第3話 充たす
恭子は翌日から、自分を充たすものを探した。
運動、芸事、サークル、ボランティア…
街を歩き回り、車で隣街まで出掛けた。
しかし彼女の内容物になりそうなものは見つからない。
そんな時、浩一から連絡が入った。
「俺も仕事辞めてきた。どこかに行って、少しでもマトモな死にかたを見つけよう」
「あら」
恭子はふと、浩一の家族を想った。
彼女の夫がこんな風に誰かと死ぬ事を考えてみる。
悪くない。かえって見直すかもしれない。私と同じくつるっつるのスッカスカの夫にそんな意外な一面があったら、少しだけ、好きになれるかもしれない、と思う。
「マチュピチュ、に行きたいわ、私」
恭子が言うと、浩一は、
「じゃあ、飛行機はとっておくよ。色々、家の整理しておいで」と優しく言った。
浩一の意外に優しい面を知ってしまった。
人非人、から、彼を少しだけ人間に格上げする。
恭子は家に帰り、予め降ろしておいた現金三百万(三ヶ月だから)とクレジットカード、免許証をカバンに入れ、保険証書・年金手帳・通帳と印鑑を綺麗に角を揃えて机に並べた。
そして、市役所のホームページをひらき、離婚届をプリントアウトして記入し、押印した。
これでよい。
少しだけ中身が充たされた、気がした。
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