第31話 海辺の怪事件
そんな訳で、四人で残るハーブ妖精を探しに行くことにした私たち。だけど――
「いねーなぁ、ドラゴン」
タケルくんが川に石を放り投げる。
空はだんだん赤くなり初め、空の向こうへとカラスが飛んでいく。
「そうだね」
上流に行ったり下流に行ったり、川で数時間見張ってみたのだけれど、ハーブ妖精はぜんぜんに現れない。
「仕方ない。明日は古池に行ってみることにして、今日のところはもう帰ろうか」
カノンくんが地図をカバンにしまいこむと、タケルくんが不満そうな顔をする。
「えー、つまんねぇの」
たしかに、まだ帰るには少し早い時間だ。
「そうだ、妖精をおびき寄せるために作ったクッキー、せっかくだしみんなで食べない?」
私がリュックからクッキーを取り出すと、タケルくんがパァッと顔をかがやかせる。
「いいな、それ。じゃあ、うちに寄って食おうぜ。ここから近いし」
「そうだね。僕もあんずちゃんの料理食べてみたいし」
「仕方ないわね」
海ぞいの道をしばらく歩くと、
「ここが俺んち」
タケルくんがそのうちの
新しくはないけど、目と鼻の先には海がある、海の家みたいなステキな家だ。
「タケルくんの家、海がすごく近いんだね」
「おう、漁師だからな」
「起きて十秒で海に行けそうだね」
「その気になれば行けるぜ、実際」
アケミおばさんの家からも海は見えるけど、タケルくんの家は海までの近さが全然ちがう。窓を開けたらすぐそこが海って感じ。
「日が落ちてきたね」
「本当だ。西日がまぶしい」
船のある家の前に着くと、ちょうど夕日がゆっくりと落ちて、海がオレンジに染まってきているところだった。
「キレイ」
「本当だ」
私たちが海を見つめていると、水着姿の男の人がこちらへやって来た。
「よう、こんな所で何してるんだ?」
「ああ、ちょっと四人で
「
「
タケルくんはぶっきらぼうに答えると、こちらに向き直った。
「ああ、こいつは俺のアニキ」
「タケルの兄の海神ハルマです。いつもタケルがお世話になっています」
ぺこりと頭を下げるハルマさん。
「お兄さんでしたか」
「こちらこそ、お世話になって」
私たち三人もあわてて頭を下げた。
「ははは、女の子と遊びに出かけるなんてやるなぁ」
「べつに女と遊んでもいいだろ」
タケルくんがふてくされたような顔をする。
「兄さんは相変わらず一人で海にもぐってんのか?」
「失礼な。シノブといっしょだよ。ほら、あそこに――」
指さした先には、お兄さんと同じくらいの年の男の子が海につかりながら手をふっている。
「あ、本当だ。おーい」
タケルくんが手をふると、不意にシノブさんの姿が海からきえた。
「えっ」
「あれ、シノブさん、どうしたんだろう」
私たちは顔を見合わせた。
とつぜん姿を消したシノブさん。海にもぐったのかなと思った。
けど、見まちがいじゃなければ、シノブさんは潜ったと言うよりは立った姿勢のまま海に消えたように見える。しかもいくら待っても浮かび上がってこない。
「なぁ、兄貴、シノブさん、大丈夫か?」
タケルくんがたずねると、ハルマお兄さんも顔をくもらせる。
「ああ、なんか様子が変だったな」
「もしかして足がつっておぼれたのかも」
「ああ、見に行ってみよう」
私たちは、五人で海へと向かった。
タケルくんとハルマお兄さんが海にもぐる。
少しして、ハルマお兄さんがシノブさんを
「シノブさん!」
「大丈夫ですか!?」
シノブさんはゴホゴホとせきこみながら答えた。
「ああ。なんか急に何かに足を引っ張られてびっくりしたよ」
「俺も見たよ」
タケルくんがまじめな顔をする。
「何か長いものがシノブさんの足に巻きついて、海の中に引きずりこんだんだ」
私とヒミコちゃんは顔を見合わせた。
「それってもしかして」
もしかして、それもハーブ妖精のしわざ?
「ええ、ハーブ妖精かもしれないわね」
「やっぱり?」
四人で海へと視線を投げる。日が半分ほど落ちた海は、オレンジ色にキラキラとかがやいている。
「ってことは、ハーブ妖精は海にいるってことなんだね」
私は打ち寄せる波を見つめた。
カノンくんが私の
「例えそうだとしても、夜の海はキケンだよ。明日、学校が終わってからまた来よう」
「うん」
でも泳いでる人を海に引きずり込むだなんて、このままだとぎせい者が出ちゃうかも。早くなんとかしないと!
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