第2話 孤独
天気は快晴、雲ひとつ無い。既に日は落ち小さな飛行機の窓からは星が良く見える。
しかし、
彼の隣、通路側の席には
「なぁ、昴。二年で誰が一番美人だと思う?」
「そりゃぁ、生徒会長の
「俺も二文字だぞ。」
「偶々だ。颯はどう思う?」
「冷たいな、昴は。俺は、クールビューティーの橘莉々菜だと思うな。美人だし剣道部の部長してるからか凛々しいし。何より巨乳なのが良いな。」
「生徒会長も凛々しい上に美人だし巨乳だぞ。そう言えば生徒会長も剣道部だったな。二人は友達かな。顔がみたくなった。出来れば話したいな。くそっ、余計に会いたくなった。」
「それが修学旅行だな。いつもと違う環境と恋愛成就への期待が気持ちを高揚させ行動させるんだ。未完成の事実は記憶に残るだろ?片思いは未完成の事実だから記憶に残っていて、それを完成させることは通常以上の喜びになるんじゃないかな。」
「ふーん、どこにいるか知ってるか?」
颯は修学旅行に対する持論を展開してみたが、昴には全く関心がない。その論理が正しいかどうかもわからないし、どうでもいいと思っているから聞き流した。
「クラスから言えば前の方の席だろ。」
「そうか、前の方か。ちょっとトイレ行ってくる。ついでに見てくるよ。」
そう言うと、昴は立ち上がり上の棚からリュックを取り出しトイレへと向かった。リュックの中にはゲーム機やパスポートなど直ぐに必要になる細々としたものを入れいている。
「昴、何で荷物持っていくんだ?」
「ちょっとした大人の事情だよ。」
「ほぉー、頑張れよ。」
昴がトイレに立ち、話す相手がいなくなったので本を読み始めた。
昴遅いなと颯が思った時だった。
それは突然始まった。
突然の光が飛行機の中に溢れた。
颯は目の前が真っ白になり何も見えなくなった。
光が収まった時、飛行機前方に座っていた乗客が忽然と姿を消していた。
乗客の突然の消失に機内は混乱に包まれた。
飛行機は十数分後、元の空港に引き返すことになった。
颯は昴を探した。しかし、機内の混乱で外に出るまではあまり探せない。
昴は生徒会長を見に前方のトイレへと向かった。だから昴も消えたのかもしれない。颯はそう考えた。
案の定、颯は昴の姿を見つけることは出来なかった。
結局、消えた乗客二十名。
その後、ペテルギウスと乗客の消失に関連性があるのではないかと報道が騒ぎ立てた。報道も関連性の有無については懐疑的であった。しかし、話題性を持たせるために敢えて関連付けて報道した。
結局、消えた乗客の行方は分からないまま、報道される数は日毎に減少していった。
颯は持てる知識を使い昴の行方を探した。
しかし、どこにも昴を見つけることは出来なかった。
それでも颯は昴を探すことを止めなかった。
ただ、事態は捜索の継続を許すほど甘くはなくなっていった。
あの日、飛行機内から乗客が消えた日から既に一週間が立っていた。ニュースは少し減ったとはいえ相も変わらず飛行機内から消えた乗客の怪についての報道がなされている。
その減った原因が飛行機で消えた乗客の他にも少しづつ人が行方不明になっているというニュースだ。既に多くの人々の行方がわからなくなっていた。
颯は学校があるため捜索はもっぱらネットに頼っている。
しかし、どう考えても現代科学で一瞬にして乗客を誰にも気づかれずに拉致することなど不可能だ。もしかしたら、すべての乗客を眠らせて飛行機を着陸させ乗客を拉致し、その後再び離陸し上空で乗客を覚醒させる、そうすればできないことはないかも知れない。目的は金か政治的理由が考えられるがそこまでする必要はないし、政府か個人に対して何らかのアプローチがあるはずだと考えられる。しかし、それも現在までの所ない。
新たに思いつく拉致方法はなく、捜索すべき場所もわからない。最早手は尽きたと颯は諦めかけていた。
その日も颯はいつものように学校へ行くウイークデーでありいつもの時間に起床した。
空は快晴、窓から朝日が降り注ぐ。
雀の騒がしい声が外から聞こえて来る。
聞こえる?
可怪しい。
いつもは雀の声は殆ど聞こえない。なぜなら外を走る車の音が煩いからだ。
にもかかわらず、今日は車の音が全く聞こえない。
窓を開けると外を走る車は一切見えなかった。歩いている人もいない。誰もいない。
不安が過り、足早に一階へ向かう。
そこにはいつもいるはずの両親の姿がない。
誰もいなくなったのだろうか。
颯は、パニックを起こしそうになりながらも、考えを否定することで平静を取り戻した。
(よし、まず学校へ行ってみよう。誰か登校して来ているかもしれない。)
颯は平常のように徒歩で学校へ向かう。しかし、誰も見ることはない。いつも会う昴は既に行方不明になっていて遭うことはないとしても他の誰もいない。
学校へ到着した。
やはり誰もいない。
不意に不安と寂寞とした感情が押し寄せ彼を包み込む。
彼が好きだった橘莉々菜が飛行機で昴と一緒に行方不明になったことが今更ながら思い出される。
莉々菜と会いたい。彼の目から涙が溢れ出る。
溢れ出た涙はいつ枯れるともなく流れ続けた。
どれ位経っただろう。お腹が減った。
一頻り泣いたことで彼は落ち着きを取り戻した。取り戻した平静が忘れていた空腹感を際立たせる。
学校は電気がついていた。もし、この近隣の電気が原子力発電所からの電気であった場合、送電が止まることはないのだろうか?それ以外の発電方法であれば止まりそうだ。
そうだ、太陽光発電だ。
太陽光発電のある家ならいつまでも電気が尽きることはないだろう。
まず、コンビニの食品を冷凍する。そのほうが長く持つ。
巨大な太陽光発電をしている家を探す。多分金持ちで豪華な家だろう。
電気屋に言って冷蔵庫を持って来る。車は運転できないが無免許運転でも文句を言う人間もいない。
コンビニやスーパーの食品を冷凍庫へ。
そこで食いつなぐ間に長らく食いつなぐ方法を模索する。
それと銃だ。
もしかしたら人間がいなくなった原因がアメリカ人が大好きなゾンビ映画のように人間がいなくなったのではなくゾンビに変っていた場合には必要になるだろう。
考えられるのは近所の銃砲店。
しかし、あるのは散弾銃。単発式のライフルくらいだろうか。警察署に行けばグロックもあるのだろうか。未だにニューナンブを使っているということはないだろう。スミス・アンド・ウエッソンだろうか。
それでも相手が多数のゾンビなら心もとない。
しかし、日本はアメリカとは違い近所のスーパーに銃は販売していないし、銃砲店も種類が少ない上に、オートマチックウエポンなどない。
あるとすれば自衛隊だろうか。誰もいないのなら車で自衛隊まで言って貰ってくるという手もある。
もし、他の誰かが生きていて独占欲の強いやつなら武器を手に入れこの国を自分のものにしようとするかもしれない。その時奴隷にされるのはゴメンだ。だから武器は手に入れるべきだ。
しかし、まず食料だ。その次に武器だ。
なんとしてでも生き残る。
生き残ればまた昴にも莉々菜にも会えるかもしれない。
会長にも会いたいし。
まずコンビニだ。
俺は近くのコンビニに急いだ。
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