01-03「もう一人の人造勇者」⑥

「なるほど。貴様の力はよくわかった。これは私直々に丁重にもてなさねばならん相手のようだ」


「ほう、テメェがお相手してくれんのか?」


 ズィーベランスは再びニイッ、と獣のように牙を剥いた。


「これ以上部下を減らされてはたまらんのでな」


「役立たずの部下をか? こんな無能どもならいない方がマシってもんだぜ」


「なんだと!」


 再び魔族たちが憤る怒号が響く。


 だが、実力が伴わぬ彼らのそれはズィーベランスには負け犬の遠吠えにしか聞こえない。


「まったく、キャンキャンうるせェ連中だぜ」


 うんざりしたように人造勇者は吐き捨てる。


「一分だ」


「なに?」


「こっちは一分間手出ししないでやる。その間に俺をってみろ」


「貴様、自殺志願者か?」


「さあな。ひ弱な人間如きをブチ殺すのに魔族サマの力ならそんだけの時間がありゃあ朝飯前だろ?」


「相当魔族を見縊っているようだな」


「なんとでも」


 ズィーベランスは言葉を続ける。


「もっとサービスしてやってもいいんだが、生憎飽きっぽい性格なんでな」


「随分と気前のいいことだ」


「折角お偉いさんが俺みたいな下々の者を直々にお相手してくれるってんだからなァ。少しは人造勇者おれを理解する時間を差し上げようってェ気遣いさ」


「その思い上がった態度が命取りにならんといいがな」


「お気遣いは無用だ。接待すんのはこっちの役目なんでなァ」


「せいぜいあの世で後悔するんだな!」


 攻撃が始まる。


 時間は一分。


 様子見などまるで行わずに初めから全力で飛ばしていく。


 その猛攻を前に暴力を司る人造勇者といえども防戦一方。


 人造聖剣を使っての防御が精一杯。


 魔族たちはそんな風に考えていた。


 回避が不可能故に防御に徹していると思っていた。


 油断も過小評価もしていないつもりだった。


 しかし。


 それは誤りだったと否が応にも気づかされる。


 三十秒が経過し、ズィーベランスの動きが徐々に防御から回避へと変わっていく。


 粗暴なだけではない。


 その気になればかくも繊細な動きをすることもできるのだ。


 長かったのか短かったのか、それは攻撃する時間を与えられた彼にしかわからない。


 やがて、約束の一分が経過した。


 己の攻撃が尽く通じないことに対し、彼は身の毛もよだつ思いだった。

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