第6話

 「ほう、おれの意思も聞かずにそんな約束をしたのか」


 別に怒っていなさそう、それどころか無関心といった表情で言う。少しは興味を持ってくれよ。下ばっか見やがって。僕の手にはそんなに興味を注いでくれなくていいから。……それでも謝らなくていい理由にはならない。


 「う、ごめん、なさい。けど、ほら、あれでも真田さんってあんまり怖くないし、クリスも良い人だし、僕だってあの二人じゃなかったら引き受けてなかったし…」


 自分に非があると自覚している時こそ口調は言い訳がましいものになるものだ。


 「真田、真田。確か幼稚園からずっと同じ学び舎に通っている。一度腰を据えて話してみたいとは思っていた」


 まるで思い出すように側頭部を軽く小突きながら天羽は言った。そして、少し困った様に眉を下げる。


 「しかし、課題はおれの家で行う心算だったが…」


 「それこそ僕は聞いてないぞ。僕はてっきりカフェかファミレスだとばかり…」


 そこでふと言葉を止める。存外悪くないかもしれない。僕は真田の恋を応援すると言ったのだ。ならば想い人である天羽の家で課題を行うならそれも吉か。


 「いや、良いんじゃないか?どうせ君は移動しなくて良いから楽だとかそんな理由で自分の家を指定しようとしたんだろ」


 「…よくわかったな」

 

 目を軽く開いて驚いている。


 「君が考えそうなことだよ」


 流石にずっと隣席にいるわけだし何となく性格は把握するさ。

 ふん、と彼はいつもの様に鼻を鳴らす。心なしか口数が増え、表情が豊かになったようにも思える彼は、少し口角を上げたように見えた。

 


 「と、言う訳で、天羽宅に朝10時集合だよ。日を決めたいんだけど、希望はあるかな?」


 放課後、僕は真田とクリスに天羽との会話について話していた。


 「え、えっと、天羽の家?それはその、ううーん」


 何時もはっきりと気持ち良く物を言う真田が優柔な態度を取るのは珍しい。明らかに戸惑った様子で、視線を左右へ動かしたり顔の横に流れている髪(触覚と呼ぶ女子がいたかな)を弄ったりしている。かわいいな。


 「しかし、女性1人に男子3人、男の家に集まるのは些か不健全に過ぎるんじゃないか?」


 柳眉を下げて心配そうな顔をするのは、僕が唯一素直に尊敬出来る友人、クリスである。あんたは真田のおかんか。しかし、うむ、ごもっともな意見だ。


 「じゃあさ、ホルクロフトの妹を連れてきてよ!」


 有無を言わさぬ強い口調でクリスに詰め寄る真田。うん、それでこそ真田、である。対するクリスは自信なさげな様子だ。


 「フェリスか。まあ、誘ってみよう」


 「ありがとう!」


 フェリスさんか。クリスの妹、写真は見た事がある。佳人薄命と言うが、本当に数奇な運命のもと早逝してしまいそうな人だった。


 「ふむ、フェリス一人年下では緊張するかもしれない。霍夜、影李ちゃんの事を誘ってくれないか」


 「うん、いいよ」


 この機会にフェリスさんと影李が仲良くしてくれれば、それを眺める僕も眼福、いい事尽くしじゃないか。実は僕は百合にドキドキする傾向があったりする。…下心しか無いな、僕。


 「助かる」


 屈託無く笑うクリスに対し少し決まりが悪く感じたが、微笑み返してみせた。

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