01-04「【獣】、そして【暴力】を司る人造勇者」③

「くっ……!」


 ズィーベランスの攻撃を辛くも凌ぐゼクシズ。


 しかし。


 次々と怒涛の攻勢をかけてくるズィーベランスとは対照的に、ゼクシズの方は防戦で手一杯だった。


 【暴力】を司る人造勇者は攻撃する隙など一切与えてはくれない。


 更に絶望的なのはズィーベランスの方はまだまるで本気ではない、という点だ。


 彼からすれば軽くじゃれついている程度の認識でしかない。


 攻撃強化。


 防御強化。


 速度強化。


 魔法強化。


 魔法抵抗強化。


 数多の魔族たちを屠った時と同様、相棒パートナーであるノインツィアがゼクシズにありったけの補助魔法をかける。


(巻き返すわよ、ゼクシズ!)


「ああ……!」


 力強く頷くゼクシズ。


 しかし。


 ノインツィアの助力を一身に受けているゼクシズに対し、ズィーベランスは己の力のみで戦っている。


 彼の相棒パートナーであるアインスフィーネは刃化クロネイド以上の助力をする素振りは一切見せない。


 向こうの事情はよくわからないが、ズィーベランスの人造聖剣であるアインスフィーネが彼に協力的ではないことだけは明らかであった。


 それにも拘らず、ズィーベランス=ゲヴァルトはゼクシズ=ベスティエを圧倒していた。


(【暴力】を司る人造勇者が圧倒的な力を持っているのは情報として知っていた……。でも、同じ人造勇者同士でここまでの力の差があるなんて……!)


 比較的冷静と言えるノインツィアがらしくもなく強い焦りを覚える。


 あらゆる手段を講じてみた人造勇者とその聖剣ではあったが、終ぞ突破口を見つけ出すことは叶わなかった。


「どうした? 悪足掻きはお終いかァ?」


 野生の獣のような笑みを浮かべるもう一人の人造勇者。


 万策は尽きた。


 それからゼクシズがズィーベランスに追い詰められるのにそう時間を要さなかった。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁっ……!」


 荒く浅い呼吸を繰り返すゼクシズ。


 だが、それも無理からぬ話。


 【暴力】を司る人造勇者と他の者たちとは比べ物にならぬほどの時間対峙していた彼に最早余力はない。


「オラ、どうした? 後がねェぞ?」


 対照的にズィーベランスの表情は余裕そのものだ。


 同じ人造勇者といえど、地力が違い過ぎる。


 ゼクシズが弱いのではない。


 ズィーベランスがあまりにも強大過ぎるのだ。


「まだだ……! こんなところで死ぬつもりはない……!」


 自分はまだ何も成し遂げられてはいない。


 その思いが普段は冷静沈着なゼクシズに熱い言葉を言わせる。


 しかし。


(ここまでね……)


 諦めるという選択肢を持たないゼクシズとは対照的に、諦観したようなノインツィアの声がゼクシズの頭の中で響く。


「……ノインツィア?」


(…………)


 しかし、返事は返ってこない。


 代わりに聞き慣れない言葉が少年の頭に響く。


形態フォーミュラ……【ベスティエ】……!)


 どくん。


 その声と共に少年の意識は暗転した。

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