3日目『おそうじ』


レッサーパンダちゃんがちがう所でねることになった。


レッサーパンダちゃんはみじかく、

「ごめん」としか言わなかった。


もう、わたしにごはんくれないのかな。


やっと、ゆいいつのトモダチができたとおもったのに。



気もちをきりかえないと、ダメなのかな。


ーーーーーーー


「奴隷」


目つきの悪いチーターが話しかけてきた。


「奴隷、最近ここの拠点のホコリが溜まってるの。掃除してくれる?」


「ここの拠点のホコリはお前たちだ」と、言い返したかったが、そんなこと、自殺行為だ。


「ホラ、雑巾が必要でしょ?」


クスクスと嘲笑しながら、シロクジャクは雑巾をミナミコに投げつけた。


「....」


雑巾は彼女の身体に当たると、枯れ葉の様に足元に落ちた。

溜息を吐きながら、雑巾を拾った。


「掃除かい?精が出るね、バケツに水を汲んでこよう」


副隊長のタイリクが言った。


「い、いや!自分でやります...」


「そうか...」


彼女にやらせたら、どうせ水を掛けられるに決まっている。

それならば、リスクを少しでも軽減させた方が良いと、考えた。


ーーーーーー


わたしは、ぞうきんをつかって、そうじをはじめた。

たいちょうはしごとも、気をつかいもせずにひるね。

さんにんは、たのしそうにおしゃべりしている。


わたしだけ、みじめだ。


ーーーーーー


20分程、黙々と掃除を続けた。


すると、隊長が来て。


「おい、みんな。

買い物ついでに街行くからさ、久しぶりに外食でもしないか?」


そう皆を誘った。


「そ、それって...、わたしも...」


「何を言ってるのかしら?」


シロクジャクは、嘲笑った。


「アンタは床の掃除でしょ」


チーターは床を指差した。


「みんなの為に頑張ってくれ。お土産を渡すから」


タイリクの言葉は信用ならない。


「あ、そうだ。レッサーパンダ、来るかい?」


隊長が珍しく大きな声を掛けた。

2階からゆっくりと、降りた


「隊長、あの子も連れて行くの?」


シロクジャクが言った。


「うーん、いいんじゃないか?最近頑張ってるし」


「でもタダで連れて行くのはねぇ...」


チーターは腕を組み、レッサーの方を見た。


「...」


「レッサー...ちゃん...」



彼女は階段から降りてきた。

しばらく、屈んでいるミナミコを見た。


彼女はとても、悲しそうな顔をしていた。


きっと葛藤しているに違いない。

そんな心中を察した次の瞬間だった。



ガコンッ!



「え...」


ビシャッと、バケツが倒され水たまりが出来た。

倒したのは、紛れもなく。



レッサーパンダだった。



チーターとシロクジャクの笑い声が聞こえた。


ーーーーーーー


レッサーちゃん。


わたし、しんじてるよ。


あんなじょうきょうだったら、そうするしかないよね。


わたしが、あなただったら、そうするかもしれない。


....。


レッサーちゃんはわるくないよ。


わるくない。


だって、ほんとうはやさしいの、しってるもん。


わたしは、みんながかえってくるまで、おそうじがんばった。


ーーーーーーー


メンバーが帰宅したのは、夜だった。


「おお、ピカピカじゃないか」


隊長は感嘆と言った。


「お、お帰りなさい」


一応、出迎える言葉を掛けた。


「やるじゃない、奴隷」


「あなたにしては...、ね」


チーターとシロクジャクは相変わらず意地悪そうな目をしていた。


「そうだ。頑張ったミナミコにお土産を買ってきたんだ」


「え...」


本当に買ってくるとは夢にも思わなかった。

タイリクが手提げから、黒い飲み物と筒状のお菓子を取り出した。


「これはご褒美だよ」


驚いたような顔をしつつ、恐る恐るそれを受け取った。


「...なにこれ」


「これはコーラだよ。とても美味しいの」


「あ、そうだわ。そのお菓子を入れるともっと美味しくなるの」


チーターが言う。


「そうなの...?」


「開けてあげますわ!」


シロクジャクがやけに親切に言った。

今日は雪でも降るのだろうか...。


シロクジャクは何も細工せずに、蓋を開けてくれた。


「...これでお菓子を入れるんだね」


一粒のキャンディーのようなお菓子。

渡されたコーラに、それを入れた。


...次の瞬間。


「あっ!?」



お菓子を入れた瞬間、コーラが自分の顔面に向かって噴出したのだ。



「アッハハハハハハハ!!!!汚らしいっ!!!」


シロクジャクの笑い声が聞こえた。


「フフフ...、、フフフフッ!!」


チーターもタイリクも笑う。


「ははははっ!!」


隊長も嬉しそうに笑っていた。


後ろに目立たない様にして佇んでいたレッサーは、下唇を噛み締めていた。



「....」


服も、顔もびしょびしょ。

プライドも、ボロボロ。


「あら、いけない!床が汚れちゃったぁ~」


チーターがわざとらしく言った。


「汚いわね。こんなところ歩けないわ」


蔑むような眼をシロクジャクは向けた。


「なに突っ立ってるの?さっさと掃除しなよ」


タイリクが冷たく言った。


「ハアー...。がんばれ」


隊長はそう言うとすぐに、自室へ戻ってしまった。


「掃除しなさい、奴隷」


「あー、汚い汚い」


「今日中にやっておくんだよ」


3人もそう言って、部屋に戻ってしまった。


「...レッサーちゃん...」


「.....」


彼女は黙ったまま、ゆっくりと入り、彼女にこう言い放った。


「...早く」


ーーーーーーーーーーーー


わたしは、なみだをこらえながら、ゆかのコーラをふいた。


しろいけがわのよごれは、とれない。

レッサーちゃんは、たすけてもくれない。



....。



わたしのみかたは、どこにもいない。



わたしは、だまってゆかをふきつづけた。



なんども、なんども。



ゆかをぞうきんでふいた。



きょうのゆうはんは、ない。

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