第3話 引き寄せのストロベリージャム
朝ご飯を終えるなり、私はローズマリーにむりやり台所に連れてこられた。
「さて、あんず。今日はとりあえず、ハーブ帳を見ながら簡単な料理を作ってみるにゃ」
台所のテーブルに乗り、命令してくるローズマリー。私はおそるおそる手をあげた。
「あのー」
「何にゃん。アケミなら外の畑で作業をしてるから当分もどって来ないにゃん」
「あの、そうじゃなくて。私、料理ってほとんどしたことないんだけど」
「にゃ」
ローズマリーは、信じられない、という顔をして私を見た。
信じられないのは、こっちの方だから!
「で、でもほとんどってことは、少しはした事あるにゃんね」
「うん、多少は」
とは言っても、目玉焼きと野菜いためくらいしか作ったことないけど。しかも学校の調理実習で一度だけ。
「多少ってどれ位にゃ」
「多少は多少だよ。それより、簡単な料理って、何を作ればいいの」
「それは、あんずが考えるにゃん。使い魔はあくまでサポートにゃんだから」
「ええっ」
私はローズマリーに言われて仕方なく、レシピ帳をパラパラとめくってみた。だけど何を作ればいいのかさっぱり分からない。
みんな、毎日の
私はお母さんの顔を思い浮かべた。
お母さんは、アケミおばさんと比べたら、あまり料理は得意なほうじゃないけど、毎日ご飯を作ってくれていた。もしかしてそれってすごいことなのだろうか。
「そうだ。そう言えばお母さん、よく冷蔵庫の中のあまり物を見て、メニューを決めてたっけ」
私は冷蔵庫の中を見てみることにした。
「うーん」
野菜室の中をのぞき込むと、そこにはキャベツ、玉ねぎ、人参、ピーマン、ナス――何でもある。
でも何でもあるというのも逆に困ってしまう。一体なんの料理を作ったら良いんだろう。
「あんずちゃん。どうしたの、こんな所で」
冷蔵庫の前でなやんでいると、麦わらをかぶり、カゴを持ったアケミおばさんがやってきた。どうやら畑からもどってきた所らしい。
「お、おばさん。その、お腹が空いたから何か作ろうかと」
私はあわててレシピ帳を後ろにかくした。
「あら、お腹が空いたの? なら私が何か――」
「ううん、私が作りたいの!」
とっさにさけぶと、アケミおばさんはキョトンと目を丸くした。
「えっと、その、中学生になるし、せっかくだから料理を始めたいと思って」
しどろもどろになりながら言いわけする。
「そう、それはいい心がけだね」
アケミおばさんは、テーブルにカゴを置き、グラスに麦茶をそそいだ。
私がなんとなくアケミおばさんの持っていたカゴの中に目をやると、赤い果物のようなものが見えた。
「あ」
「とうかした?」
「おばさん、そのカゴに入ってるのは何?」
「ああ、これ? これはね、庭で採れたばかりのワイルドストロベリーだよ」
「ワイルドストロベリー?」
「うん。野いちごって言った方が分かりやすいかな。うちで育ててるんだ」
アケミおばさんが、カゴの中のワイルドストロベリーを見せてくれる。
普通のイチゴより小ぶりで丸くてつぶつぶしたワイルドストロベリーたちが、真っ赤にツヤツヤと光っている。
「野いちご? 野いちごって食べられるの?」
「そうだよ。お菓子にしたり、ハーブティーにしたりするの」
「そうなんだ」
私はさっき読んだハーブ帳を思い出した。
確かハーブ帳の中に、ワイルドストロベリーのページがあったような。
「ねぇ、そのワイルドストロベリーで何か作ってみてもいいかな」
「うん、いいよ。たくさん採れたし、畑にもまだまだ生えてるから、いくらでも使っていいからね」
「わぁ、ありがとう」
「その代わり、できたらおばさんにも食べさせてね」
「うん、もちろん。待ってて」
じゃ、とおばさんが去っていくのを見届けてから、私はハーブ帳をテーブルの上に置いた。
「ふう」
「ワイルドストロベリーの料理を作るにゃんか」
ローズマリーがハーブ帳のページをのぞき込む。
「うん。たくさんあるしね」
「いいことにゃん。ハーブ使いの力は、植物から力を借りる力。そして植物の力が一番強くなるのは、その植物の
ローズマリーの言うハーブ使いの力っていうのは正直よく分からないけど、たしかに旬の食べ物って美味しいし、旬って大事かも。
私はハーブ帳をめくり、ワイルドストロベリーのページを見つけた。
「あった『ワイルドストロベリー』」
ワイルドストロベリーの花言葉は『
アメリカでは願いを
しかもビタミンCや鉄分、カリウムが多くふくまれていて、
「さて、何を作ろうかなぁ」
私はカゴの中のワイルドストロベリーたちを見た。今が旬だからなのか、カゴの中には使い切れないほどのワイルドストロベリーが入っている。
「これだけたくさんあるし、やっぱりジャムかな」
ハーブ帳の左側のページには、ハーブの効果や
私はその中の一番上にのっている、『引き寄せのストロベリージャム』というジャムを作ってみることにした。
「ふむふむ。ローズマリー入りのジャムにゃんね。これは私の力を見せるのにもちょうどいいにゃん」
ローズマリーは庭のローズマリーをポキンとおると、それをくわえてテーブルの上に置いた。
「これを使うにゃん」
「うん、ありがとう」
私はエプロンのリボンをキュッとしめた。
「よしっ、やるぞっ」
まずはヘタを取ったワイルドストロベリーをおナベに入れ、ローズマリーの枝を一つとお砂糖を加える。
それからナベを中火にかけ、グツグツしてきたら弱火でこげないようによく混ぜながら三十分ほど
そうしたら、さらに三十分ぐつぐつと煮込み、ペロリと味見をして、完成!
「うん、お砂糖を入れすぎかなと思ったけど、丁度いいかも」
こうして初めての料理――ローズマリーの
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