01-02「人造勇者、初陣」⑤
⑤
度重なる魔族との連戦でゼクシズの疲労は
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁっ……」
肩で息をして荒い呼吸を繰り返す。
手足がまるで鉛のように重い。
自らが立っているのかどうかさえも曖昧だ。
(ゼクシズ、大丈夫?)
「…………」
それでも聖剣を握るその手が緩むことはない。
敵の数を減らしたものの、まだまだ予断を許さない状況だ。
今は戦闘に加わる様子を見せないが、最大の難関であろう首魁も控えている。
こちらの戦力は己ただ一人。
数少ない味方だった者たちは力を得る為とはいえ自らの手で手にかけている。
他の
援軍など望むべくもなかった。
戦況は圧倒的に不利な状況だ。
加えて、疲労状態にある彼を敵が休ませてくれるはずもない。
魔族たちは屍を積み上げながらもゼクシズを尚も攻め立てる。
それでも。
人造勇者は怯まない。
怖れを知らぬ
着実に敵の数を減らしていく人造勇者と人造聖剣。
やがて、ゼクシズの青い装束が魔族たちの血によって更に青く染まり始める。
魔族たちは自分たちが優勢であると思い始めていた。
しかし。
事態は彼らが思っていたのとは正反対だった。
ゼクシズは一見派手に出血しているように見えるが、その実大した負傷ではない。
すべて皮一枚切った程度の掠り傷だ。
戦闘を継続するにまったく問題はない。
加えて、ノインツィアが持つ能力【
魔族たちがそれに気づくのはもう少し先の話になる。
この戦闘の中でゼクシズにはいくつか優位な点があった。
まず一つは人造聖剣の存在である。
ノインツィアの存在により自身は魔力を消費することなく補助魔法の恩恵にあやかれる。
加えて、並の武器であったなら多数の魔族を相手取った戦闘では武器が損耗に耐えられないが、ゼクシズの手にあるのは人の手で造られたものとはいえ聖剣である。
その切れ味はそうそう鈍るようなものではない。
人造勇者であるゼクシズ=ベスティエによる
次に魔族たちが戦闘ではなく、物見遊山気分でこの場を訪れていた、ということだ。
勇者と戦闘を行う。
そう知っていたのであれば、彼らとてそれなりの準備をしてきたことだろう。
しかし、勇者の血脈は途絶えて久しい。
彼らに脅威を与える存在など最早この世界には存在しないのだ。
魔族たちはそのことをよく理解していた。
勇者の血脈を忌々しく思っていた彼らだからこそ尚更。
なれば。
いや、なればこそ。
自分たちに脅威を与え得るゼクシズの力を目の当たりにしてさえ、彼らはまだ半信半疑なのだ。
あれは本当に勇者なのか、と。
何かの間違いであって欲しい、と。
その動揺が少なからず彼らの動きを悪くしていた。
そして、人造勇者たちに最も有利に働く点。
それは。
人造勇者も人造聖剣も戦いの中で成長するというその点。
その一点に尽きた。
加えて、尋常ならざる
それには以下の理由が存在する。
人造聖剣ノインツィア=シュヴェルトの成長、それは大きく二つに分けられる。
まずはノインツィア自身の成長。
これにより新たな魔法の習得、威力の向上、発動の高速化などの恩恵が見込める。
そして、もう一つの成長方法。
肝要なのはこちらである。
それはノインツィア自身とその使い手である人造勇者ゼクシズ=ベスティエの
そして、もう一つは人造勇者であるゼクシズ=ベスティエ自身の成長。
ゼクシズ自身の剣腕が上がれば、その斬撃はより鋭く、より回避し辛いものになる。
今までは会得できなかった技が使えるようになる。
よりスムーズに動作を行えるようになる。
より少ない
魔法の方も同様だ。
今までは会得できなかった魔法が使えるようになる。
より魔法の威力が上がる。
より速く魔法を発動できるようになる。
より少ない魔力で魔法を使えるようになる。
以上。
それらの理由で。
この短時間の戦闘の中で敵は確実に手強く、斃し難くなってきているのだ。
その理由までは知る由もない。
だが、現実に無駄な動きがなくなり、格段に消耗が軽減されたゼクシズの呼吸は規則正しいものになっている。
先程までの荒い息遣いがまるで嘘のようだ。
この事実に気付いた時、彼らは得体の知れない感情に初めて対面した。
支配者の種として生を受けて初めて手にする感情であった。
その感情の名は「恐怖」である。
非力であるはずの人間が剣を振るう度に、確実に同胞たちの命が失われていく。
自分たちはここに何をしに来たのか。
自分たちは狩りをしに来たはずだ。
それも自らの命を賭すような狩りではない。
獲物を一方的に追い込む、キツネ狩りのような楽しむための狩りをしに来たはずだ。
それなのに。
それなのにこの光景はなんだ?
何故眼前には同胞の屍が次々と数を増やしていく一方なのか。
魔族たちの情報処理能力はにわかには信じ難い目の前の現実に追いついてはいなかった。
彼らが幸運の招待状だと思っていたものは地獄へのそれに他ならなかったのだ。
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