01-03「もう一人の人造勇者」⑦
⑦
「時間だ。今度はこっちからいくぞ」
そう宣言してズィーベランスがブンブン、と出鱈目に剣を振るう。
その動きは緩慢である。
そう、彼自身にとっては。
だが、そんな雑な攻撃でさえ受け手にとっては一撃一撃が必殺であるかのように感じられた。
すべてを凌ぎ切った時、部隊長の精神は擦り切れていた。
「へェ、今のを受け切りやがるか。んじゃ、少しばかり本気でいくぞ」
はったりだ。
部隊長はそう思った。
いや。
そう「思いたかった」。
しかし。
息一つ切らさぬズィーベランスの余裕振りがそのことを何よりも雄弁に語っていた。
「予告だ」
ズィーベランスは宣言する。
「テメェを少しずつ斬り刻んでく」
その言葉の通りに剣を振るう人造勇者。
その度に、強靭であるはずの魔族の肉体を爪牙を振るうが如くに削り取っていく。
それはまるで肉食獣に少しずつ喰い千切られていくかのようであった。
部隊長の体が少しずつ自らの血で青く染まっていく。
「そろそろ
飽きた、と言わんばかりに【暴力】を司る人造勇者が牙を剥き出しにして嗤う。
来る!
そう悟った彼は両腕に魔力を集中させ、頭部をかばう。
魔族にとっては屈辱的な全身全霊での防御である。
それを獣を司る人造勇者の一撃はその両腕と自信ごと粉砕していた。
もっとも、それが行われた時には彼の命はとうに失われていたが。
文字通りズィーベランスの放った一撃は魔族の肉体を鮮やかに両断していた。
ブシュゥゥゥゥゥ!
その切断面からは真っ青な血液が噴き出す。
「ヘッ、汚ェ噴水だな」
右半身と左半身、右腕と左腕。
今の今まで人造勇者を滅ぼさんとしていた魔族は四つの肉塊へと変わった。
魔族には大きく分けて二つの急所がある。
一つは心臓、そしてもう一つが脳である。
それが失われた今、いかに強靭な肉体をもった魔族といえども生命活動を続行できる由もなかった。
この戦いの行く末は当然の帰結であった。
対ゼクシズのように侮らずに初めから全力であたれば勝機はあった、というような生易しいものではない。
ズィーベランスと魔族たちとでは初めから生物としての
決して出逢ってはならない存在。
それが【暴力】を司る人造勇者。
その厄災に遭遇してしまったことだけが、彼らの最大の誤算かつ不運であった。
ズィーベランス=ゲヴァルト。
紛れもなく最強の人造勇者であった。
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