01-02「人造勇者、初陣」⑦
⑦
思い通りにいかぬ戦況に部隊長が業を煮やす。
「もういい。私が出る」
階級が高いからといって部隊で最強であるとは限らない。
部隊を指揮する能力と個人の武力はまったく別ものの力であるからだ。
しかし、魔族は個々の力を何よりも重視する種族。
ごく一部の例外を除けば力ある者が上に君臨するのが常である。
それはこの部隊においても同様であった。
そんな理由で、この部隊で最強の力を誇る部隊長が部下たちを下がらせ、己が前へと出る。
「部下たちが失礼をした」
まずは
そして。
「私がお相手しよう」
今までの失態を挽回させるが如く、恭しくそう言った。
「貴様が親玉か」
そんな彼に人造勇者は訝し気な視線を向ける。
「いかにも」
そう答える姿は至極自然で、敵であるゼクシズを威圧するわけでも侮っている風でもない。
その態度は強者のそれだった。
「なるほど。確かに他の連中とは違うらしい」
他の魔族たちとは一線を画す力と、異質な雰囲気を肌で感じ人造勇者はそう返した。
「名を聞いておこうか」
部隊長が名前を尋ねる。
それが魔族なりの命を奪う者への礼儀だと考えているからだ。
しかし。
「さっき言ったはずだ」
静かに構えながらゼクシズは言う。
「死にゆく者に名乗る名などない」
一方の人造勇者は名乗らない。
名乗ることに意味など見出してはいないからだ。
彼にとって魔族は倒すべき敵。
それ以上でもそれ以下でもない。
「ほう、まだ私に勝てるつもりとは」
「御託はいい」
これ以上取り合う気はない、とばかりに人造勇者は一方的に会話を打ち切る。
「確かにこれ以上の言葉は無粋。始めよう」
かくて、強敵との戦いの火蓋は切って落とされた。
「勝算は?」
大方の見当はつけながらも、人造勇者は
(五分ね。贅沢を言えば、もう少し雑魚を狩っておきたかったわ)
「ああ。だが、それは言うまい」
どのような状況であろうと己の持つの
そのことをゼクシズはここにいる誰よりもよく理解していた。
「何をブツブツと!」
魔族たちがこの部屋に足を踏み入れた時、二人は既に
ゼクシズの独り言ではなく、ノインツィアとの会話だということを彼らには知る由もなかった。
(くるわよ!)
人造聖剣の警告に人造勇者は無言で応える。
ガキィィィィィン!
甲高い金属音が響き、火花が飛び散る。
シュン!
挨拶代わりの攻撃を受け止め、お返しだと言わんばかりにゼクシズが剣閃を走らせる。
だが、それが敵に届くことはなかった。
それに二人は落胆したりはしない。
お互いまだまるで本気ではないからだ。
様子見とばかりに、彼らは数合打ち合う。
甲高い金属音が連続して聞こえ、刹那の瞬間に無数の火花が飛び散る。
その
「なるほど。部下たちでは手に負えんわけだ」
まだ手合わせ程度の感触でしかないが、彼はそんな感想を抱いた。
お互いにいきなり手の内を明かすほど大胆でも考えなしではなかった。
「さて、そろそろ本気でいかせてもらうとしようか」
その言葉を皮切りに「試し合い」ではなく、「殺し合い」が始まる。
ゆらり。
幽鬼の如く部隊長の姿が消える。
そして。
不意に現れ手刀を繰り出す。
しかし。
それが人造勇者に届くことはなかった。
ゼクシズの強さも【
対応できぬ道理はなかった。
「ほう。この攻撃も躱すか。人間にしておくには惜しいな」
今の一撃を回避できる者はおそらく部下にはいまい。
そう確信した上での発言だ。
「では、これはどうかな?」
連撃に次ぐ連撃。
人造勇者は回避ではなく剣を使った受けに回させられる。
「くっ……!」
その猛攻にゼクシズは防戦一方だ。
相手の手は二本。
それに対してゼクシズの剣は一本である。
どちらの方が回転数が勝っているかなど考えるまでもなかった。
相手は素手。
隙を探して人造勇者はその腕を斬り落とそうと何度も試みる。
片腕だけでも奪うことができれば天秤は一気にゼクシズへと傾くことだろう。
しかし、容易くその腕を斬り落とさせてはくれない。
素の状態でさえ魔族の肉体は鋼鉄以上の強度を誇る。
魔力により身体強化を施された魔族の肉体は聖剣といえど、そう易々と斬り裂くことは叶わない。
「どうした? 自慢の聖剣が泣いているぞ」
嘲るように部隊長は言う。
だが、そんな挑発に乗るほどゼクシズは短気でも短慮でもなかった。
その時が来るのを人造勇者はじっと待った。
待ち続けた。
そして、その時は訪れる。
(今よ!)
そして。
ザシュッ!
ゼクシズの振るう剣がついに魔族の腕を斬り裂いたのだった。
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