01-02「人造勇者、初陣」⑥
⑥
「魔法だ! 魔法を使え!!」
誰かはわからない。
だが、誰かが叫ぶ。
しかし。
たかが一匹の人間如きに魔族が魔法を使うなど。
魔族の
そう考えていた魔族たちだったが、人造勇者の力を目の当たりにしてその認識を変えざるを得なかった。
「喰らえぃ!」
「くたばれ!」
「消えろ!」
魔族たちが一斉に攻撃魔法を放つ。
魔族の圧倒的な魔力を持って放たれる魔法。
普通の人間が受ければひとたまりもない。
しかし。
ゼクシズ=ベスティエは人造勇者。
魔力の塊ともいえるそれらを次々に斬り払って攻撃を回避する。
「ええい、悪あがきを!」
魔族たちが
当てさえすれば殺せる。
魔族の魔法を受けて絶命せぬ人間など存在しなかった。
その今までの経験から魔族たちはそう思っていた。
そう思いこんでいた。
しかし、実際は数発魔法を叩き込んだ程度では
それを知らぬ魔族たちは次々と攻撃魔法を放ち続けるが、それらはすべてゼクシズの手によって斬り払われる。
あの剣がヤツの手にある限り、攻撃魔法は通用しないのではないか。
魔族たちの中にそう思い至る者が現れ始める。
ならば、あの厄介な剣からどうにかするべきであろう。
いかな聖剣とはいえ金属であることには相違ない。
ザシュゥッ!
そう考えた魔族の一人が人造勇者に向かって電撃魔法を放った。
バチバチ、と音を立てる電気を帯びた魔力の矢が人造勇者を襲う。
電撃魔法には「
一瞬でそのことを理解した電撃魔法を放てる魔族たちは次々にその行動に追随した。
しかし。
すべての電撃はにっくき敵の左手に吸いこまれていく。
「なんだと!?」
何人かの魔族たちが驚愕の表情を見せる。
「最近の魔族は勉強不足だな。勇者に電撃は効かない」
そんな彼らを揶揄するようにゼクシズは言う。
勇者は電撃魔法の完全上位互換である雷撃魔法を最も得意とする。
それに比べれば強力な魔力を持った魔族が放つ電撃魔法でさえ児戯に等しい。
勇者という存在が存在していたのは最早数十年前。
なおかつ、勇者と対峙した魔族は一人とて生きてはいない。
それらの事実は彼らを失念させるのに十分過ぎる理由だった。
雷撃魔法を修め、電撃魔法に対して完全な耐性がある勇者は
起死回生の妙案に思えた魔族たちの取った策の結果は、図らずも人造勇者を回復させてしまうという想定外かつ最悪なもので終わった。
「
部隊長が叫ぶ。
「人間風情に
数体の魔族が動揺を見せる。
たかが人間相手に
その驚きは瞬く間に部隊間に
しかし。
そんな彼らを尻目に部隊長は更に叫ぶ。
「
そうは言うものの、全員が全員、
一口に魔族と言っても種族間で得手不得手は存在するからだ。
魔法が得意でない魔族も当然存在する。
魔族という種族は圧倒的な魔力を誇る種族。
その魔族が魔法に魔力を回さない場合の使い道は大きく分けて二つ。
一つは身体強化。
そして、もう一つが回復強化である。
しかし、勇者と対峙する場合、どんなに回復力を高めたところで意味がない。
よって、自ずと選択すべきは身体強化に絞られる。
いくら何十年勇者という特別な存在と相対したことがなかったとはいえ、そんな根本的な部分を忘れてしまうほど魔族という種族は腑抜けてはいなかった。
それは持続時間と効果。
魔法による
また、
何を得意とするかはその者の
よって、短所を補うよりも長所を更に伸ばす方がより大きな効果が期待できる。
それ故、
魔族たちが各々身体強化を発動させる。
更に。
「人間風情に
魔族の一体が忌々しげに吐き出す。
魔族の身体能力は人間のそれを遥かに凌駕している。
本来ならば
「人間ごときに……!」
不承不承ではあるものの、部隊長からの命を受けた魔族たちが人造勇者に向かって
自分たちより能力で大きく劣る人間に対し
しかし。
(気にしないで。効きはしないわ)
ノインツィアのその言葉通り、それらの効力が発揮される機会が訪れることはなかった。
ただでさえ勇者の魔法抵抗は高い。
それに加えてノインツィアからの補助魔法によりゼクシズの魔法抵抗は更に強化されている。
それを理解しているノインツィアの指示により、ゼクシズはそれらの
「
想定外の事態に部隊長が驚きを隠せない。
しかし、彼の驚きはまったく的外れなものではない。
彼らの知っている常識がまったく通じていないだけなのだ。
大抵の場合、魔力が高いとされる魔族間でも
それをたかが人間風情が魔族の使う
常識を知っていればいるほど、違和感を覚えぬはずがなかった。
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