7.海辺に潜むドラゴン

第30話 妖精を探せ!

 ピンポーン。


 来たっ。


「はーい」


 チャイムが鳴り、バタバタと玄関げんかんへ向かう。


「おはよう、みんな」


 ドアを開けると、そこにはヒミコちゃん、そしてタケルくんとカノンくんが立っていた。


「おはよう、あんず」

「おはよう。わぁ、ここがあんずちゃんの家?」

「広いな」


 キョロキョロと辺りを見回すタケルくんとカノンくん。なんだか少しはずかしい。


「あらぁ、よく来たわね。上がって上がって」


「おじゃまします」


 アケミおばさんがうながし、三人が家に上がる。


 私はその後ろ姿を見つめてため息をついた。


「あんず、本当にあの二人にハーブ妖精やウメコの秘宝の事を話してもよかったにゃんか?」 


 ローズマリーがぬっと出てくる。


 うっ。


「だ、だってしょうがないじゃん、ごまかしきれなかったんだから」


 私だってこんなはずじゃなかった。こんなはずじゃなかったのに――


 今日どうして三人が家にやってきたかというと、話は数日前にさかのぼる。



 ***


「君たち、知ってるんだろ、あれの正体。教えてよ」


 体育祭の帰り、カノンくんがニコリと笑ってたずねてきた。


「あ、あれって何かな」


 私があわてて目をそらすと、タケルくんがつめ寄る。


「とぼけんなよ。予行演習の日、グラウンドに現れた小山のことだよ」


「確か、ハーブ妖精とか言ってたよね」


 き、聞かれてた!


「えっと」


「君のおばあさん、ウメコさんはフシギな力を持っていたって僕のおばあさんから聞いたんだ。だからあれを見た時、君のおばあさんに関する何かだとすぐ分かったんだ。ちがうかい?」


 カ、カノンくんたらするどいっ。


 ヒミコちゃんはムッとみけんにしわを寄せた。


「あなた達には関係のないことよ」


「関係ないってことはないんじゃないかな」


「そうだぜ。俺たちがいなければ、あいつはつかまえられなかったんだから」


 そりゃそうだけど。


 カノンくんは真っ直ぐに私を見つめた。


「新月さん、話してくれないかな。僕たちで良ければ力になるよ」


「ええと」


 ど、どうしよう!?


 ***



 ――とまあ、そんな訳で結局、二人にはおばあちゃんのハーブ帳と使い魔、妖精の秘宝のことまでバレてしまったのだ。


 もちろん初めはごまかそうとした。だけどヨモギのハーブ妖精を使い魔にする所を見られちゃったし、二人のカンがみょうにスルドイからごまかししきるのはどうしても無理だったのだ。


 ヒミコちゃんはずーっとしぶい顔してたけど。


「でもこうなったら仕方ないよ。味方は多い方が便利だし、二人にも手伝ってもらおう」


 ローズマリーも、ヒミコちゃんと同じくしぶい顔をする。


「全く、仕方ないにゃんねぇ」


 家の中をざっくりと案内し、四人で私の部屋に入る。


「私の部屋はここだよ」


 部屋に男の子を入れたことなんかないから、なんとなくドキドキする。もちろん三人が来る前にキレイに片付けはしたけどね。


「うわ、本が沢山あるなぁ」


 おばあちゃんの残した本だなを見て、口をあんぐりと開けるタケルくん。


「うん、おばあちゃんのハーブ帳もここでみつけたの」


「ところで」


 カノンくんが私たちの顔を見回す。


「ヨモギのハーブ妖精の記憶の中にいた青いドラゴンのことだけど」


「うん」


 私はヨモギのハーブ妖精の記憶が流れ込んで来た時のことを思い出した。


 結局、あの後ヨモギに妖精の秘宝のありかを聞いてみたけど、ヨモギも妖精の秘宝のありかを知らなくて――でも、あの記憶によると、あのドラゴンが何かを知っている風だった。


「それで僕なりに、そのドラゴンの妖精の居そうなところを考えたんだけど」


 カノンくんが、カバンから地図を取り出し、テーブルの上に置く。そこには何カ所も赤いペンで丸く印がつけられていた。


「こんなに? すごい」


「うん。ほら、この妖精は青いドラゴンの形をしてるだろう。だから水辺にいるんじゃないかと思ってさ」


 ヒミコちゃんが納得したようにうなずく。


「そうね。ドラゴン――龍っていうのは川の化身だったり、水の神様でもあったりするから、その可能性は高いわね」


「そうなんだ」


「常識よ」


 ヒミコちゃんはフンと鼻を鳴らす。


「でもなぜあなたがそんなに張り切るの。関係ないことよ」


 カノンくんは困ったように首をすくめた。


「そんな事ないさ。僕も秘宝には興味があるし」


「そうそう。四人で強力して見つけようぜ。妖精の秘宝ってのも面白そうだし、俺、ドラゴン見てみたい」


 張り切るタケルくんとカノンくん。ヒミコちゃんはやれやれと首をふった。


「ま、あんずがいいって言うならいいけど」


「味方は多い方がいいよ」


 カノンくんは地図の南はしを指さした。


「個人的にはこの古池なんか、あやしいんじゃないかと思ってるんだ。あとは北にあるたきもあやしいね。東にあるまがり川も」


「とりあえず近いのは東のまがり川かな」


「そうだな、行ってみよう」


 盛り上がる男子二人。


 そんなわけで、私たち四人は、ハーブ妖精を探しに島を探検することとなったのだった。


 ……本当に大丈夫かなぁ?

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