2日目『ふくたいちょう』

わたしのたんけんたいのふくたいちょうは、

「タイリクオオカミ」という。

ほかのフレンズからは、『カッコいい』『たのもしい』などと言われている。


わたしは、あのひとのすべてを知ってしまった。やさしいふくたいちょうなんかじゃない。


わたしのねどこはきょてんのやねうらだった。

だけど、レッサーパンダちゃんもいるので、

とくべつ、わるいあつかいされてるようには感じなかった。


その日、わたしはねむれなかった。


ゆめでも、わたしはいじめられる。バカにされる。それが、こわかった。


レッサーパンダちゃんをおこさないように、下へおりた。


やねうらをおりると、『そうこ』につながる。

そこのとびらをあけると、4人のねるへやがある。見たことはないけど、広くて、あたたかいベッドもあるとおもう。


そのうちのひとつ。

たいちょうのへやから明かりがもれていた。


気づかれないように、しんちょうに近づき音をきいた。


ーーーーーーー


扉の向こうからは、隊長と思われる声とタイリクオオカミの声がしていた。


くぐもってて聞こえにくかった。


もしかしたら、またなにかの嫌がらせの火種になるかもしれないという予想は彼女の脳裏に過ったが、好奇心に押し負けてしまった。

1、2mm扉を音を立てずに開けると、奇っ怪な光景、そして鮮明な会話が聞こえてきた。


隊長の上に副隊長が、


「...はぁ...、んはっ...」


「どうだい...」


「あぁ...っ、うん...、いいっ...」


寒そうな姿で楽しげな声を出す。

その光景は、理解し難いモノだった。

体に戦慄が走った。


ずっとは見ていられなかった。

ドアを閉めると、固唾を飲んで元いた屋根裏へ逃げるように戻った。


ーーーーーーー


あのとき、ふたりがなにをしていたのか。

知りたくもなかった。


それどころか。


なにか、よくないことがおこりそうな気がして、よけいにねむれなかった。


そして、つぎの日のあさ。


ーーーーーーー


隊長は、別のちほーで開かれる職員集会に出かけると言って出掛けた。


机の上には4つのじゃぱりまんがあった。


また、ミナミコアリクイの分のじゃぱりまんは無かった。

レッサーパンダが「後であげるね」と、小声で言った。彼女も彼女で少量しか食べていないので少し心配になった。


特にやることも無いので、ソファーに座って全員食事が終わるのを待っていた。


すると、タイリクオオカミが近付いてきて、声を掛けたのだった。


「ミナミコ、ちょっと良いかな」


昨日の記憶があるミナミコは内心、焦った。


「な、な、何ですか...」


「君、何も食べてないでしょ?私がいいものあげるから、私の部屋においで」


「え...」


半ば無理矢理に、腕を掴まれ、2階へと連れてかれた。


「....」


その様子をレッサーが不安げに見つめていると。


「...ねぇ、アナタ」


シロクジャクの声で体をビクッとさせて振り向いた。


「愚民、アイツのこと心配してんじゃない?」


チーターは口元を緩め尋ねた。


「...そんなことないです」


「ホント?

じゃあなんで朝ごはん食べなかったの?」


「えっと...、それは...、その...」


シロクジャクの追求に言葉を濁す。


すると彼女は立ち上がり、レッサーパンダの背後に回った。

座っていた彼女の両脇に腕を入れて押さえた。


「ちょ...、なにするんですか!」


「チーター、こいつ嘘つきよ!」


「ふふ...。愚かな真似するからよ、愚民」


チーターはレッサーパンダの服を捲り上げ、

彼女の腹目掛けて自らの拳を...。


「う゛ぐぅっ....」


苦しい顔を浮かべ、呼吸を乱しながら、地にひれ伏す様に落ちた。


「うっ....、はぁっ...」


苦しそうにするレッサーパンダの頭上にチーターは片足を乗せた。


「良いこと愚民。お前だってまたいじめられたくはないでしょう?なら、私たちに同乗するかアイツを無視することね」


「まあ、最も私たちについた方が賢明でしょうけどね。オホホホ...」


「うっ....」

(ミナミコちゃん....)



一方その頃。


「さあ、お茶を飲んでくれ」


テーブルの上に置かれたコップ。

タイリクオオカミが出してくれたモノだった。


「早く飲みなよ、副隊長命令に背くの?」


彼女の言動に威圧的なモノを感じ取り、首を横に振って、飲み物を飲んだ。


だが、口に含んだ瞬間。


「...ん゛っ?!」


「....」


「ゲヘェ...」


気持ち悪くなって吐き出してしまった。


「汚いな。気持ち悪い」


シロクジャクと同じ暴言を吐かれる。

そして、彼女はミナミコの首の後ろを掴んで

乱暴に引っ張った。


「ああっ!なにするんだよぉ...!!」


「私が昨日なにをしていたか、知ってるよね」


「....」


「気付いてないと思ってた?本当に君は浅はかでバカだね」


「....」


「...小憎たらしい!!」


彼女はミナミコの首に手を添え、力強く絞めた。


「...うっ?!あっ...はぁっ....ぁぁ....」


息が出来ない。

一瞬死ぬかもしれないとも覚悟したが...。

彼女は手を緩めた。


「...ごめん」


「...えっ」


「私は隊長と結婚するんだ...。

花嫁が殺人者なんてレッテルを貼られたら彼も困るでしょ?」


「....」


「ただ...」


ひたすらに黙るしかなかった。


「誰か、この探検隊以外の誰かに話したら、君を殺す。君の生き血で染まったバラがバージンロードを彩ることになるからね。あと私がオオカミって事、忘れるんじゃないよ?」


「....はい」


大人しく、そう返事をした。


「...ふん」


彼女はまたミナミコの背中を乱暴に持った。

そして、ゴミを捨てるが如く、廊下に投げ出された。


ーーーーーーー


たいちょうとけっこん?


何をいっているのかサッパリだ。

あのたいちょうのどこがすきなのか、

わからない。


もしも、ふたりのこどもができたらどうしよう

あんなクズおやにうまれてくるこどもは、

かわいそうだとおもう。


そして、そのこもまた、わたしやレッサーパンダちゃんをいじめるんだ。


そうやって、なんかいもなんかいも。


おなじことをくりかえすんだ。


くりかえすのをやめさせるには...。

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