ペテルギウスファンタジア

諸行無常

第1話 異変

  その日、赤色巨星ベテルギウスが爆発した。

 その650年ほど前に起こった超新星爆発の光は今地球へ届き、季節は初夏であった為、冬の大三角の一つであるペテルギウスではあったが、その光は昼間でも明るく見え太陽が二つあるかのように見えた。

 地球ではその影響によって何事も起こること無く、今までと変わらない平穏な日常が送られていたかに見えた。

 しかし、異変は誰も知らないところで着実に少しづつ起こり続けていた。

 テレビでは、超新星爆発の影響でガンマ線が降り注ぎオゾン層に穴が開いた程度に留まったと報道していた。しかし、それは一般人向けの報道で、アメリカ政府やNASAではその事態が深刻であると受け止めており不安を煽らないために世界各国でなされた報道であった。

 現状では何ら変化のない日常から人々は報道された内容が真実であると受け止めて、超新星爆発によって降り注いだ光を、日蝕の様なただの天体ショーだと考え平穏で普通の日常が継続されていた。


 爆発が地球から見られた翌日、かなではやても普段どおりの生活を送っていた。

 去年から近所の私立の高校に通い始め、今年二年生になった昴は今日も今日とて朝起きて学校へ向かう。学校は徒歩で通学できる距離にあり昴は毎日歩いている。


 十分程歩くと、小学校からの友人のかがみすばるが颯の前を歩いている。朝の挨拶だと言わんばかりに後ろから昴の背中を叩く。


「よう、おはよ。吃驚したよな、昨日の超新星爆発!?」


「ほんと、驚いたよ。突然太陽が二つになるんだもんな。」


「ニュースじゃ、超新星爆発でガンマ線が降り注ぐけど、オゾン層に少し穴が空くだけで問題はないって言ってたけど本当だと思うか?」


「嘘だろ。だって、超新星爆発が起こることも知らなかったのにそれによって発生するガンマ線の量が分かるのか疑問だよな。」


「でも、ペテルギウスの大きさから判断したんじゃないのか?」


「なるほどね。でも、その報道が真実とは限らないよな。」


「ふーん、またいつものか?」


「ただの感だよ。触ってもないし。」


 季節は初夏の六月、もうすぐ梅雨が訪れるが一年の内で一番良い季節と言える時期だ。少し走っても汗はかかないし、体中がベタベタすることもない。

 他愛もない話をしながら学校へ向かう。するとお婆さんが何やら困っているようだ。

 そのお婆さんの前に立ち困り顔で助けようとしている同じ高校の女子生徒がいた。


「おい、あれって学園のマドンナだぞ。」


「そうだな、生徒会長のいかりみおだな。相変わらず朝から爽やかな雰囲気を醸し出してるな。」


「あのお婆さん、多分アルツハイマーだな。昴、助けてやれよ。」


「分かったよ。会長、おはよう。」


「おはよう。」


 鈴を転がすような澄んだ少々高めの声が返ってくる。声まで爽やかだ。敬語で話したが、この学校は県内有数の進学校であり三年は受験で忙しいので二年生から生徒会長が選ばれる。その為、碇澪も二年生だ。

 美人で賢く面倒見が良い彼女は小さい頃から人に慕われ成績は常にトップクラスで、あまり親しくない昴と楓にも優しく接してくれる。


「どうした、何か困り事?」


「迷子みたい。迷子じゃないわね。迷婆?何でも良いわね。どうやらアルツハイマーみたいで自宅も名前も会話さえも難しいのよね。」


 昴はお婆さんの肩に触れ大丈夫ですかと声をかけた。

 その瞬間昴の眼前には断片的な映像が現れる。

 白壁の家、歩いた道、犬。

 この家を昴は見たことがあった。


「会長、俺、このお婆さん見たことあるよ。家は三丁目だと思う。俺が自宅まで送って行くから任せて。」


 昴は小さい頃から不思議な力があり触った人やモノの記憶を断片的ではあるが読み取ることが出来た。

 つまり彼はサイコメトラーだった。

 しかし、その事実を知るのは颯一人であり、他の人には隠し続けている。それ故、昴はサイコメトリーで知った事実も既知の事実だとして告げるようにしている。


「え、本当?助かったわ、ありがとう。私、先生から呼ばれてるから、後はお願い。」


 先生から呼ばれている話が真実かそれとも嫌なことを押し付けるバツの悪さから付いた嘘かは分からないが、澪に関しては誰もそれを虚偽だとは考えないだろう。それ程周囲から信頼されている澪であった。


「颯、行くぞ。付いてきてくれ。」


「俺も遅刻かよ。仕方ない。ほら、さっさと行くぞ。」


 二人はお婆さんを連れて、お婆さんの自宅へと向かって学校を通過し送っていく。

 その二人を訝しげな目つきで見つめる生徒会長の姿があった。


「怪しい。」


 この学校では期末テストと中間テストの間の六月頃、二年生に修学旅行が予定されている。今年は明日から修学旅行だ。

 私立高校である為か目的地はハワイだ。ただ、生徒の為と言うより先生が行きたいからハワイになったのではと生徒は考えていた。しかし、生徒も目的地に異存はなくクレームらしいクレームも出ない。


 修学旅行当日、学校に集合してバスで空港へ向かう。

 バスの中で昴と颯は隣の席に座っていた。


「なぁ、昴?この前の超新星爆発の影響が飛行機にでて落ちるってことはないよな?」


「知らないよ。俺にそんな難しい事聞くなよ。」


「昴、君、良くこの高校受かったな?」


 颯は中学の頃から生徒会長ほどではないが成績はトップクラスで賢かったが、昴はそれ程でもなく楓と同じ高校に通うためと言うより、近所の高校に通い通学の煩わしさを避けるために勉強して今の高校に受かった。


「成績は颯と変わらなかっただろ。」


「俺が昴に求めるのは第六感だよ。科学的根拠は求めてないよ。」


「ありがと、そりゃ俺がひらめき型の天才と言ってるんだよな。」


「違うぞ、単に感が良いと思ってるだけだよ。」


「もう、教えてやんねぇー」


「冗談だよ。教えろよ。」


「俺にそんな感はないよ。それじゃただの占いと一緒だろ。」


「飛行機触って落ちるかどうか分からないのか?」


「飛行機の過去は分かるけど未来は分からないよ。」


「そりゃ、そうか。」


 バスは予定通り空港へ到着し、二時間後予定通り飛行機はハワイに向けて出発した。

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