第13話 畑荒らしの犯人

 畑の植えかえ作業は無事に終わり、畑にはずらっと新しいリーフレタスやミニトマトがならんだ。


「さ、これで大丈夫だね」


 ニッコリとほほえむカピバラ校長。

 私たちもほっと胸をなで下ろした。

 だけど――事件はこれで終わりではなかったのだ。


 ***


「大変だ、畑が!」


 次の日の朝、タケルくんが青い顔をしてクラスに飛びこんできた。


「どうしたの」

「畑がどうかした?」


「いいから、見りゃ分かる」


 あわてた様子のタケルくん。イヤな予感がした。


「まさか――」


「見に行ってみましょう」


 ヒミコちゃんと二人で、昨日野菜を植えたばかりの菜園部の畑を見に行ってみる。


「こ、これって――」


 予想どおり、畑は再びメチャクチャになっていた。

 なっていたけど――予想したのとは真逆のメチャクチャだった。


 ベビーリーフは育ちすぎて巨大なレタスみたいだし、小松菜は森みたいに茂っているし、ミニトマトもツルがのび放題で、リンゴみたいに巨大なトマトが実っている。


「何これ」

「どうして?」


 二回も畑が荒らされるなんて。しかも今度は育ちすぎだなんてどういうこと?


「にゃん」


 そこへローズマリーが音もなく現れ、地面の上におり立った。そして土のにおいをクンクンとかぎ始めた。


「ローズマリー、何か分かった?」


 ローズマリーがうなずく。


「この気配――まちがいないにゃ。これはハーブ妖精のしわざにゃん」


「本当!? でもどうしてハーブ妖精が畑を」


「多分だけど、あんずに自分の存在を気づいてほしいにゃん」


「そんな……」


 何もかも、私のせいってこと?

 先ぱいたちの悲しげな顔が頭にうかぶ。

 下を向く私の肩を、ヒミコちゃんがポンとたたいた。


「大丈夫よ。たいていの妖精はちょっとイタズラするくらいで大したことはできないから。私たちで何とかしましょ」


「ヒミコちゃんも手伝ってくれるの?」


「ええ。多分だけど、この畑を荒らしたのは、私と初めて会った時のあの妖精じゃない?」


「うん、多分そう」


 ヒミコちゃんは眉間みけんにしわを寄せ、しぶい顔をした。


「やっぱり。気配が同じだもの。だとしたら取りのがした私にも責任があるわ」


「ヒミコちゃん……」


 私はゆっくりとローズマリーをだき上げた。


「ねぇローズマリー、畑を荒らしたハーブ妖精を呼び出す方法を知らない? 弱点とか好物とか、何でもいいの」


「よく分からないにゃ」


 ローズマリーは首を横にふる。


「分からないって、同じ使い魔どうしじゃないの?」


「私たち使い魔はいつも一匹づつよび出されるから、あまりお互いに顔を合わせないにゃ。だから他の使い魔ことはほとんど知らないにゃん」


「そっかぁ」


 落ち込む私の肩をヒミコちゃんがさする。


「大丈夫よ。放課後、一緒に図書館に行って妖精について調べてみましょ」


「ありがとう、ヒミコちゃん」


 これ以上被害が広がる前に、私たちでなんとかしないと!


 ***


 放課後になると、私とヒミコちゃんは急いで図書室に行き、妖精について調べてみることにした。


「妖精と一口に言っても色々な種類の妖精がいるの。あなたをおそったあの妖精はどの妖精かしら」


 ヒミコちゃんが革の表紙のぶ厚い本を開いてみせる。


 そこには、コウモリのようなつばさのインプに、ゴツゴツとした見た目のグレムリン、小さいおじさんみたいな姿をしたピクシーなどが書かれていた。


「わあ、こんなにたくさん」


「それだけじゃない。これ以外にも、海の妖精や山の妖精、花の妖精なんかの分類できない様々な種類の妖精がここにはいるわ」


「そうなんだ」


 ヒミコちゃんによると、普段は目には見えない妖精もいるし、ローズマリーみたいにネコに化けたり、鳥や人間の姿になって暮らしている妖精もいるらしい。


「そうなんだ。ヒミコちゃん、妖精にも詳しいなんてすごいなぁ」


「別にすごくはないわよ」


 私がほめると、ヒミコちゃんはぷいと横を向いた。


「あ、もしかして、使い魔のコジロウも妖精だからくわしいの?」


「いえ、コジロウは妖精じゃなくて猫又ねこまたよ」


 猫又ねこまたって聞いたことがある。長生きをしたネコがなる妖怪ようかいで、しっぽが二又ふたまたになってるって。


 そっか。じゃあローズマリーとコジロウは、見た目は同じネコだけど、全然ちがう生き物なんだ。なんだかフシギな感じ。


 私はパタンと妖精図鑑を閉じた。

 そんなにたくさんの妖精たちが人間に知られずに暮らしているだなんて、知らなかったな。


「めいわくな妖精を追いはらうにはどうしたらいいんだろ」


「弱点が書かれていたらと思っていたのだけれど、どこにも書いてないわね」


 ヒミコちゃんはパラパラともう一度本をめくった。


「あっ、これはどう?」


 私は「妖精のよび出し方」という文字を指さした。


「『満月の夜に窓辺にミルクを置いておくと妖精が現れる』だって。これであの妖精をよび出せないかな」


「校庭に窓は無いわよ」


「そうだよね。あとは『妖精が食料としているのはミルクや大麦、キノコやコケの他、キイチゴやラズベリー、クランベリーなどのベリー類』……」


 その時、私の頭の中にあるアイディアがうかんだ。


「ヒミコちゃん、もしかしてこの方法で妖精をよび出せるかも」


 私が作戦をヒミコちゃんの耳元でささやくと、ヒミコちゃんは真剣な顔になった。


「そうね。その方法なら、ひょっとして上手くいくかもしれないわ」


 私たちは、早速その日の夜に作戦を実行することにした。

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