01-03「もう一人の人造勇者」⑤


「あ゛? 魔族テメェらが弱過ぎっからだろうが。文句あんなら、少しは俺をその気にさせてみろよ」


 怒りの炎にさらに燃料を投下するようにズィーベランスは煽る。


 そんな傲慢な【暴力】を司る人造勇者の態度に憤りを抑え切れぬ魔族たちであったが、己の体の異変に気がついた。


「なに? 再生が始まらんだと……!?」


 それは何故か。


 人造聖剣であるアインスフィーネは魔に対する特効を持っているからだ。


 その特効とは魔力封じ。


 再生の源となるのは魔力であるので、再生封じでもある。


 それはわざわざ技能スキルを発現する必要もなく、常に、当然のように発揮される。


 聖剣により手傷を負わされた魔族に待っているものは確実なる死、のみである。


 そんな魔族たちを尻目に人造勇者が口を開いた。


聖剣こいつ魔族おまえらへの特効があんのはご存知だよな?」


 肩に担いだ人造聖剣に目をやりつつ、ズィーベランスは尋ねる。


「なんだと!?」


「バカな!」


「聖剣だというのか!? そのように禍々しいものが!!」


 魔族たちが次々に驚きの言葉を口にする。


 彼らの動揺はズィーベランスの想像を遥かに超えるものだった。


 自分たちに手傷を負わせることができる武器が並大抵のものであるはずがない。


 だが、まさか聖剣であるとは夢にも思わなかったからである。


「驚いてくれたみたいで嬉しいぜ。わざわざ教えてやった甲斐があるってもんだ」


 魔族たちの傷が塞がることはない。


 失血により命が尽きるのは時間の問題である。


 しかし。


 気の長くないズィーベランスが失血死などを待とうはずもなく。


「理解したか? なら、絶望しながら死んでけ」


 話は終わりとばかりに人造勇者は戦闘を再開させる。


「貴様ァ、許さん!」


 その態度に魔族たちは激昂した。


 戦いにおいて万全の者を相手にするより手負いの方が厄介である。


 その主な原動力となるのが怒りだ。


 即座に自分たちを舐め切った態度を取る人間へとその怒りを形に変えてぶつけるべく駆け出す。


 片手を失ってはいるものの、彼らは先程までも確実に手強い相手となっていた。


 しかし。


 その程度、【暴力】を司る人造勇者の前では誤差の域を出ない。


 ズィーベランスは自らに襲いかかってきた魔族たちの四肢を一瞬で奪い取った。


 刹那。


「グアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 魔族たちの苦痛の絶叫が室内に木霊する。


 型なき型フォームレスフォーム、とでも表現すべきだろうか。


 洗練とは丸きり正反対で無駄ばかりであるにも拘わらず、その動きはまるで捉え切れぬほどまでに速い。


「どうだ? お前らが見下してる人間と同じようにダルマにされた気分は?」


 ズィーベランスは不敵に嗤う。


 聖剣による痛痒ダメージを受けた彼らを待つのは確実な死である。


 だが、なまじ強靭な肉体を持っている故にそう容易く楽になることは許されない。


 【暴力】を司る人造勇者の固有技能ユニークスキル苦痛をもたらす者シュメルツ・ギーバー】の効果により、この世の地獄ともいえる苦痛を長い時間味わうことになるのだ。


 あまりの激痛にその身をびくんびくん、と絶え間なく痙攣させている者までいる始末だ。


「……どうせもう助からん。楽にしてやれ」


 見かねた部下たちの醜態に、部隊長によるその一言で四肢をもぎ取られた魔族たちは同胞の手によって耐え難い地獄の苦痛から解放された。


 そう、永遠に。


「へェ……魔族にも慈悲の心ってヤツがある訳か。こいつは意外だったぜ」


 その様子を見ていたズィーベランスが素直な感想を漏らす。


「勘違いするな。動けなくなった者など必要ない」


「そりゃ魔族サマらしい無慈悲なこった」


「敢えて付け加えるならば、耳障りだから静かにした。ただそれだけの話だ」


「そうかい。なら、またすぐに泣き叫ばせてやるよ。それこそ好きなだけな」


 そう告げて人造勇者は魔族たちを煽る。


 ズィーベランスが一番最初に屠った熊の魔族。


 総合的な戦闘力では彼以上の者もいるが、その数は片手にも満たない。


 彼我の戦力差は圧倒的だ。


 魔族たちが勝っているのは数。


 だが、戦いにおいて最も重要な要素ファクターを占めると言われるそれがまったく役に立たないのは火を見るよりも明らかだった。


 【暴力】を司る人造勇者の殺戮が始まる。


 青い返り血を全身に浴びながらズィーベランスは嗤う。


 魔族たちの無力さを嘲笑う。


 あまりにも一方的だった。


 人間の数倍の戦闘力を有するとされている魔族たちが束になってもまるで歯が立たない。


 そして、屠られた魔族たちの死体も剣に斬られたそれではない。


 まるで獰猛な獣に喰い千切られたかのような無残な屍を晒している。


 圧倒的な暴力の嵐を前に、魔族たちはただいたずらに屍の数を増やしていく一方だ。


 彼らはいつの間に自分たちが悪夢の中に迷いこんでしまったのかと錯覚さえ覚えるのだった。

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