第3話 年月が経ってどうなった?


 そんなことがあったのが今から3年前のお話。3年という年月は存外早くすぎるのもので、エルフリーデもアニメの舞台となる学園に進学する年齢になっていました。

 彼女も淑女らしく貴賓ある佇まいが身につき、私も前世の感覚で捉えれば、完全におばちゃんになったと言っても差し支えない年齢になりました。


 本当に、最初の内はただただ苦労しました。ただ目立ちたいからとおかしく空回るエルフリーデを犬ながらどうにか諫めたり、凹んだらこのキュートさで慰めたりと色々とやってきたつもりではあるのですが。

 その結果が、分別をしっかりと弁えられるようになった今の姿であればいうことはありません。まぁもしかすると未だに目立ってやりたいという野心を持っているのかもしれませんが。


「はぁー」

 あらあら我がご主人様は今日もどこか物憂げな様子。

 お外は青空が広がっているのに、どんよりとした雰囲気が部屋中に広がっているではありませんか。


鳴き声一つ、急かすように私は鏡台に前のめりに蹲るエルフリーデの足元にすり寄ります。

「……本当、貴女はいつでもわたしを励ましてくれるのね」

 うん、愛らしい普通の笑顔。これが彼女の最大限の魅力。なんだかんだ根はいい子なのである。


「目立ちたいなって思ってたのになぁ、結局埋もれてばっかりのモブだし。悪いことも意地悪なことも簡単にできるものだと思っていたんだけどなぁ」

 そりゃね、エルフリーデというキャラクターもそうだけど、彼女元来の性格があるのでしょう。悪者になる勇気はなかなか出すことなんて出来ません。

まぁ意地悪をしようとする度に、これでもかというくらいに吠えたり威嚇したりを繰り返していたから、私がやかましくしくならないためというのもあるのかもしれません。

 ただ少し流されやすいところがあるので、残念ながら今は件の悪役令嬢の取り巻き扱いされているのかと思いきや、ヒロインと意外に仲が良かったりと、どっちつかずの状況になっているようです。


 まぁ私個人的には、ヒロインとエルフリーデが仲良くなるってすごく嬉しいことなんですけどね、グへへ。


「ホント、ここの人たちって人間なのって思うんだけど」

 そう言ってしまう気持ち、わかります。

 確かにこの世界は魔法があるため、なんでも出来てしまう。ある意味それがこの世の常識なのですから、そうそうびっくりすることはないはずだったのです。

ですがそこはゲームのヒロインや攻略対象、想像以上にとんでもない性能を秘めていました。だからエルフリーデは振り回されてばかりの日々なのでしょう。

 ですが彼女も自らを取り巻く状況に気疲れしてしまっているのでしょうか。可愛らしく笑顔を作ったはずの表情は、どこか疲れた印象も感じ取れます。

そんな時はこうやって、彼女の膝下に前足を乗せてあげながら、甘えた鳴き声を出してあげるのです。


「貴女を連れてこられて良かった……ソフィーだけがわたしの心の清涼剤よ」

 和かに私を抱き上げるエルフリーデ。私も彼女の声に応えるように、改めて甘えた鳴き声で返します。あざとく、できる限りあざとく。


まぁこのやりとりが彼女の気持ちを少しでも紛らわすことになるのであればそれでいいのだけれど。

 さて季節は夏を過ぎ秋へと差し掛かろうというところ。

私たちが出会って3年、そして本来ならばアニメの中で最もエルフリーデがフィーチャーされる場面が、彼女がヒロインにぶん殴られてしまう場面が刻一刻と迫っているわけなのです。


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