01-06「【獣の軍(アーミー・デ・ベスティエ)】」②
②
人造勇者を手駒の一つとして使う。
例え思いついたとしても実行には移し難い策である。
言わずもがな、
大き過ぎる。
それでもノインツィアが危険な賭けに出たのには理由がある。
この戦いは絶対に負けられぬ戦いだからだ。
負けた時点で詰む。
「次」がない以上、彼女がその決断をするのは言わば必然であった。
そうは言うものの。
頭で理解するのと心が納得するのとは話が別である。
仮に行うのだとしても、それを仕掛ける
普通に考えれば敵が疲弊するであろう終盤に行うのが最善であろう。
しかし。
敢えて序盤で投入する。
敵が猛攻に慣れてしまう前に最強の
それは大胆不敵という以外ない、心理の裏側を突く用兵であった。
そして、それは功を奏する。
「!」
大きく目を見開くズィーベランス。
常に余裕の表情を崩さない彼の顔を一瞬だけとはいえ、驚きに変えてみせたのだ。
完全に虚を突かれた形の【暴力】を司る人造勇者。
ノインツィアの目論見は成功したと言えるだろう。
しかし。
完全ではないものの、それすらも凌いでみせる。
ズィーベランスに与えた
「最強の人造勇者」という自負は伊達ではなかった。
これでズィーベランスに一矢報いたのは間違いがないが、与えられた
ノインツィアの心を占める感情は歓喜よりも失望の方が大きかった。
その後、すべての獣の群れを殺し切り、ズィーベランスがゼクシズへと向き直る。
「やってくれたなァ」
その言葉とは裏腹に心底楽し気な表情を浮かべて【暴力】を司る人造勇者は嗤う。
「俺に不意打ちを入れられるヤツがいるなんざこの世界も捨てたもんじゃねェ。思ってたよかずっと楽しめそうだ」
万策は尽きた。
それでも戦闘は続く。
絶望以外の何物も見出せない戦いが虚しく続いていく。
響く剣戟。
時折挟まれる【暴力】を司る人造勇者の声。
そして。
先に限界が訪れたのはゼクシズの方だった。
ズィーベランスが力を抑制されているのに対して、ゼクシズは一時的にだけ強化されることで辛うじて戦闘らしい戦闘になっていたに過ぎない。
その事実を鑑みれば、どちらに分があるかなど初めからわかり切った話だったのだ。
しかし、
力の前借りはゼクシズにとってもノインツィアにとっても唯一無二の苦肉の策であった。
その苦肉の策を使ってさえ最凶最悪の人造勇者ズィーベランス=ゲヴァルトを斃し切ることはできなかった。
ついに
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