第2話 おばあちゃんとハーブのはなし
「……ん」
さわやかな朝日で目が覚める。
見慣れない天井でおどろいたけど、すぐにアケミおばさんの家に来たのだと思い出す。
はーあ、昨日はなんだか信じられないような事がたくさんあったな。
ネコがおしゃべりしたり、ネコを使い
もしかしてあれは、全部夢だったんじゃないかな。初めて一人で島に来て疲れちゃって、それであんな夢を――
スタッ。
軽やかな足音とともにオッドアイのネコが私のそばに寄って来る。
「おはようにゃん、あんず。さっそくハーブ使いになるための特訓をするにゃんよ!」
「う、うん」
ネコがしゃべってる。
やっぱり夢じゃなかった!
***
「ねえ、ローズマリー、そういえばハーブ妖精って一体何なの?」
机に座り、ローズマリーにたずねる。
ローズマリーはうーん、とうなった。
「あんずは、
「付喪神? あの、古いものには
「そうにゃん」
うなずくローズマリー。
「ハーブ妖精は、言ってみればその付喪神みたいなものにゃんね。古いハーブに宿った
「そうなんだ」
つまり、ローズマリーは妖怪みたいなものってこと?
「あんずちゃーん、ご飯だよ」
そこまで聞いたところで、おばさんに呼ばれる。良かった。ちょうどお腹空いてたんだ。
「はーい、今行く」
私はローズマリーの顔をチラリと見た。
「じゃ、とりあえず続きは朝ごはんの後でね」
「それじゃご飯を食べ終わったら、いよいよハーブ使いとしての実践をしてみるにゃん」
「実践?」
ローズマリーは美しいオッドアイの瞳を三日月みたいに細めた。
「ハーブを使った料理を作ってみるにゃん」
***
リビングに行くと、大きな木のテーブルに、たくさんのご飯が並べられていた。
「わぁ、おさしみ」
大好きなおさしみがテーブルに並んでいるのを見て思わず声を上げる。アケミおばさんはうれしそうに顔をほころばせた。
「これは海でとれたばかりのタイだよ。こっちのイカもそう」
「私、おさしみ大好き」
「野菜もちゃんと食べるのよ」
「はーい」
アケミおばさんに言われて、野菜のスープに手をのばす。
「わっ、甘い」
キャベツも玉ねぎも信じられないほど甘くて柔らかい。何これ、こんな野菜スープ初めて食べた!
「うちの庭で採れた野菜だよ」
「えっ、そうなの」
私がびっくりして野菜たちを見つめていりと、アケミおばさんは照れたように笑った。
「美味しいでしょ。採れたての新じゃがと春キャベツだよ」
「うん。野菜がこんなに美味しいなんて」
野菜ってあまり好きじゃなかったけど、これなら毎日でも食べられそう。
「採れたてっていうのもあるけど、うちの庭で採れた野菜は特に甘みが強いんだよ」
「うん、本当に甘い」
私が夢中で食べる姿を、アケミおばさんはニコニコしながら見つめた。
「おばあちゃんから受けついだ畑だからね。
おばあちゃんはこの島に自分で育てたハーブを使ったカフェを開くのが夢だって言っていたんだ」
「そうなんだ」
「結局それは実現しなかったけどね。近所の人はこの庭を『妖精のハーブガーデン』なんてよんだりしてるんだ」
おばさんは笑う。
「妖精?」
首をかしげた私の横を、何か白いものがシュッと通りぬけた。
「にゃあぉ」
真っ白な体に、青と金色の目。
「ローズマリー!」
だけどローズマリーは私の横をとおりすぎ、アケミおばさんの膝にすり寄った。
「あらあらシロちゃん、お魚がほしいの?」
「にゃあお」
アケミおばさんがおさしみを分けてあげると、ローズマリーはタイのおさしみを美味しそうにたいらげた。
こうして見ると、ローズマリーは妖精じゃなくてただのネコみたい。
タイのおさしみを食べるなんて、ずいぶん贅沢なネコだけど。
「ローズマリー、タイが好きなんだ」
ポツリとつぶやくと、おばさんが不思議そうな顔をした。
「ローズマリー?」
「あ、うん。この子、自分のことをローズマリーって名前だって」
私が言うと、おばさんはキョトンと目を丸くし、身を乗り出した。
「もしかしてあんずちゃん、ネコちゃんの言葉が分かるの!?」
あれっ、もしかして、ローズマリーの声はアケミおばさんには聞こえないの?
私はあわててごまかした。
「分かるって言うか、なんか自然に聞こえてきて――ううん、ごめん。やっぱり気のせいかも」
アケミおばさんはニコニコと笑ってつづける。
「ううん、きっと気のせいじゃないよ。実はお母さん――あんずちゃんのおばあちゃんもネコの声が聞こえるって言ってたんだ」
「そ、そう。変わった人だったんだね、おばあちゃんって」
おばさんは少し困ったように笑い、ローズマリーをだき上げた。
「そう。残念ながら私とお姉ちゃん――あんずちゃんのお母さんにはその力は受けつがれなかったけどね。きっと、あんずちゃんにはおばあちゃんの力が受けつがれているんだね」
うんうん、とうなずくおばさん。
「それにね、おばあちゃんはネコの声が聞こえただけじゃないの」
アケミおばさんはニコニコしながら続けた。
「おばあちゃんはね、ハーブ料理を使って人の心を読んだり、もめ事を解決したりするフシギな力を持っていて、『ハーブ使い』だとか『ハーブの
「あはは、そうだね」
私はかわいた笑いをうかべた。
まさかそのハーブ使いに私がなっちゃっただなんて、とてもじゃないけど言えないよ。
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