第37話 カピバラ校長の正体
このままじゃ元の姿に戻れない!
あせっていると、カピバラ校長は時計を見て立ち上がった。
「おや、もうこんな時間か。そろそろ仕事も終わりにするかな」
ええっ、カピバラ校長、家に帰っちゃうの?
どうしよう、このままだとカピバラ先生の家まで行ってしまうかも。
カピバラ校長の家ってうちと逆方向だし、どうやって帰ったらいいんだろう。あんまりおそくなるとおばさんに心配かけるよね。
――っていうか、この姿だとゼリーも食べられないし、どうやって元の姿に戻ればいいの!?
どうしよう、永遠に人間の姿に戻れなかったら……
「――とその前に」
ばしゃん。
私の体に、何かの液体がかけられた。
「きゃっ、冷たい――ってあれ?」
私の手が人間の手に戻ってる。足も、体も、頭も。
「元にもどったみたいだね」
顔を上げると、マグカップを手にしたカピバラ校長が立っていた。
「校長先生! なんで」
私の頭からは、かすかにブルーマロウとレモンの香りがする。私はカピバラ校長の手に持ったマグカップを見た。
もしかして、カピバラ先生がブルーマロウの力を解いたの?
私が
「いやはや、君が磁気ネックレスに変身していることは途中まで気づかなかったよ。よくこんなことを考えるね」
カピバラ校長がポリポリと頭をかく。途中まではバレてなかった。じゃあどうしてバレちゃったんだろう。
「どうして私が変身しているって分かったんですか」
「それは簡単だよ。化学の授業をやっている時に、磁気ネックレスから寝息が聞こえてきたからね」
「ははは……」
そういえば、授業が難しくて寝ちゃったような記憶が。でも、寝息ですんで良かったかも。イビキなんてかいたらはずかしいもんね。
「それでピンときたんだ。これはブルーマロウのハーブ妖精の力だと。でも普通はこのハーブは別の人間に化けるのに使うんだよ。人間以外に化けるのと元に戻るハーブティーを飲むのが難しいからね」
「そ、そうだったんですね」
そっか。普通の人は他の人間に化けるのにハーブ妖精の力を使うのか。
「それで?」
カピバラ校長がまっすぐに私を見つめる。
「私が何のハーブ妖精か、観察してみて分かったかい」
「いえ、それが全然」
実を言うと、考えれば考えるほどカピバラ校長の正体は分からなくなっていた。一体先生は、何のハーブなんだろう。
「新月さん、君は少し考えすぎだ。もう少し肩の力をぬいて、自分の直感を信じるんだ。君が本当にウメコの
「肩の力をぬいて、自然に――」
そんな事言われても、ぜんぜん分からないよ。
私が下を向いていると、カピバラ校長は私の優しくポンポンとたたき、部屋を出ていった。
「それじゃ、期待しているよ」
カピバラ校長、一体何のハーブ妖精なの?
***
「ふう、全然分かんないや」
私はハーブ帳を閉じてのびをした。
結局あの後、家に帰ってからもハーブをすみからすみまで調べてみたけど、まだカピバラ校長の正体は分かっていない。
カピバラ校長は自分の直感を信じるように言っていたけど……。
「はぁ、私、ハーブの才能無いのかな」
――コンコン。
ゴロリとベッドに横になっていると、不意に部屋のドアがノックされる。
「はーい」
「あんずちゃん、まだ起きてるの?」
アケミおばさんが部屋のドアを開ける。
「あ、うん。ちょっと宿題があって」
とっさにハーブ帳をノートの下に隠す。
「そう、お勉強熱心だね。これ、差し入れ」
アケミおばさんがマグカップを差し出す。
「わぁ、ありがとう」
ふわり。
あれ?
私はお茶を一杯飲むと首をかしげた。
一見して普通のお茶のようだけど、風味が少し違うような気もする。
これと似たような香りを最近どこかでかいだような……。
「おばさん、これ、日本茶? ルイボスティーじゃないよね?」
「ああ、これ? これはゴツコーラのハーブティーだよ」
アケミおばさんがニッコリと笑う。
「
「そうなんだ、ありがとう」
ゴツコーラのハーブ。
そういえば、ゴツコーラって確か、ハーブ帳にのってたような。
急いでゴツコーラのページを開いてみる。
ゴツコーラは、別名ツボクサともよばれるセリ科のハーブ。
インドのアーユルヴェーダでは、知能や記憶力を高め、長寿や若返りに効果のあるハーブとされ、古くから最も重要なハーブの一つとされている。
そのためハーブ研究者の中には、ゴツコーラを最も優れたハーブとして好む者もいるのだとか。
私は生徒たちに勉強を教えるカピバラ校長の姿を思い浮かべた。
その親しみやすい容姿とは
「ゴツコーラ……」
その名前を頭の中でくりかえすと、なぜだかすごくしっくりときた。みょうな確信があった。
まちがいない。カピバラ校長は、知性と記憶をつかさどるハーブ、ゴツコーラのハーブ妖精だ。
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