第12話 荒らされた畑

 とつぜん聞こえてきたさけび声に、私とヒミコちゃんは顔を見合わせる。


 一体、何が起こったの!?


 カピバラ校長やタケルくんたちもフシギそうな顔をする。


「どうしたんだろ」


 ギモンに思っていると、グラウンドのはしから数人の女子がこちらに走ってくる。水色のジャージを着ているということは二年生だろうか。


「先生、せんせーい」

「畑が!」


「畑がどうかしたのかい」


 困った表情をうかべるカピバラ校長のうでを、二年生たちが引っぱる。


「いいから来て」

「大変なことになってるの!」


 大変なことって?


 とまどっている私たちに、カピバラ先生がさけんだ。


「私は畑の様子を見てくるから、君たちは片付けが終わったら教室にもどっていいからね」


「は、はい」


 私はヒミコちゃんの顔をチラリと見た。


「どうしたんだろう。畑がどうとか言ってたけど」


「さあ。帰っていいって言ってたし、帰りましょうよ」


 かたをすくめるヒミコちゃん。私はなんだか気になるんだけど、ヒミコちゃんは興味無いみたい。


「でも何か気になるよ。帰る方向と同じだし、ついでに寄ってみようよ」


「あんずがそう言うなら」


 タケルくんとカノンくんもうなずき合う。


「俺たちも見にいってみようぜ」


「仕方ないね」


 そんなわけで、四人でグラウンド横の学校菜園へと向かうと、さっきの二年生たちの声が聞こえてきた。


「大変なんです。だれかに菜園部の畑が荒らされて」

「リーフレタスも小松菜もちぎれちゃって」「ミニトマトの苗も引っこぬかれているの!」


「き、君たち、落ち着いて」


 見ると、ちぎれた野菜や引っこ抜かれた苗がそこいら中に散らばっている。


「うわ、ひどいな」

「だれがやったんだろう」


 かわいそうな姿になった畑を見て、タケルくんとカノンくんも顔をしかめる。


「植えたばかりの野菜なのに」


 泣き出す二年生の女子たち。


「一体、だれがこんなことを」


 私たちが困惑こんわくしていると、一人の女子がこちらへカツカツと歩いてきた。


「私、見ましたわ。グラウンドに新月さんのネコがいる所!」


 女の子が私を指さす。声を上げたのは、長い茶色の髪を二つに結び、ピンクのリボンをつけた女子だった。


「リ、リリスちゃん」


 彼女はクラスメイトの沖島おきのしまリリスちゃん。


 島の外から来たばっかりの私でも名前は知ってる、クラスでも目立つ子。

 なんでも島の町長の娘で、ウワサによるととってもお金持ちなんだとか。


「そうよそうよ」

「私も見ました」


 リリスちゃんの後ろにいた二人の女子が同じ様にさけぶ。


「あいつら、カノンのファンなんだよ」


 タケルくんがこっそり教えてくれる。そうなんだ。


「あいつらの事だから、お前がカノンと仲良く話してるからやっかんでるんじゃないか?」


「ええっ。別に仲良くないし、フツーに話してるだけなんだけど」


 チラリとリリスちゃんの方を見ると、リリスちゃんはキリリと目をつり上げた。


「学校にネコを連れてくるなんて、非常識ですわ」


「そうよそうよ」


 菜園部の女子たちも私をにらむ。


 ええっ、もしかしてリリスちゃんたちだけじゃなく、菜園部の人たちも、ローズマリーが畑を荒らした犯人だと思ってるの?


「まぁまぁ、あまり犯人を決めつけるのは良くないよ。ひょっとすると、モグラかネズミのしわざかもしれないし」


 カピバラ校長は困った顔をした。


「とりあえず、この畑は放課後にまた植え直しをしよう。先生がそれまでに新しい苗を用意しておくから」


「それなら、僕たちも手伝いますよ」


 カノンくんがずい、と前に出る。


「ねっ」


 ねっ、って、私の顔を見ないでほしいんだけど。


「本当!?」

「ありがとう、助かる」


 菜園部の女子たちが飛び跳ねて喜ぶ。

 こうして私たちは放課後、菜園部の手伝いをすることになってしまった。


「……よけいなことを」


 ヒミコちゃんがダルそうに髪をかきあげた。


『クスクスクス……』


 え?


 すると不意に、小さい女の子のような声がして、ガバリとふり返る。


 ヒミコちゃんがけげんそうな顔をする。


「どうしたの、あんず」


「今、声が――」


 でも、声のした方角を見てもだれもいない。

 気のせいかな?


 何かイヤな気配がしたような気がしたけど、きっと気のせいだよね。


 私は気にしないことにして教室へと戻った。


 ***


 放課後、私たちは荒らされた畑を直しにグラウンドの横に集まった。


「それじゃあさっそく、ダメになった野菜を植えかえようね」


 先生が新しい野菜の苗を出してくる。どうやら近所の農家の人から分けてもらったらしい。


「さ、さっさと植えてしまいましょ」


「うん」


 菜園部の人たちと、私とヒミコちゃん、タケルくんとカノンくんで小さなリーフレタスやミニトマトの苗を植えていく。


 大変かもと思ったけど、土も耕しているし、一度やったことだから案外スムーズに植えかえは進んでいく。


「それにしても、だれがこの畑を荒らしたんだろう」


 ポツリとつぶやくと、タケルくんが真面目な顔で聞いてくる。


「お前のネコじゃないんだろ?」


「ち、ちがうよ。うちにも畑はあるけど、ローズマリーは畑の野菜を食べたりなんかしないし」


「そっか」


 ローズマリーはただのネコじゃない。れっきとしたハーブ妖精だし、ああ見えてもグルメだから高級な魚かお肉しか食べないんだから。


 でも、ローズマリーが犯人じゃないとしたら、一体だれが犯人なんだろう?

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