3 リサーチ
しかし、その後も耳をすませば、学校内のあちらこちらで〝新しいアレ〟の話はなおも絶えず囁かれている――。
「――新しいアレっておいしいよねえ~」
「あたしはまあまあおもしろいと思うよ?」
「んま、俺に言わせりゃあ、あんまし今回の出来はよくねえな」
その都度、僕はまるでスパイか探偵のようにして耳をそばだて、少しでも〝新しいアレ〟に関する手がかりを得ようと諜報活動に専念する。
おいしくておもしろいけど、あんまり出来がよくない……って、なんなんだよ、いったい!?
だが、言ってることはてんでまちまちで、やはり盗み聞きだけではその正体に辿り着くことはできない。
「……あ、そうだ!」
とそんな時、ふと妙案が脳裏に閃いた。
SNSだ!
ここまで流行っているのであれば、当然、SNS上にもそれについての投稿が溢れ返っているはずである。
なぜ、今までそれに思いいたらなかったのだろう……悔しいが、今の時代にちょっと乗り遅れているのかもしれない。
昼休みを待ち、さっそく人目のない校舎の裏手へと移動すると、僕はスマホを取り出して「#新しいアレ」とハッシュタグを付けて検索してみた。
すると、案の定、出てくるわ出てくるわ。思った通りネットの中でも〝新しいアレ〟についての話題で持ちきりである。
「さあて、アレってなんだんだ?」
僕はそのリンクを端からタップして投稿の内容を確かめまくった。
しかし、見る端から皆、「新しいアレ、手に入れました!」だの、「新しいアレを試してみた」だのと、どれもこれも短い文章で具体的な内容のない、まるで使えない代物ばかりである。
それに、すべて文字だけでなぜか画像がない……これでは、見た目から判断することもできないじゃないか!
おまえら、フォトジェニックという言葉を知らないのか? こんな短い文章だけの投稿でバエるとでも思ってんだろうか?
また、もう一方の画像がメインの有名SNSの方にいたっては、意外にもこれに関する投稿が一件も見当たらなかった。
どうしてだろう? こんなに流行ってるんなら、こっちだってぜったいたくさん投稿あるはずなのに……やっぱ、画像付けなきゃいけないことと何か関係しているのか?
しかし、この〝画像がない〟ということが、逆に〝新しいアレ〟の正体を語るよいヒントなのかもしれない。
「そうか! 新しいアレって、画像にしにくいものなのか?」
わずかだが、ようやく掴んだその手掛かりに僕は思わず声を上げると、条件に当てはまるものについて改めて考え直してみる。
画像にしにくいってことは……やっぱりアプリとかスマホゲームの類なんだろうか? でも、スクリーンショットとかで投稿するやつがいてもおかしくないと思うけどな……。
だが、それだけの手がかかりではそれくらいの想像をするのが関の山であり、けっきょくSNSでも何もわからないまま、短い昼休みは無駄に終わった。
それからの午後の授業、また朝のように窮地に立たされては堪らないので、僕は新たな情報にセンサーを張り巡らしつつも、自分からその話題について触れることは極力避け、いまだ何もわからないまま終業のベルが鳴るまでの時間を悶々と過ごした。
そして、学校が終わると部活も体調不良と言い訳をしてさぼり、早々に帰宅の途につくことにする。
知ったかぶりがバレかねない危険な場所からは、早いこと立ち去るのが良策であろう。
ところが、その帰りの電車の中でも変わらず周囲の会話に聞き耳を立てていた時のこと……。
「――あ、そうそう! ねえ、〝せぱたくろう〟って何やってる人? 芸能人? ミュージシャン? なんかたまに聞くんだけど」
「さあ? 感じからしてギター持って弾き語りしてる人じゃない? んな気になるんならネットで訊いてみたら? なんとか知恵袋とかで」
そんなもの知らずなJK達の他愛ないおしゃべりが聞えてきた。
いや、それセパタクローだろう? 人の名前じゃなくて、足でボール蹴るバドミントンみたいなスポーツだよ。ま、確かに人名みたいに聞こえなくもないけど……。
いかにもぼーっと生きていそうな彼女達の方を横目で見やりながら、僕は心の中でそんなツッコミを入れる。
……いや、待てよ? 知恵袋……そうか! その手があったか!
だが、わずかな時間差を置いた後、僕は彼女達の会話から図らずも新たな妙案を思いついた。
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