4日目『たいりょくそくてい』

『たいりょくそくてい』というイベントがもうすぐやってくる。フレンズをけんさするんだ。

これは、べつのパークガイドさんがやってくれる。


つまり、わたしにたいしてのいじめをだれかにつたえられるチャンスだ。


どうじに、けんこうしんだんもやるので、このイベントのいっしゅうかんまえから、ぼうりょくはなくなった。むしされるだけのせいかつになって、あんしんしていた。


レッサーパンダちゃんは、いつもかなしそうなかおをしながら、わたしを見つめた。


でも、おしゃべりはしていない。


ーーーーーーーーー


体力測定の日が来た。

ミナミコアリクイは競技場に来ていた。


「ミナミコちゃん、久しぶり!元気だった?」


「あ、マレーバク...」


マレーバクとは何回か面識があり、友達でもあった。


「探検隊はどう?大変?」


「まあまあ...、かな...」


『メンバーから嫌がらせを受けている』なんて言ったら、どうなるのか。探検隊の招待状を受け取り、報告をした時、真っ先に喜んでお祝いしてくれたのは彼女だった。面と向かってそんなことは言いにくかった。


「でも、こうやって会えて良かった!」


マレーバクの久々の笑顔を見て、少し心が癒された。


「はーい、じゃあミナミコアリクイさんの番ですねー」


パークガイドが名前を呼んだ。


「じゃ、また後で!頑張ってね!」


「...う、うん」


体力測定は全員統一で行われる種目と個体特有のプラスアルファの種目がある。

動物の時は運動が大得意という者が大半だが、フレンズ化して運動不足になる者もいるので、それの改善と指導が体力測定の主な目的である。

ミナミコアリクイは全行程を無難に終えた。


「ちょっと平均より下だけど、一応問題ありませんね」


パークガイドはそのまま質問を続けたら。


「何か最近困った事とかはないかな?」


「...えっ」


一瞬、ドキッとした。

自らの探検隊での扱いをカミングアウトすべきだろうか。


「どうしたの?何かあるの?」


彼女の顔色を見て心配そうに言った。

言うべきだろうか。心の中では葛藤していた。


「...え、えっと...、その...」


「....言いにくかったりするかな?」


「....」


ーーーーーーー


たいりょくそくていのあと、あるひとをしょうかいしてもらった。

そのひとはミライさんだった。

パークガイドのなかでも、いちばんえらい。

とくべつなへやにつれられた。


ーーーーーーー


「...あなたの事は言いません。正直に言ってくれますか?」


落ち着いた声でそう要望した。

これは、あの嫌な日々から逃れられる唯一のチャンスだと思った。この人なら信頼していい。


勇気を振り絞り、そして、口を開いた。


「実は...、探検隊のみんなから...、いじわるされてるんだ...」


今までにされたイヤなことを、彼女に伝えた。

何十分話しただろうか。


「...話してくれてありがとう。

もうイヤなことされないように、こっちで注意するし、しばらくは私の隊のところに来て」


「ほ、本当...?」


地獄に一本の蜘蛛の糸が垂らされた様だった。


「あ、ありがとう!感謝のポーズ...!」


シロクジャクから『ウザイからやめろ』と言われていたポーズを久し振りに、涙を溢しながらやった。


ーーーーーーーー


わたしは、もういじめられない。

それだけでうれしかった。

ほんとうに、つらいおもいをしなくてすむ。


レッサーパンダちゃんのこともはなした。


これで、あのひとたちのわるさがわかれば。


ーーーーーーーーー


4日後、あの探検隊の一人一人に事情聴取が行われた。本当に『いじめ』があったのかの調査だった。


「話によると傘で叩いたとか...」


「心外です!」


職員に向かって驚いた声を出したのはシロクジャクだった。


「私はあの子に向かって、暴力なんて...

フレンズの掟に触れるような事はしておりませんよ。第一、汚らわしいじゃないですか、そんな暴力なんて」


「じゃあ、彼女が嘘をついてると?」


「ええ...。私達は仲良くやっていこうとしてるのに、それを誤った解釈をされているんです。注意すべきは私達ではなくミナミコアリクイさんの方じゃありませんの?」



一方、チーターは...。


「本当に誤解よ。ちょっと言い方がキツかったことはあるかもしれないけど、そんな相手を傷つける様なことは言ってもないしやってもないわ」


「そうですか...?あなたが仲間に暴力を...」


「はぁ!?そんなのフェイクよ!弱いものいじめはしてはいけないって耳にタコが出来るほど言い聞かされてるのに、それを破るって?

言われた事も守れないなんて奴はバカよ」


「はぁ...」




「私は副隊長としてメンバー、一人一人に気にかけています。もちろん、レッサーパンダやミナミコアリクイにもね。私はちゃんとその責務を果たしているよ。その上で、私達の探検隊には何の異常も問題も無いよ」


「あなたに首を絞められたっていう報告がありますが」


すると、タイリクオオカミは腕を組んで天を仰いだ。


「...うーん。それは何時の事だい?」


「何時って...、2、3週間前です」


「...うーん、記憶にないなあ。

でも、そんなことして何になるの?私は自分にとって得する事しかしないよ。彼女の首を絞めて彼女が死んじゃったら、大問題でしょ?」





「僕は隊長ですし、何かいざこざがあれば仲裁します。探検隊の指揮に問題はありませんでした。いじめはありませんよ。だって、この目で見てませんもん。チーターだってシロクジャクだって、タイリクオオカミだって良い子達ですよ?もちろんレッサーパンダやミナミコアリクイもです。片時も忘れたことはありません。家族ですよ、彼女達は」


「では...、何故ミナミコアリクイさんはいじめられたと?」


「きっとプレッシャーでしょう。探検隊の仕事はセルリアンと交わる事も多々あります。その時にあまりふざけた態度を取ると、襲われてしまう。戒めというか、一種の指導です」


「その指導が行き過ぎてしまったのでは?」


「いいえ、そんなこと絶対に、100パーセントありえない話です。全員平等にそういう指導はやってきました。感じ方に個人差はありますが、そのハラスメントとは認識されないやり方でちゃんと対応しています」


隊長は粛々と、真剣な表情で伝えた。




「君は、前にいじめられてたんだね?」


レッサーパンダは小さく頷いた。


「…あの子が来るとわかって、いじめは止みました」


「あの...、他に知ってることはないかな?」


「...隊長さんはミナミコアリクイさんからの招待状の返事が来たとき、とても...、何て言うか、機嫌が悪そうでした。何故かはわかりません」


「君がいじめられるようになったきっかけは?」


「私がノロマで...、みんなの足を引っ張ってしまったからだと思います。あの隊は完璧を求めてきました。弱音を吐くなだとか...、いろいろ。だけど、私はそういうのが苦手で...。罰で便器を素手で拭かされたこともありました」


「...そうですか」


「あの...、私、あの隊に戻らなきゃダメなんですか?」


「...君が望むなら、ミナミコアリクイと一緒にしてあげることは出来るよ」


「なら...、会わせていただけませんか?

ミナミコちゃんに...、謝りたいんです」




パーク事務所内での事情聴取が終わった

チーターとシロクジャクが鉢合せした。


「アイツ私達の事を告げ口して...、チッ」


チーターは舌打ちした。


「綺麗で美しく可憐な私に悪者のレッテルを貼るなんて、とんでもない痴れ者よね」


「シロ、あなたやることはわかってるでしょう?」


「もちろん...」


そこへ...。


「君たち、話したいことがあるんだけど」


「何ですか、隊長」


「僕達の隊は、パークの中でも過去に最優秀探検隊に表彰された程だ。パークのフレンズからの信頼も厚い。けど、レッサーとミナミに言われた以上『潔白』を訴え続けるしかない。

“やること”はわかってるな?」


ーーーーーー


そのひ、しょくいんさんは、わたしをあるひとにあわせたいといった。


ーーーーーー


「ミナミコちゃん...」


レッサーパンダは声を震わせていた。


「いじわるして...、ごめんね...」


ーーーーーー


わたしは、レッサーパンダちゃんをだきしめた。


わたしはあなたのことをしんじていた。


やっぱり、やさしかった。


これでもう、わるいことはおきない。







そうおもいたいけど。

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