6.グラウンドの怪奇現象!

第25話 はりきり体育祭

「あーん、大変ー!」


 朝起きるなり、アケミおばさんのさけび声がひびく。


「アケミおばさん、どうしたの?」


 眠い目をこすりながら台所へ行くと、アケミおばさんが青い顔でオロオロしていた。


「あっ、あんずちゃん。大変なのよ。ガスコンロがこわれちゃったみたいで、火がつかないの!」


「ええっ、じゃあご飯はどうするの?」


「朝ご飯は昨日のあまりがあるから、電子レンジで温めればいいけど、新しいガスコンロは島の外に行かないと買えないわね」


 島と町を往復する船は週に一度しか出ていない。ということは、一週間の間コンロが使えないってこと?


「ええっ、それって大変!」


「うん。とりあえず電子レンジは使えるから、当分の間それで調理することになるかな。おばあちゃんの使ってたかまどもあるけど、マッチもライターも無いから火がつけられないし」


「そっかあ」


 火を使わないで料理をするって、何だか大変そう。どうにかならないかな。


「火……かぁ」


 あれっそう言えば、ベルガモットは火を司るハーブ妖精じゃなかったっけ?


 ここは私の出番かも!


 私は朝ご飯を食べ終え、アケミおばさんが畑に行ったすきに、こっそり台所へやってきた。


「何をするつもりにゃん?」


 ローズマリーがひょこっと顔を出す。


「決まってるでしょ、料理だよ」


 私はハーブ帳をめくった。


「ベルガモットは火のハーブだし、ベルガモットの料理を作ったら、もしかしたらハーブの力でかまどに火をつけられるようになるかも」


 ローズマリーはしぶい顔をして首をひねった。


「うーん、そう上手くいくかにゃん」


「試してみるのは自由でしょ。えーと、ベルガモットのレシピは、と」


 レシピを調べると、サラダやお肉の香り付けに使えるとある。


「よし、ベルガモットのサラダにしよう。これなら火も使わないし」


 サラダなら盛り付けるだけで簡単だしね。


 私はハーブ帳を片手に、さっそく料理を作り始めた。


 用意するのは、一口大に切ったアボカドとトマト、うすくスライスした玉ねぎ。それに、カシューナッツ。


 レモン汁と塩こうじ、塩コショウのドレッシングと、材料を全て混ぜたら、最後に真っ赤なベルガモットの花を散らしてできあがり。


「うん、美味しい」


 一口食べると、ベルガモットの風味が口いっぱいに広がる。柔らかいアボカドとザクザクとしたカシューナッツの食感も面白いし、味もバッチリだ。


「でも、火はつかないな」


 私が首をかしげていると、ローズマリーがあきれ顔をした。


「あたりまえにゃん」


「えーっ、でもここに」


 私はハーブ帳の効能のらんを指さした。


 そこには「胃の痛みをやわらげる、熱やカゼに効く」という一般的な効能の他に「火をともす」というハーブ妖精の効能も書かれている。


「おかしいなぁ。ハーブ妖精の力が効かないのかな」


「そうにゃんね。あんずはベルガモットを使い魔にしたから、ハーブの効果は倍増するはずにゃんだけど」


「うーん、その内効いてくるかな」


 私はあきらめて学校に向かうことにした。


 だが、その効果は思わぬ所で現れることとなる。


 ***



「それでは、今日のホームルームでは体育祭の種目決めを行いたいと思います」


 ホームルームが始まり、カノンくんが黒板に「リレー」「バレー」「バスケ」「ソフトボール」と体育祭の種目を書いていく。


 あーあ、体育祭かぁ。私、運動苦手なんだよね。


 ――と、いつもならそう思うはずなんだけど、今回はなぜか違った。


 なぜか心の中にメラメラと熱い闘志とうしがわきあがってくる。


 体育祭、がんばらなきゃ! 絶対に優勝してやはりんだから!


 私は大きな声を出して立ち上がった。


「みんな、がんばって一位をとろうね!!」


 となりに座っていたタケルくんが、あ然とした顔で私を見た。


「……お前、そんなキャラだっけ?」


 ***


「うーん、来週の土曜日は晴れか」


 週間天気予報を見てうなる私を、ローズマリーがフシギそうな顔で見た。


「晴れちゃダメにゃんか?」


「ダメったらダメ!」


 私はカバンからプリントを取り出しローズマリーに見せた。


「見てよこれ、今週の土曜日、体育祭があるの。だから絶対に雨がふってほしかったのに!」


 ローズマリーはけげんそうに目を細める。


「そんなに体育祭がイヤにゃんか?」


「当たり前でしょ。だってめんどくさいもん! でもクラスではすごい盛り上がってて」


「あんずのクラス、そんなにスポーツに力を入れてるにゃんか?」


「元々そんなに熱心でもなかったんだけど……」


 でもクラスでは、体育祭に向けて大盛り上がりなのだ。


 主に私のせいで。


 今思うと、あれは私の意思じゃない。ベルガモットの力だ。ベルガモットは、私やクラスのみんなの心に火をともしたのだ。闘志とうしという名の火を。


 しかもクラスがやる気になっただけならともかく、なぜかやる気を買われてリレーの選手にまで選ばれてしまうし。


 私がことのあらましを話すと、ローズマリーは興味なさそうにあくびをした。


「なるほどにゃ。それはベルガモットの力つまりあんずのせいにゃん」


「やっぱり?」


 そんなつもりじゃなかったのになぁ。


 あー、なんてことしてしまったんだろう!


 結局、おばさんはとなりの家からガスライターを借りてきて普通にかまどを使ってるし、私の努力って何だったの?


「はああ」


「そんなにリレーの選手がイヤにゃんか?」


「イヤだよ」


 じまんじゃないけど、私は走るのだっておそいし、球技も大の苦手。


 ドッジボールでは毎回最初に当てられるし、バレーやバスケでは毎回つき指するし、ソフトボールでは空ぶりだし。なんでこうなっちゃうの?


「よし、こうなったら!」


 私はティッシュペーパーを箱から引きぬいた。


「何してるにゃんか?」


「見て分からない? てるてる坊主ぼうずを作ってるんだよ」


「てるてる坊主? てるてる坊主って晴れてほしい時につるすものじゃないにゃんか」


「ちがうよ。よく見て、これはてるてる坊主」


 私は上下を逆につるしたてるてる坊主をローズマリーに見せてやった。


「てるてる坊主を逆さに吊るして、土曜日は雨にしてもらうんだ」


 できあがった逆さてるてる坊主を見せつけると、ローズマリーはあきれ顔をした。


「そんなに上手くいくにゃんかねぇ」


 上手くいってもらわないと困るの。


 体育祭は、絶対に雨で中止にしてやるんだから!

 

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