第8話 家への誘い
「では次、
「はい」
自分の自己紹介が終わりホッとしていると、ヒミコちゃんが立ち上がった。
「聖ヒミコ。花乃島小学校出身」
ポツリポツリと話すヒミコちゃん。
「…………以上」
えっ、それで終わり?
おどろいて見ていると、ヒミコちゃんは、ツンとすました顔で席に着いた。
クラスがしーんとなり、みんながあっけに取られている。
「えーっと、シンプルな自己紹介だったね。よろしく!」
先生に言われ、ようやく
ヒミコちゃん、
「それじゃあ最後に、
「はい」
あっ、あの新入生代表だった子だ。ザワザワと女子たちが色めきだつ。
「白樺カノンです。趣味はピアノとテニス」
そこまで言うと、カノンくんはパチリとウインクをした。
「特技は、新月さんと同じく料理かな。クラスのみんなと仲良くしたいです。よろしくお願いします」
キャー! と女子のひめいが上がる。
う、ウインク!
私は思わずポカンと口を開けてしまった。
何だか、カッコイイけどすごくキザな感じがするのは私だけ?
***
「中学生になったって言っても、いつものメンツだからあんまり実感無いね」
「本当。同じクラスで良かったー」
一通り自己紹介が終わり、休み時間。
クラスメイトの女の子たちが固まって楽しそうに会話をしている中、私は一人ポツンと席に座っていた。
なぜ私が一人ぼっちになってしまっているかというと――自己紹介をして気づいたんだけど、クラスの子のほとんどが島の小学校出身。
仲良しグループはすでにできあがっていて、そこに私の入るすきは無い感じなのだ。
あーあ、まさかこんなことになるなんて予想してなかったな。友達がいないって寂しい。
ふと気になり、チラリと横を見る。
ヒミコちゃんは休み時間になったのに、誰とも話さずに本を読んでいる。
ヒミコちゃんも島の小学校出身のはずなのに、まさか友達がいないのかな。
どうしよう。ヒミコちゃんに話しかけたほうがいいのかな。でもヒミコちゃんってクールだし、あまり人と話すのが好きじゃないみたいだし、
「よう、新月さんだっけ」
「は、はいっ」
話しかけてきたのは、となりの席に座っている男の子だった。
こんがりと日に焼けた肌にツンツンとした髪、くりくりとよく動く目の活発そうな子。
名前はえーっと――
「えっと、海神くんだよね。あんずでいいよ。前の学校でもみんなそう呼んでたし」
だから「新月さん」なんて呼ばれるとこそばゆくなっちゃうんだよね。
「そうか。オレのこともタケルでいいぞ」
タケルくんは
「それよりあんず、島の外から来たんだってな」
「うん」
タケルくんは目をかがやかせて身を乗り出した。
「なあなあ、島の外の小学校ってどんな感じだったんだ?」
どんなって、何もない普通の町だけど、島の子にしてみたら気になるのかな。
「そうだなぁ、こことちがって四クラスとか五クラスとかあったよ」
「へえ。町の小学校では、何か流行ってるものとかあった?」
「駅前のビルに美味しいクレープ屋さんがあって、そこに行くのが流行ってたかな。
「そうなんだ。すごいなあ。島の小学生なんて、海で泳ぐくらいしか楽しみがないからな」
うらやましそうにするタケルくん。この学校、周りに海と山と田んぼしかないもんね。
「でも海とか山がキレイなのもステキだと思うけどな」
「まぁ、海と山と田んぼしかねぇからな。コンビニもないし、スーパーもデパートもないし」
タケルくんがつまらなそうな顔をする。
確かにこの島には小さな個人商店くらいしかないから、その点は少し不便かな。
「でも、今はネットがあれば何でも手に入るじゃん」
「でも船便だから届くのもおそいし」
タケルくんはさらに身を乗り出す。
「それとさ、さっきお前、聖ヒミコと話してたよな。あいつと知り合いなのか?」
「知り合いっていうか、お祭りで出会ったの。うちのおばさんの知り合いみたい」
「そうなのか。いや、別に大した意味は無いんだけどさ、あいつ友達もいないし、お母さんもいないみたいだから気になってさ」
タケルくんはチラリとヒミコちゃんの方を見た。ヒミコちゃんは、相変わらずすました顔で本を読んでいる。
「ヒミコちゃん、お母さんがいないの?」
「なんでも母親が亡くなって神主の父親と二人ぐらしだって聞いたぜ。しかも父親がいそがしいから、掃除とか料理も全部一人でやってるって」
「そうなんだ」
うちも家族は外国だけど亡くなったわけじゃないし、家にはアケミおばさんもいて家事をやってくれるし、たよれる相手がいるから何とかなるけど、一人じゃ大変だろうな。
私はチラリとヒミコちゃんの整った横顔を見た。その青白い横顔は、キレイなんだけど心なしか少しさびしそうに見えた。
キーンコーンカーン。
入学式の後、自己紹介とオリエンテーションを終えるとすぐに下校時間になった。今日は初日だから授業も少ないみたい。
ヒミコちゃんは真っ黒なコートをはおると、これまた真っ黒なカバンを手に教室から出ていこうとした。
「あのっ、ヒミコちゃん」
気がついたら私はヒミコちゃんをよび止めていた。
「なに?」
けげんそうな顔をするヒミコちゃん。
しまった。いきなり呼び止めるなんてびっくりしたかな。
「あ、あの、ヒミコちゃん、今度、私の家にご飯食べに来ないかなーって」
「どうして」
「どうしてってその」
ヒミコちゃんにはお母さんがいないからさびしそうだと思って、なんて言ったら、よけいなお世話だって思われるかな。
「ほ、ほら、アケミおばさんが、ヒミコちゃんを家によびなさいって。ほら、二人だけだと食事もさびしいし」
「アケミさんが?」
片方の
うう、こりゃダメかなぁ。
「そ、それに私、ハーブ料理を勉強中だから、誰かにハーブ料理を食べてもらいたいと思って」
とっさに口からでまかせを言うと、ヒミコちゃんは、あごに手を当て少し考えだした。
「そういえばあなた、料理が得意だと自己紹介で言ってたわね」
「う、うん……得意というほどでもないけど、話すことが無かったから……」
しどろもどろになりながら答えると、ヒミコちゃんは、私の顔をまっすぐに見つめてうなずいた。
「いいわ。実は私も料理を多少たしなんでいるの。あなたの作るハーブ料理もどんなものか気になるし、アケミさんにも野菜をもらったりお世話になっているから、あなたの
「ええっ、本当?」
「ええ。見せてもらうわ。あなたの料理」
そう言うと、ヒミコちゃんはスタスタと教室を出ていった。
「それじゃ、さよなら」
「あ、うん。バイバイ」
私はヒミコちゃんの後ろ姿に手をふった。
良かった。ヒミコちゃん、うちに来てくれるみたい。これでヒミコちゃんと仲良くなれるかも。
と、ここで私ははたと気づいた。
でも、うちに来てくれるのはいいんだけど、料理が得意だなんてウソだし……それに一体何の料理を作ったらいいんだろう?
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