第29話 ドキドキ体育祭
そして、体育祭は無事に本番の日をむかえたのでした。
「晴れだ」
私はカーテンを開けると、雲ひとつない青空にがっくりと
「残念だったにゃんね」
ローズマリーがいたずらっぽい口調で言う。私はハーブ帳をペラペラとめくると口を尖らせた。
「はぁ、ヨモギの花言葉は幸運だし、運良く雨になってくれると思ったんだけどな」
ハーブ帳のヨモギのページには、大きく赤い文字で「済」と書かれている。ハーブ妖精を使い魔にしたしるしだ。
ローズマリーはニヤリと笑った。
「そう上手くはいかないにゃん」
「あんずちゃーん、ヒミコちゃんが来てるわよ」
ガックリと肩を落としている私を、アケミおばさんの声がよんだ。
「はーい、今行く」
急いで部屋から出て玄関に走ると、体育着を着て、長い髪をポニーテールにしたヒミコちゃんが腰に手を当てて立っていた。
「あら、てっきり普通の授業と間違えて制服を着ているかと思ったけど、ちゃんと体育着を着てるわね」
「もう、体育着で登校することぐらい、ちゃんと覚えてるよ」
私って、そんなにおっちょこちょいなイメーシだった?
「まぁいいわ。早く行くわよ。ちこくしたら大変」
「うん」
二人で家を出る。
道には体育着を着た生徒たちがたくさん歩いていて、学校からは、のろしの音が聞こえる。
「今日は体育祭? がんばってね」
花の水やりをしていた野菜ジュース屋のおばあさんに声をかけられる。
「は、はい、ありがとうございます」
笑顔を作り、ペコリとおじぎをするも、何だかおなかがキリキリする。
「うう、なんかおなかが痛くなってきた」
「あんず、
「うん、だって、リレーの事を考えるとさ」
「大丈夫よ。私だってリレーの選手だけど、何も考えてないわ」
そりゃ、ヒミコちゃんは足が早いから!
「新月さん、おはよう。リレーがんばろうね」
「よう、あんず。バトン落とすなよ」
教室に入るなり、カノンくんとタケルくんが声をかけてくる。うう、プレッシャーかけないでよ。
「さて、今日は体育祭ですね。みなさん、ケガの無いようにがんばりましょう!」
柳先生が他にも色々とあいさつをするけど、何も頭に入ってこない。
教室でホームルームをすませると、いよいよ私たちはグラウンドに出た。
グラウンドは昨日までの雨がウソみたいに乾き、まさに体育祭びよりだ。
「はぁ、ユウウツだぁ」
今からでも雨がふってリレーが中止にならないかな。そんなことを考えながら準備体操をする。
だけど願いもむなしく、ついにリレーの出番がやってきてしまった。
「あんずちゃん!」
チームメイトの女の子からバトンをわたされる。
「う、うん」
とりあえずバトンを受け取ったのはいいものの、やはりと言うべきか、他のチームの選手からどんどん離されていく。
「頑張れー!」
チームメイトたちの声が聞こえてくる。
うう、きっとみんな、私のことを足がおそいって思ってるだろうなぁ。
――ガクッ。
「あっ!」
あせったからか、私は足をひねって転び、思いっきりグラウンドにつっぷしてしまった。
「いたーい!」
そのすきに、他のチームの子がどんどん私を追いこしていく。気がつくと私は、ダントツのビリになってしまった。
「うう……もうダメだ」
すりむいたヒザをかかえ落ちこんでいると、不意にヒザが緑色に光った。
「えっ!?」
まさか、と思い見ているとヒザのキズはキレイさっぱり消え去っていた。
「まさかこれ……ヨモギの力??」
あっけにとられていると、
「あんずちゃーん、がんばってー」
という声が聞こえてきた。あわてて立ち上がる。
「あんず、がんばって」
ヒミコちゃんの声も聞こえてくる。
「ええい!」
こうなったらしかたない!
あれ……?
何だか足が軽い?
心なしか、転ぶ前よりも足が楽になった気がして、軽やかにグラウンドを走る。
「あんずちゃーん、もうちょっとで追いつくよ!」
そんな声をして前を見ると、他のチームの女の子の背中が見えた。なんだかずいぶん疲れてるみたい。
えいっ。
私は目をつぶって必死に足を動かした。
「やったよあんずちゃん、一人ぬいた!」
そんな声が聞こえて目を開けると、確かに私の後ろに一人女の子がいる。
「よくやったわ、あんず!」
目の前に最終ランナー、ヒミコちゃんが見えてきた。
すると少し前を走っていた男の子がバトンパスを失敗して落とした。
私はそのすきにヒミコちゃんにバトンをわたすことが出来た。
「ヒミコちゃんっ!」
「まかせて」
その後もヒミコちゃんは一人をぬき去り、五人中三位でゴールをした。
「ふう」
ホッとしていると、アンカーだったヒミコちゃんがもどってきた。
「あんず、大丈夫だった?」
「あ、うん。転んだけど、ヨモギの力のおかげで何とかなったみたい」
「そう。あの妖精、少しは役に立つみたいね」
ローズマリーがニヤリと笑う。
「ハーブの力を使っても三位ってところがあんずらしいにゃん」
「もう~」
二人と二匹で笑い合う。
こうして、無事に体育祭は幕を下ろしたのだった。
***
「そういえば、ヨモギのハーブ妖精は秘宝のありかを知ってたの?」
体育祭が終わり、教室に戻る道すがら、ヒミコちゃんが聞いてくる。
「ううん、聞いてみたけど、知らないみたいだった」
私は首を横に振った。
そう、あの後家に帰ってからヨモギのハーブ妖精を呼び出して聞いてみたけど、ヨモギもまた、秘宝のありかを知らなかったのだ。
「そんな事じゃないかと思ってたわ」
ヒミコちゃんが髪を結び直す。
「でも残りは二匹、あと少しね」
「うん」
残り二匹。確率は二分の一だ。
妖精の秘宝まであと少し――
頭の中に、ヨモギから流れ込んできた青いドラゴンの記憶がよみがえってくる。
あのドラゴンが、秘宝のありかを知っているのだろうか?
「あんずちゃん」
と、自分をよぶ声に顔を上げると、目の前の道をカノンくんとタケルくんがふさぐようにして立っていた。
「今、ちょっといいかな」
「な、何?」
「うん、ほら、昨日はバタバタしてて聞きそびれちゃったからさ」
だから、何?
とまどっていると、タケルくんがけわしい顔をした。
「決まってるだろ、この前のあれの話だ」
あれって――
「校庭に現れた、なぞの小山のことだよ」
あ。
もしかしてヨモギのハーブ妖精のこと?
「君たち、知ってるんだろ、あれの正体。教えてよ」
カノンくんはニコリとほほえんだ。
ど、どうしよう!?
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