01-04「【獣】、そして【暴力】を司る人造勇者」②
②
「やっと会えたな」
長年探し続けていた恋人をようやく探し当てたような面持ちでズィーベランスは言う。
その視線はゼクシズの手にしている剣に向いている。
それが自分の望んでいるものだと誰よりも理解しているのだ。
「こっちに来い。お前は俺のもんだ」
右手を差し出しつつ、ズィーベランスが【増幅】の能力を持つ人造聖剣を
しかし。
(嫌よ)
それをきっぱりと拒絶するノインツィア。
(私のすべてはゼクシズのもの。あなたなんて願い下げだわ)
「ゼクシズ?」
ズィーベランスの視線がもう一人の人造勇者へと向けられる。
「そうか。テメェがそいつの飼い主か。じゃあ、テメェをブッ殺せばそいつは俺のもん、ってわけだ」
ニタア。
【暴力】を司る人造勇者が獣が牙を剥くように不敵に嗤う。
「腐っても人造勇者。そこらの有象無象どもと一緒にしちゃ失礼ってもんだ。自己紹介くらいはしといてやる」
そう前置きして大見得を切る。
「俺はズィーベランス=ゲヴァルト! テメェを殺す男の名だ! 地獄に行っても忘れるんじゃねェぞ!!」
「……ゼクシズ=ベスティエ。使命を果たすまで死ぬつもりはない」
やや躊躇いがちではあるものの、それに応えるゼクシズ。
「名から察するに【獣】を司る人造勇者ってところか。俺にはかわいらしいワンちゃんにしか見えねェがな」
数え切れぬ程の数の魔族たちを屠り、覚醒したばかりの頃とは文字通り桁違いの力をつけたゼクシズと言えども、この【暴力】を司る狂気の人造勇者の前ではその程度の脅威にしか映らない。
「いくぞ、オラァッ!」
それ以上の会話は不要、とばかりのズィーベランスが攻撃を仕掛ける。
「っ……!」
虚を突かれた格好のゼクシズが面を喰らう。
ガキィィィン!
剣戟が響き、火花が飛び散る。
「くっ……!」
更にゼクシズが顔を歪める。
感情をあまり表に出さぬ彼には珍しい苦悶の表情だ。
「ぐうっ……!」
みしり、と。
骨が軋む。
しかし、それでさえも幸運と言って良かった。
生半な武器を用いて受けていれば、それごと両断されたであろうことは想像に難くないのだから。
「俺の攻撃を受け止めやがるか。さっきの雑魚どもよりはマシみてぇだなァ、けどよォッ!」
「っ……!」
ドガッ!
そのまま押し切られ、ゼクシズの体が吹き飛ぶ。
(ゼクシズ!)
「問題ない……!」
即座に体勢を立て直すゼクシズではあったが、その眼前には既に狂相の人造勇者の顔があった。
「本当にそうかァ?」
歯を剥き出しにした厭な嗤い方でズィーベランスが嘲る。
「わかってやがるよなァ? テメェがケガしねェように手ェ抜いてやってんだぜェ」
「言われるまでもない」
相手は自分が動いた後に動き出している。
本来なら自分よりも早く動くことなど造作でもないにも拘らず。
こんなとんでもない
それは対峙しているゼクシズが誰よりも理解していた。
「へェ」
感心したようにズィーベランスが薄ら笑いを浮かべる。
「こっちがちょっと手ェ抜いてやったからってすぐ『互角』とかふざけたこと抜かす連中とは違うってェワケだ」
「貴様の実力が俺など遥かに凌駕していることは百も承知だ」
「だったら、そいつを手放してとっとと逃げ出しちまえよ。聖剣さえ手に入れば俺はテメェなんぞ眼中にねェからな」
ゼクシズの手にある煌びやかな人造聖剣に目をやりながらもう一人の人造勇者は心底馬鹿にした態度で提案する。
「……それはできない相談だ」
断固とした態度でゼクシズはそれを拒絶する。
その呼吸は多大な運動量と極度の緊張感で荒くなっている。
「……俺は弱い。……
「そうか。なら死ね」
ニイッ。
嗤いながら死刑宣告をする【暴力】を司る人造勇者。
ガッ!
間髪入れずに攻撃を加える。
駆け引きをすれば、わずかながらも回復の時間は稼げたかもしれない。
【獣】を司る人造勇者はあまりにも愚直であった。
しかし、それを許してくれるほどズィーベランスの気は長くはなかったのもまた事実。
そこまで思い至っていたかどうかは別として、結果は変わらなかっただろう。
そう思える程度にはズィーベランス=ゲヴァルトという男は性急な性格であった。
「オラオラ、どうしたどうしたァッ! 俺の力はまだまだこんなもんじゃねェぞォッ!!」
違う。
さっき斃した魔族たちが赤子にしか思えぬ程にその暴力の嵐は圧倒的だった。
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