第22話 ユーレイ屋敷

幽霊屋敷ゆうれいやしきの話を聞いて怖くなっちゃったの!」


 さっきのススキさんの話を思い出し、私はとっさに説明した。


 カノンくんがうなずく。


「ああ、それなら僕も知ってるよ。近くの洋館に火の玉が出るんだってね」


「そうなの」


 ヒミコちゃんが不愉快ふゆかいそうな顔をする。


「何かの見まちがいじゃないの。窓に反射した光をカン違いしたとか」


「でも、タケルの野球部の仲間も見たって言うんだからまちがいないと僕は思うよ」


「どうかしら」


 ああ、結局言い合いになってしまった!

 私がオロオロとしていると、カノンくんはニッコリと笑いながらこう言った。


「じゃあ、確かめに行こうよ」


「か、カノンくん」


 カノンくん、何を言い出すの?


「確かめにって」


 私が口をあんぐりと開けていると、カノンくんは女の子みたいな大きな目をパアッとかがやかせた。


「僕たちで幽霊屋敷にきもだめしに行こうよ」


 えええ~っ。


 びっくりする私をよそに、カノンくんとヒミコちゃんはなぜかきもだめしの話で盛り上がりだした。


「いいわね、それ」


「でしょ。いつがいい?」


「いつでもいいけど、やはり行くなら夜だよね」


「私は別にかまわないわ、あんず、いいわよね」


 ちょっと、ヒミコちゃんもカノンくんも、なんでそんなに行く気満々なの?


「い、いや、わたしはちょっと――」


「面白そうだな、俺も行っていいか?」


 私が断ろうとしていると、カノンくんの後ろからタケルくんが顔を出す。


 タ、タケルくんまで!


「いいよ、じゃあ、四人で行こう」


 勝手に私を人数に入れるカノンくん。ちょっと待ってよ!


「え、えっと、私は――」


 ことわろうとした私の顔を、カノンくんはのぞきこむ。


「あんずちゃん、こわいの?」


「こ、こわくなんか……!」


 反射的に答えると、カノンくんは満足そうにうなずいた。


「じゃあ決まりだね。一緒にきもだめし、楽しみだね」


 というわけで、なぜか四人できもだめしに行くことになってしまった。


 どうしてこうなるの!?


 ***


 幽霊屋敷と呼ばれるその大きな洋館は、ヒ前にミコちゃんと一緒に行った野菜ジュースのお店のすぐ横にある。


 何でも、私たちが産まれる前までは年をとったおばあさんが一人で住んでいたらしい。


 一人で住むには広すぎる家。白くて美しかったらしい壁やバルコニーも、今はツタでおおわれ、キレイなバラが咲きほこっていたであろう正門にもブキミに草が生いしげっている。


 窓からはビリビリに破れたカーテンやクモの巣が見え、まるでお化け屋敷みたい。


 そんなブキミな幽霊屋敷に、私たちはきもだめしへと出かけることとなってしまった。


「ねぇ、本当に勝手に入って大丈夫なの?」


 ヒミコちゃんの後ろにかくれながら、私は前を行くカノンくんにたずねた。


「大丈夫だよ。だれも住んでないし」


 自信満々に答えるタケルくん。


「それに裏口のカギがこわれてて、出入りも自由にできるって話だよ」


 と、これはカノンくん。その表情は、心なしか生き生きとかがやいている。


「で、でも、勝手に入ったら警察につかまっちゃうんじゃ」


「大丈夫だよ。子供のすることだし、見つかっても大目に見てくれるさ」


 裏口の門を開けながら笑うカノンくん。

 ヒミコちゃんは皮肉っぽい口調で言った。


「あら、優等生の白樺カノンがそんなことを言うなんて、先生やクラスメイトたちが知ったら何て思うかしら」


「僕は優等生じゃないよ。周りが勝手にそう思っているだけ」


 カノンくんは困ったように笑った。


「困るよね、勝手に人をあこがれの存在みたいにさ。僕なんて普通の中学生なのに」


 いやいや、どう考えても普通じゃないけど。イケメンだし、勉強もスポーツもできるしさ。


 カノンくんはカチリとポケットライトに明かりをつけた。


「さ、行こう」


 辺りは真っ暗で、私たちの持ってるライトの他には明かりはない。


 時おり鳴く、ブキミな鳥の声や虫の音だけが辺りにひびいている。


 裏口からぐるりと雑草の生いしげる道を歩くと、正面ドアの前に出た。


「あれ? ドアが開かない」


 タケルくんがドアノブをガチャガチャと回す。どうやら屋敷のドアにはカギがかかってるみたい。


「入れるんじゃなかったの?」


 ヒミコちゃんがしぶい顔をすると、カノンくんがすずしい顔をしてドアに近づいた。


「大丈夫。あんずちゃん、君、ヘアピンつけてるよね」


「あ、うん」


「ちょっと貸してくれるかな?」


 私がヘアピンをわたすと、カノンくんはそれをカギ穴に差し込み、何やらガチャガチャと回し始めた。


 カチャッ。


「――開いたよ」


 さわやかな顔でふり返るカノンくんに、ヒミコちゃんはあんぐりと口を開けた。


「おどろいた。まるでドロボーね」


「前にドラマで見てね。自分でもできないかとこっそり練習していたんだ」


「すげーよ、カノン。まさかそんな特技があったなんて」


 タケルくんは尊敬のまなざしでカノンくんを見やる。カノンくんは、はずかしそうに頭をかいた。


「そんな、大したことないよ。それより早く中に入ろう」


 ギギギギギ……。


 さびついた音を立て開く玄関のドア。中からはカビくさいにおいと、ひんやりとした空気が流れこんできた。


「さ、行こう」


 私たちは、カノンくんとタケルくんを先頭に歩き始めた。


「はあ」


 私は大きなため息をついた。


「どうしたの、あんず。火の玉がこわいの?」


「うん、それもあるけど――」


 私はチラリとタケルくんたちのほうを見た。もしタケルくんとこんな所に来てるのをだれかに見られたら、また変なウワサを立てられちゃうよ。


 それにカノンくんも一緒だし……リリスちゃんに見られたら大変!


 ビクビクする私を見て、ヒミコちゃんはため息をついた。


「あんず、そんなに他人を気にすることないわよ」


 そりゃ、ヒミコちゃんみたいに自分に自信があれば他人を気にすることなんてないかもしれないけど、私には無理だから!


 はあ……。


 私は小さくため息をついた。

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