるか映像を見せるかって違いでしょ? どっちも嫌だよ! 私はみんなみたいに純血種じゃないから、それだけでも羞恥心がすごいの!」
「そう言えばあんたの父親、人間だったっけ」
ここは、悪魔の生徒たちが通う魔界ハイスクール。日々、ヒヨっ子悪魔たちが、人間を堕落させるための
義務教育ではないが、学歴は初任給に大きく影響するので、最近ではハイスクールまでの進学率はほぼ百パーセント。
ほとんどの生徒は両親も共に悪魔なんだけど、私の母は
骨を抜かれ過ぎて、母に泣いて頼んで魔界に連れてきてもらい、そのままなし崩し的に結婚したみたい。
よく言えば大恋愛の末のゴールインなんだけど、あんなアホな人間はめったにいないと、私は常日頃思っている。
——とにかくそんなわけで、私は他の悪魔に比べてかなり人間っぽくて多感なの!
「あんたさぁ、そんな性格でどうして夢魔科なんて選んだのよ?」
ティナの冷ややかな声に、しかし私も、
——ほんと、そうだよ……。
と、思わず両手で頭を抱える。
魔界では、人間を堕落させる手っ取り早いツールとして悪夢や淫夢がそれなりに重宝されているので、
比較的習得が楽で就職に有利!
たったそれだけの理由で決めた専攻が夢魔科だったんだけど……。
これまで騙し騙しやってきたけど、この夏休みの課題は致命的よ。
こんなの、できるわけない……。
「夢は夢でも、こんなお色気に特化した淫夢ばっかりだとは思ってなかったんだよ」
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