8.カピバラ校長の正体

第34話 校長先生からの課題

 カピバラ校長は、やっぱりハーブ妖精だった!


「ええーっ」


 あまりにあっさりと答えるので、ぎゃくに私たちのほうがとまどしまった。


「先生がウメコさんの使い魔だったなんて」

「一体何のハーブ妖精なの?」

「秘宝がどこにあるのか知ってるのか!?」


 次々に質問をぶつける私たち。カピバラ校長は困ったように笑った。


「君たち、落ち着きたまえ」


 フン、と鼻から息をはき出すカピバラ校長。


「結論から言うと、私は秘宝のありかを知っている」


「えっ」

「知ってるの!?」

「一体どこに」


 つめ寄る私たちを、再びカピバラ校長は制止した。


「だから落ち着きたまえ。私は確かに秘宝のありかを知っているけど、それを君たちに教える義理はない。私は君たちの使い魔じゃないからね」


「そんな」


「だが」


 カピバラ校長はクルリと窓の外を見た。


「新月さんが私が何のハーブ妖精か正体を当てられたら、秘宝のありかを教えてもいいよ」


「本当ですか!?」


 やった。これでようやく秘宝のありかが分かる!


 ――でも、カピバラ校長、一体何のハーブ妖精なんだろう?


 ***


「とりあえず、ハーブ帳を見て校長先生のハーブを予想してみよう」


 次の日の朝、私は教室でヒミコちゃんと校長先生が何のハーブか予想してみることにした。


「校長先生と言えばカピバラだよね。カピバラっぽいハーブってなんだろう」


「オレンジ色の花が咲くハーブかもしれないわ」


「そうかも。調べてみよう」


 ハーブ帳をめくり、オレンジ色の花を咲かせるハーブを調べてみる。


 マリーゴールドにカレンデュラ、アカシア、ナスタチウムもそう。カモミールも白い花のイメージだけど、オレンジ色の花をつけるものもある。


「うーん、どれもピンと来ないな」


「そうね。そもそもカピバラってオレンジというより茶色っぽい気もするし」


 私とヒミコちゃんがなやんでいると、タケルくんがとなりの席にドサリとカバンを置いた。


「よう、カピバラ校長の正体は分かったか?」


「ううん、全然」

「今のところ、見当もつかないわ」


 タケルくんは私たちの返事を聞くと、カバンから本を取り出した。


「そっか。俺も植物図鑑をアニキから借りてきたから調べてみるよ」


「わあ、ありがとう、タケルくん」


 タケルくんはぷいと横を向いた。


「別に。俺も秘宝のありかが気になるしな」


 三人でハーブを調べていると、カノンくんもやってきた。


「おはよう。校長先生の正体は分かった?」


「ううん」


 三人で首を横にふる。


「そう。あのさ、僕なりに校長先生の正体を考えてみたんだけど」


「えっ本当!?」


 私とヒミコちゃん、タケルくんと三人で、身を乗り出してカノンくんを見つめる。


「ほら、ネズミって子供をたくさん産むからで子孫繁栄しそんはんえいのシンボルにもなってるだろ?」


 カノンくんが私たちの顔を見回す。


「だからミントとかタイムとか、たくさん増えるハーブじゃないかと思うんだ。それから山椒さんしょうなんかも、中国では子孫繁栄のハーブとして知られているみたいだけど、どうかな?」


「うーん」


 カノンくんの説は説得力があるようにも思う。でもどれも決め手に欠けるような気がしてならない。


「白樺カノン、カピバラ校長はただのネズミではなくカピバラよ。カピバラは一度に四匹ほどしか子供を産まないし、ネズミの中では繁殖はんしょく力は高くないほうよ」


 ヒミコちゃんが動物図鑑を手に熱弁する。

 というか、その前にカピバラ校長は人間なんだけど……いや、人間のフリをした妖精だっけ。


「それより、あんずはどうなの」


「えっ、私? うーん、どれもピンとこなくて」


 私が苦笑いをうかべていると、後ろから声をかけられた。


「ちょっと、新月さん」


 立っていたのは、リリスちゃんたちファンクラブ三人組だった。


「新月さん、ちょっとこっちに来てくれる?」


 三人に、無理やり廊下ろうかに引っ張ってこられる。


「カノンくんと、一体何を親しげに話しているの!?」


「な、何をって」


 三人の勢いに、思わずしどろもどろになってしまう。


「えっと、その、ほら、カピバラ校長の話」


「カピバラ校長がどうしたのよ」


「えっと、あの、その――」


 私が困っていると、カピバラ校長がヌッと出てきた。


「新月さんたちには、私から課題を出したんだよ」


「か、カピバラ校長」


「校長先生!」


 リリスちゃんたちがあわてふためく。


「い、イヤだわ先生、こんな所にいらしたの」


「でもなんで、新月さんたちにだけ課題を?」


「新月さんたちは、たまたま私がハーブを植えている所に質問してきてね、そこでハーブについて調べるよう課題を出したんだ」


 カピバラ校長の説明に、リリスちゃんたちは納得したようにうなずく。


「なぁんだ、そうだったんですの」

「それならそうと、早く言ってよね」

「そうそう」


 去っていくリリスちゃんたちを見ながら、カピバラ校長は苦笑いをうかべた。


「あの子たちは確か、小三の時にカノンくんが転校してきてからずっと、カノンくんのファンなんだよね。すごいよね」


「そうなんですね。そんなに昔から……」


 カピバラ校長先生、生徒たちについてくわしいんだな。さすが校長先生。


 私はカピバラ校長先生をじっと見つめた。


 でも校長先生、一体なんのハーブなんだろう?

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