第2話 転生したらどうなった?


『ときめき☆フィーリングハート』


 今うわぁって思いましたね? そうですよね!

 正直に言いましょう、私だって思っています。なんて言うダサい題名なのだろうって。

 シンプルに説明すると、剣と魔法なんでもありのファンタジー世界の貴族の学園を舞台に、ヒロインが攻略対象たちと問題を解決しながらイチャイチャする……ありふれた感じの乙女ゲームです。


 そう、ありふれた乙女ゲームがコミカライズしてアニメ化までしてしまったのです。

『正統派乙女ゲームの皮を被ったブッとんだ内容、と言うかヒロイン強すぎでしょ!?』

『気に入らない=ぶっ飛ばすで、単純だから久しぶりに頭空っぽにして見れた』

『アニメになった途端にモブが丁寧に描かれすぎ!』

『このモブって、殴られるためにわざと丁寧に描かれてない?』

 まぁ断片的にレビューを見ても困惑してしまうだけですので、色々と誤解を招いてしまいそうですが、概ね皆さんが考えていらっしゃる内容で間違い無いです。


 はっきり言いましょう、ただのおバカアニメです。

 そんなアニメの悪役令嬢の取り巻き1であるエルフリーデ・カロリング。

 彼女は、侯爵であらせられるおじいさまからのお叱りを受け自室に帰ってから早数十分、ずっと鏡台の前で頭を抱えていらっしゃいます。


「モブって! わたしがモブって一体どうゆうことよー!」

 なんか暗黒面が表に出始めているではありませんか。そりゃアニメの世界に転生?しちゃったんですもの、ヒロインになりたいなーとか目立つ立ち位置に着きたいなーなんて考えちゃうのも無理無いですよ。

 自分が一体どんなふうになるのか。結果がわかっているだけに、持たざる者の承認欲求とでも言うのでしょうか。


 でもそんなこと言ったら、私なんてねぇ……。

 そうです、私だって実は困惑しているのです。だってね、私だけ物語に本当に関わる事の出来ないのですから。


 皆さん、そろそろお気づきでしょうか。

 こうやって皆さんに語りかけている私も、この世界に転生? してきたのです。

これが人間であれば開き直って、身の丈にあった生活を送りたいなって思いもしたのですが、そういかないと言うのがこの世の常と申し上げれば良いのでしょうか。


 ほら見てください、この豊かで光沢のある、ウェーブがかった毛並み。可愛らしいつぶらな瞳。そしてこのキュート垂れた耳。

あぁ、なんだか自分で言っていて恥ずかしくなってきまいたが、明らかに人間のそれとは全く違う特徴。

そうです、私はエルフリーデのペット。先ほど侯爵が彼女にプレゼントした犬になってしまったようなのです。

それを思い出したのは先ほどエルフリーデと初顔合わせをした瞬間のこと。突然に目の前の真っ暗になってしまったと思ったら、こんな犬らしからぬ、いや普通の犬には失礼かもしれませんが、前世のO Lだった頃の記憶を思い出していたのです。

 先ほどからの態度を見るに、それはエルフリーデも一緒なのでしょう。

 悪役令嬢の取り巻きその1とそのペット。なんとも言えないコンビではありませんか。あまりに目も当てられない感があるので、こちらは笑うことはできませんが……。


 しかし、なってしまったものは仕方がない。幸い私の面倒を見てくれているのは侯爵一家。そうそう傾いたりすることはないはずです。

しかも『ときめき☆フィーリングハート』の中ではなかなかのやられっぷりをするエルフリーデのそばにいるのです。きっと面白いものが見られるはず。

 前世の私も状況を簡単に受け入れてしまう、いわゆる流されタイプの人間だったのです。


フンスと鼻から息を吐き出しながら、そんなことを考えていたのですが、

「ソフィー……わたし、決めたわよ」

 そう呟きながら私を抱き抱えるエルフリーデ。あぁ、ソフィーって私の名前のことですので悪しからず。


「こうなったら、やってるわよ! わたしだって」

 フルフルと私を抱える腕を震わせ、語気が強まっていきます。

 あ、これ悪い予感がします。どうしようもない宣言を耳にしてしまいそうな、そんな予感がします。


「目立ってやろうじゃないのよー! それこそ悪役令嬢にだって何にだってなってやろうじゃないの!」


はぁ? と誰でも首を傾げてしまいそうなセリフ。


 大きく腕を振り上げ、さながら熱血ドラマの主人公かよとツッコミを入れたくなリ ましたが、犬になってしまった私にはそんなことは言えませんね。

それでもこう言わずにはいられません。その開き直りはぶっ飛びすぎだろうと!


 私の前足が人間の手であれば、頭を抱えているに違いありません。しかし目立ちたいからって自ら悪役にでもなってやるだなんて……。中途半端にやられ役だから良い味出していたのに、そんな風になったら目も当てられません。


 エルフリーデがそんな決意をするのであれば、私だってこう決意するしかありません。

 自分の平穏なペットライフのために、この勘違いさんを絶対にハッピーエンドに導いてやるのですから!

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