9.妖精の秘宝

第38話 光の指し示すほうへ

「カピバラ校長先生!」


 私たち四人は再び校長室へとやってきた。


「おや、どうしたんだい。ついに私の正体が分かったかな?」


 カピバラ校長はよゆうの笑みをうかべている。


「は、はい。多分ですが」


 おそるおそる言うと、カピバラ校長はうれしそうにうなずいた。


「そうか」


「校長先生の正体は――」


「おっと」


 しゃべりだそうとした私をカピバラ校長が止めた。


「私を使い魔にはしないでくれ。特定の生徒をひいきするわけにはいかないからね」


「はい、分かりました」


「それから、答えは先生の耳元で教えて欲しい。他の生徒に正体がバレるのもまずいから」


「分かりました」


 私はカピバラ校長の耳元でささやいた。


「先生の正体は――ゴツコーラのハーブです」


「なるほど」


 カピバラ校長が目を細める。私はゴクリとツバを飲み込んだ。


「おどろいたよ、正解だ」


 カピバラ校長の言葉に、私たち四人は顔を見合わせる。


「おお!」

「やったわね、あんず」

「やったね!」


 うれしそうな顔をするヒミコちゃんたち。でも――


「あんず、どうしたの?」


 私が下を向いていると、ヒミコちゃんが心配してくれる。


「ううん、どうもしないよ。でも、本当にこれでいいのかな」


 私が言うと、カピバラ校長先生がフシギそうな顔をした。


「これでいいのか、とは?」


「だって私、自分の力でカピバラ校長先生の正体を見ぬいたわけじゃないんです。本当にたまたま――」


 そう、私がカピバラ校長先生の正体を見ぬけたのは、たまたまアケミおばさんがゴツコーラのハーブティーを入れてくれたからなんだよね。


 自分一人の力じゃ、カピバラ校長の正体にはたどり着けなかった。こんな私が、おばあちゃんの秘宝を手に入れちゃってもいいのかな?


 するとカピバラ校長先生が私の背中をポンポンとたたいた。


「何を言ってるんだ。新月さんが真剣にハーブについて調べていたから、アケミおばさんはハーブティーを持ってきてくれたんだよ」


「カピバラ校長先生……」


「確かにアケミおばさんが私のハーブティーを持って来たのはたまたまかも知れないけど、努力をしない者には、運もたまたまもやって来ないさ」

 

 ヒミコちゃんも私の手をにぎる。


「そうよあんず、運も実力のうちよ」


「う、うん」


 私がうなずくと、カピバラ校長はよろしい、とニッコリ笑った。


「さて納得したかな? では約束通り、秘宝がある場所を教えよう。まずは――」


「まずは?」


 全員で息を飲み、カピバラ校長をじっと見つめる。


「すでに使い魔にした他の六匹のハーブ妖精たちを呼び出すんだ」


 他のハーブ妖精を? 一体どうして。


「あの、それって全員ですか?」


「そうだよ」


 フシギに思いながらも、私はハーブ妖精たちの名前を呼んだ。


「ローズマリー、バジル、ナスタチウム、ベルガモット、ヨモギ、ブルーマロウ!」


 白、黄緑、黄色、赤、深緑、青――あざやかな光とともに、ハーブ妖精たちが現れる。


「見て、あんず」


 ヒミコちゃんが指をさす。


「あっ」


 見ると、等間隔とうかんかくに並んだ六匹のハーブ妖精たちの光によって、床に星の形ができていた。


「よいしょっと」


 そしてかけ声とともに、カピバラ校長がその中心にぴょこんと乗った。


 ――ヒュン!


 中心に乗ったカピバラ先生の体が、オレンジ色に光り、強い風がまき上がる。

 机の上の書類がバサバサと落ち、カーテンが波打つ。歴代校長の写真もガタガタとゆれる。


「まぶしい!」

「何これ!」


 あまりのまぶしさに目を細めていると、カピバラ校長がさけんだ。


「カピッ!」


 するどい声とともに、カピバラ校長の目から白い光がビームのように発射される。


 な、何これ!?


 私は白い光の先を目で追った。光は窓の外へ続いているように見える。


「まさか……」


 思わず口に出すと、ヒミコちゃんが私の目を見て頷いた。


「あの光の先に、妖精の秘宝があるんじゃないの?」


「それだ」


 タケルくんが興奮したように飛び上がる。


「さっそく光の先へ行ってみようぜ!」


「うん! 四人で一緒に……ってあれ?」


 何かおかしいと感じた私は、辺りを見回した。


 そういえば、さっきまでカノンくんが一緒だったのに、姿が見えない。どこに行ったんだろう。


「白樺カノンがいないわ」


 ヒミコちゃんがあたりを見回してつぶやく。


「本当だ。カノンくん、どこに行っちゃったんだろう」


 辺りを見回してもカノンくんの姿がどこにも見えない。なんだかイヤな予感がする。


「トイレじゃねぇの?」


 トイレ? こんな時に?


 だけどトイレを探してもカノンくんはいない。


「まさかとは思うけど、白樺カノンはスパイだったんじゃないの」


 ヒミコちゃんが低い声で言う。


「スパイ?」


 私とタケルくんは思わず同時に声を上げてしまう。


「そう。秘宝を手に入れるためのスパイよ。最初からそのために私たちに近づいたんだわ」


「まさか……」


 カノンくんがこれまでにハーブ妖精集めを手伝ってくれた事が頭の中に思い浮かぶ。


 まさか、あんなにいい人なのに?


「とにかく、光の先へ行ってみようぜ。ここでそんなこと話してても仕方がない」

 

「う、うん、そうだね」


 私たちは、三人で光のさす方へと走った。


 カノンくん、本当に妖精の秘宝をねらうスパイなの……!?


 三人で光が指し示す方角へ向かう。

 光はグラウンドを超えてその先、学校の裏山へと続いていた。


 ぼうぼうに生えた草木。けもの道のような道を走ると、カノンくんの後ろ姿が見えてきた。


「カノンく――」


「しっ、だれか居るわ」


 声をかけようとした口をヒミコちゃんがふさぐ。


 見るとカノンくんの横に黒いローブのおばあさんがいる。あれは――


「それで? ウメコののこした妖精の秘宝のありかは分かったんだね?」


「はい。こっちです」


 カノンくんと話しているのは、野菜ジュース屋のモモコおばあさんだ。


 一体、どういうこと……!?

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