5.幽霊屋敷の火の玉

第21話 クラスのウワサ

「キャーッ」

「こわーい!」


 朝、教室に着くなり、さけび声が聞こえてくる。見ると、教室のすみで女子たちが固まって話をしていて、なんだかさわがしい。


「何だろ」


 私がフシギがっていると、後ろの席のススキさんが教えてくれる。


「リリスちゃんが、こわい話をしてるのよ」


「そうなんだ。どんな話?」


「この島に、幽霊屋敷ゆうれいやしきがあるっていう話」


 ススキさんによると、この学校の近くに、今は使われていない古い洋館ようかんがあるのだという。


 そしてその洋館の前をリリスちゃんの友達がたまたま通ったところ、だれもいないはずなのに窓にすうっと赤い火の玉のようなものが見えたのだという。


「へー、そうなんだ――っていうか」


 私は声をひそめてススキさんの耳元でささやいた。


「ススキさん、私に話しかけていいの? リリスちゃんにイヤな顔されない?」


 ススキさんは、チラリとリリスちゃんの顔を見た。


「大丈夫よ。だって新月さん、タケルくんでしょ」


 私はススキさんの言葉の意味がわからず、いっしゅん固まってしまった。


「ええっと、何それ」


「新月さん、タケルくんと仲良いでしょ。休み時間や授業中にもずっと話してるし、あの二人は付き合ってるってウワサだよ」


 ええっ、いつの間にそんなウワサが!?


「いやいや、付き合ってないから!」


 思わず大きな声を出してしまい、あわてて声のボリュームを下げる。


「となりの席だから話してるだけだし」


「でも仲は良いんでしょ」


「まぁ、悪くはないけど」


 ススキさんはずいと身を乗り出す。


「でもって、新月さんはカノンくんには興味はないんでしょ」


「うん、まあ、そうだね」


「じゃあてきじゃないし、むしろ味方だから仲良くしておいても損じゃないかなって」


「て、敵!?」


 敵ってなんの敵?


「カノンくんを好きな子は、みんな敵よ」


「えっ、でもリリスちゃんとサクラギさんは? 友達じゃないの?」


 ススキさんはフンと鼻を鳴らす。


「その二人とは、カノンくんの情報を分け合う同盟どうめいを組んでるの。メリットがあるから付き合ってるのよ。でもそうじゃなきゃ敵だったかも」


「は、はぁ」


 なんかフクザツな人間関係だなぁ。

 あっけに取られていると、ススキさんは私の手をにぎり、ずいと顔を近づけた。


「ほら、タケルくんとカノンくんって仲良いじゃない。もしあなたがタケルくんと付き合ったら、タケルくんを通してカノンくんの情報が手に入ったりするかもしれないでしょ。だから応援おうえんしてあげる」


「ええっ、ちょっと待って」


 私とタケルくんが付き合う!?


 いやいや、そもそも私とタケルくんはそんな関係じゃないし。


「そういうわけだから、仲良くしましょ」


 ススキさんはそう言うと、ニコニコしながらススキさんはリリスちゃんの方へと走っていってしまった。


 私はあんぐりと口を開けたままその後ろ姿を見送った。


 もう、誤解ごかいだよ。


「おはよう」


 少しして、ヒミコちゃんが教室に入ってくる。


「ヒミコちゃん!」


 私はヒミコちゃんにかけ寄った。


「一体どうしたの、あんず」


「あのね、ヒミコちゃん、実は――」


 私が辺りを気にしながら小声で話すと、ヒミコちゃんは少しみけんにシワを寄せ、小さくささやいた。


「どうしたの、秘宝や使い魔のことが何か分かったの」


「ううん、そうじゃなくて、実は変なウワサが――」


「よう」


 私たちがヒソヒソ話をしていると、後ろから声をかけられる。


「二人とも、何を話してるんだ?」


 ふり向くとそこにいたのはタケルくんだった。


「た、タケルくん……」


 思わず後ずさりをする。


 “ あの二人は付き合ってるってウワサだよ”


 頭の中にさっきのススキさんの言葉がポンとうかんだ。


「え、えっと」


 もう、なんでこんな時に話しかけてくるの!?


「なんでもないっ!」


 私はタケルくんを無視すると、そのまま廊下ろうかに出た。


「お、おいっ」


「あんず!?」


 あ、どうしよう。タケルくんのこと、無視しちゃった。どうしよう、イヤな思いしたかな?


 でもあんまり話すと、また変なウワサを立てられちゃうし。


「はあ」


 私はトイレの中でため息をついた。


 ***



「なあ、教科書忘れちゃったから見せてくれよ」


 一時間目の国語の授業。私は教科書を忘れたというタケルくんに、イライラしながら無言で教科書を見せた。


「おい、今日は一体どうしたんだ? 具合でもでも悪いのか?」


「別に……」

 

 小さく返事をすると、どこからかこんな声が聞こえてくる。


「あの二人、やっぱり……」

「ヒューヒュー、アツいね!」


 私はあわててタケルくんから席をはなした。


「お、おい、教科書は」


「貸してあげるから近寄って来ないで」


「え?」


 わけが分からないという表情をうかべるタケルくん。


 もう、何でこんなウワサが立つのよ!


 休み時間になり、教科書を返してくるタケルくん。


「これ、ありがと。それでさ――」


「そこに置いておいて」


 私はタケルくんと話しているところをクラスメイトに見られないようにあわてて席を立った。


「おい!」


 うう、話しかけないでよ!


「どうしたの、あんず」


 いきなり席を立った私を心配したのか、ヒミコちゃんが追いかけてくる。


「ううん、別に」


 作り笑いを浮かべる私を、心配そうに見つめるヒミコちゃん。


「そう? なんだか変よ」


「うん……実は……」


 思い切ってヒミコちゃんに相談してみる。


「なんだ、そんなこと」


 ヒミコちゃんはあっけらかんと言いはなった。


「人のウワサなんて気にすることないわよ。私も小学生の時、野菜ジュース屋で白樺カノンとぐうぜん会って、話しをしていたら変なウワサを立てられたけど、気にせず過ごしていたらすぐにウワサも消えたわ」


 いやいや、もしかしてだけど――ヒミコちゃんがリリスちゃんたちにきらわれてるのってそのせいなんじゃないの?


 やっぱりウワサってこわいよ!



 「どうしたの、 あんずちゃん」


 そこへやってきたのはカノンくんだ。


「急に飛び出したりして、具合でも悪いの?」


 うわっ、カノンくん。どうしよう、カノンくんと話していたら、リリスちゃんたちに何て思われるか……。


 私がとまどっていると、ヒミコちゃんがずいっと前に出た。


「あなたには関係な――」


 私はあわててヒミコちゃんの口をふさいだ。まずい。ここで二人がもめちゃったら、逆にクラスの注目を集めちゃうかも。


 私はとっさにでまかせを言った。


「えっと、幽霊屋敷ゆうれいやしきの話を聞いて怖くなったの。ねっ、ヒミコちゃん!」



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