彼女を悪役令嬢にしないための10の方法
桃kan
第1話 生まれ変わってどうなった?
わたしの名前はエルフリーデ・カロリング。
急に侯爵令嬢になってしまった……と言うと訳がわからないと思うかもしれないのだけれど一番混乱しているのはわたし自身なのである。
いつも通りに庭でおじいさまたちと紅茶を嗜みながら、おじいさまから12歳になった誕生日のプレゼントに頂いたペットの犬を抱き上げた時だ。いきなり目の前が真っ暗になったと思ったらかつての自分の記憶が、前世の記憶が流れ込んできた。
どこにでもいる女子大学生をしていたはずのわたしがまさか、まさか侯爵令嬢だなんて! こりゃ人生大逆転じゃないのよ!
ふふんと不敵な笑みを浮かべながら、改めて紅茶を楽しもうと視線を下に落とした。そして紅茶に映る自分の顔を目にした瞬間、わたしはこう口にせずにはいられなかったのだ。
「なんでこんなことになってるのよー!」
* * *
彼女は乱暴に立ち上がりながら、絶望にも似た甲高い声を上げる。
突然一人娘のエルフリーデが声を荒げたのだ。普段冷静沈着な彼女のおじいさまも周囲に控える使用人の方たちもびっくりされているではありませんか。
「これ、エルフリーデ! 淑女としてそのような行為は優雅ではないよ」
積み重ねるは年の功とでも言うのでしょうか。驚いていたはずのおじいさまは和かな笑顔を浮かべておられます。
「でも、おじいさま! でもね!」
「少しは落ち着きなさい。一体何があったのかね? 」
「それは……でもわたしは!」
ワタワタと右往左往しながら落ち着かない様子のエルフリーデは、おじいさまから諌められても混乱した様子。まぁ彼女がこんな風になってしまう理由も分からなくはないのである。
しかしそこは侯爵であらせられるおじいさま。一言声をかけてからの彼女の様子を見とめ、普段とは違う部分を感じ取ったのでしょう。
カップに満たされていた紅茶に口をつけ、少し厳しい表情を浮かべられています。
「エルフリーデは少し疲れてしまったみたいだね。今日はもう部屋でお休みなさい」
その表情に違わず、どこか強制力を持ったような声には誰も逆らうことはできないでしょう。声を向けられたエルフリーデだけでなく、使用人たちでさえ怯えた表情を見せています。
あらあらやはり皆さん、そうなってしまいますよね。そんな時には私の出番でしょう。困惑するエルフリーデに近づき無遠慮に触れます。こうゆう時に空気を読まなくて良いのはわたしの役得でしょうか。
「え……はい、分かりました。取り乱して、申し訳ございません」
正気を取り戻したとは言い難いですが、困惑した様子は相変わらずみたいですがおじいさまに一礼し、その場を後にしていくエルフリーデ。どこかその後ろ姿は頼りなくて心配になってしまう。
流石にいきなりこんな状況に陥ってしまったのだから仕方がないだろう。私も彼女の後をついていきます。
自分の部屋に戻るまでの間のエルフリーデったら、俯いたままブツブツと何かを言っていますが、私の位置からは聞き取ることはできません。
ここで一言、可愛い顔が台無しだよなんて言葉の一つでもかけてあげられれば良いのでしょうが、如何せん私にはそうする事はできない。
なんとも歯痒い気持ちを抱えながらも、歩みを進めていきます。こんな時に自分の置かれた境遇が恨めしいではないですか。
そんなことを考えていた束の間、エルフリーデの足が急に止まります。彼女の自室は庭からそこまで離れていなかったのでしょう。白を基調としたドアを開けるとそこに広がるのはなんとも女の子らしい華やかな家具や調度品の数々。
しかし今の彼女にはそれらを愛でる余裕はないのでしょう。足早に彼女は部屋の奥へと進んでいきます。
「……」
鏡台に設えられた椅子に腰掛けながら、ため息ひとつエルフリーデは続けます。
あぁ、もうこうやって鏡に映る形で目にしてしまっては否定のしようもないのでしょう。
「これって……これって!」
ワナワナと体を震わせ、今にも噴火しそうなエルフリーデ。
まぁ先ほども言ってしまいましたが、無理もありません。人生大逆転じゃんとか考えていたのだろうなーと思いながら、私は彼女を見上げながら一人ぼうっと考えていま
した。
だってね、そんなうまい話はなかなかないものです。だって私もどうなってんだーって叫びたいくらいでしたから。
さてそうこうしている内に彼女の叫びが聞こえてきました。
「アニメのモブじゃないのー!」
そう、彼女エルフリーデ・カロリングはアニメのキャラクター。
しかも悪役令嬢の取り巻きその1だなんて数えられてしてしまうくらいのそんな端役。
そうなんです、彼女はとあるアニメの目立たないモブとして生まれ変わってしまったのです。
はてさて、これから一体どうなってしまうのか。
まぁ私はそんな彼女を眺めていくこととしましょう。
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