01-02「人造勇者、初陣」④

 さあ、ここからが正念場だ。


 攻撃強化。


 防御強化。


 速度強化。


 魔法強化。


 魔法抵抗強化。


 ノインツィアはゼクシズにありったけの強化バフ魔法をかける。


 自らを聖剣と化した状態でもノインツィアは自己の有する技能スキルを扱うことができる。


 さらに。


 ヴンッ。


 聖剣が光を帯びる。


 加えて、人造勇者ゼクシズ人造聖剣ノインツィア導入インストールされていた魔法剣を発動させたからだ。


 これだけの数の魔族が相手なのだ。


 基本的には一振りで絶命させねばならない。


 少しでも殺傷力を高めようとするは道理だった。


「我々を皆殺しにするだと?」


「大口を叩いてくれる」


「この世界の支配者が誰なのか体で教えてやらねばならんようだな」


「なに、目の一つや二つ、手足の一本二本失えば、嫌でも気がつくだろうよ」


「勇者など所詮旧時代の遺物。再び葬り去ってやろうぞ」


 再びいきり立つ魔族たち。


「よく喋る」


 たったその一言。


 しかし、それだけで彼らを激昂させるに十分な言葉であった。


「小僧が!」


 怒りの限界リミッターを振り切った魔族が、疾風の如く人造勇者に襲い掛かる。


 それはとても常人の目で捉えられるような速度スピードではない。


 しかし。


(いけるわね?)


「ああ」


 ザシュッ。


 剣閃が走る。


「この領域レベルならどれだけいようと問題ない」


 その言葉の通り、ゼクシズはまた一体の魔族を葬り去った。


「こいつ、一体何を喋って……!?」


「そんなことはどうでもいい」


「問題はこの人間が我々を殺せるだけの力を持っている、というその事実だ」


「そちらはたかが一匹。多勢でかかれば問題あるまい」


 一体の魔族が提案する。


「嬲り殺しか。予定とは異なるが、そういった趣向もたまには悪くない」


「調子に乗るのもここまでだ」


「生半に我々と戦える力を持ったこと、後悔させてやらねばな」


「たかが人間相手に多勢で襲いかかるなど!」


 次々と周りが同調する中、異議を唱える者がいた。


 しかし。


「敵は普通の人間ではない。舐めてかかれば火傷では済まんぞ」


 その一言で黙殺される。


 感情論が道理に敵うはずもないのだ。


 かくて、魔族たちはたった一人の人造勇者に複数で襲いかかる。


 しかし、結果は同じだった。


 ザンッ!


 ゼクシズは複数からの猛攻をかい潜り、一体の魔族を絶命に至らしめた。


 首を刎ねる。


 それが魔族にとって最も有効な殺傷手段である。


 生物である以上、頭部を失って生きていられる者など殆ど存在しないだろうからだ。


 また一体同胞を失った魔族たちだが、そんな些事で彼らは止まらない。


 すぐさま新たな戦力を投入してゼクシズを攻め立てる。


 攻撃に次ぐ攻撃。


 数の暴力の嵐の前に人造勇者は防戦を余儀なくされる。


 このままではやがて詰む。


 それを即座に悟った相棒パートナーである人造聖剣が戦術の切り替えを提案する。


(このままじゃじり貧よ。多少の怪我は覚悟の上で突っこんで!)


「わかった」


 彼らはゼクシズが避けることを想定して隊列フォーメーションを成している。


 だからこそ、人造勇者は敢えて突っこむ。


 攻撃を恐れず、勇猛果敢に突貫していく。


 その結果、無傷では済まないが致命傷を避けることはできる。


 顔を掠める連撃を意にも介さず、ゼクシズが反撃の狼煙を上げる。


 ボッ!


 人造聖剣が攻撃を仕掛けてきた魔族の目を返し技カウンター気味に貫いた。


 頭部を破壊され、その魔族は絶命した。


 その代償として、ゼクシズは頬に傷を負う。


 掠り傷と生命。


 悪い取引ではなかった。


「なんだと!?」


「バカな!」


 同胞の死に一瞬気を取られる魔族たち。


 それを見逃してくれる程、人造勇者も人造聖剣も甘くはなかった。


 ザシュッ!


 その刹那の間にさらに二体の魔族を葬り去る。


 こうして、傷を増やしながらも人造勇者は次々と魔族を屠っていった。

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