第34話 誰の手に?!
大広間にはザワつきが広がっていた。
皆が誰が落札するんだと首を回して立っている人間を観察する。
ジークは、ただ私だけを見てその美しい顔を曇らせていた。
大金貨二十枚。ジークが用意した金額だ。だからまだ半分といったところで、金額的な焦りはそうないようだ。
彼の剣呑な表情は、私の足に向けられている。しかも、一点、三角地帯に。
できれば飛び出して唐衣をかけたい。自分と二人だけの時ならいくら出しても、いや衣服など着なくてかまわない……くらいのことをジークは考えていた。
この美貌の王子は、やはり残念エロ王子(ロリコンは消えた)なのである。
ワグナーは、本気で落札する気満々で立っていた。
本来の目的は、可愛い甥への嫌がらせ……もとい、商売のパートナーにしたいと考えていたから。私の創作する衣服や飾り物に、多大な価値を見入出していたのだ。しかし、私の足を見せつけられ、見えそうで見えない股関(直接的過ぎるから! )に、欲情を感じなくもなかった(こら! 甥の恋人だぞ!!)。
もう一人は五公の一人、ロイ公爵。長いモシャモシャの髭に、眼光鋭いおじいちゃんだ。さすが公爵、その財力は豊からしく、微動だにせずに立っている。
彼の目的は王家の外戚になること。孫娘達をジークの正妃にゴリ押ししたが叶わず、美貌の少女を買い求め、教育を施して王宮に送り込み、王子の目に留まれば……と期待していたが、これも今のところ不発だ。ならば、王子の恋人を養女にして……と考えた多くの貴族の中の一人であった。
もう一人は伯爵……ザンテ伯爵。筋肉隆々の偉丈夫だ。彼は正真正銘のロリコン有名で、この世界のナイスボディーな女性には目もくれず、薄っぺらい身体の少女ばかり囲っていた。しかし、少女はいつか成熟する。そんな女を抱く気も起こらず、伯爵家滅亡の危機に瀕していた。そんな中朗報が! ジークの恋愛を載せた瓦版に書いてあった私の容姿だ。最新版を見ても、女性らしい凹凸に欠ける(これを読んだ時はマジ激怒した)と……。
黒髪の醜女など大した問題じゃない! 薄っぺらい身体こそ至高!と、ザンテ伯爵はこの御披露目に参加したのだ。ありったけの宝石を換金し、屋敷にあった金貨をかき集めてだ。
最後の一人、ジークと並べても見劣りしないくらいの美男子だった。この国には珍しいストレートの銀髪を腰まで垂らし、女性と見間違えそうなくらいの美貌。しかし、その背の高さと細いがしっかりした骨格は男性のものだった。
「五人になったね」
カシスが私の後ろで呟く。私の座っている椅子の背においた手に力が入っている。
カシスは私以上にジーク落札を願っているようだ。
究極、ジークかロイ公爵に落札してもらえばいいのだ。他の二人は論外。もう一人は……記憶の琴線に触れるんだけど、ジーク以外にこんな美男子は知らない。
「大金貨十五枚」
そこでロイ公爵が脱落してしまった。
大広間はザワついたが、さらにザワついたのは私の心の中である。
王家の外戚になるっつ野望はそんなもの?!
もっと頑張んなさいよ!
セーフが1/4になってしまったではないか。
ザンテ伯爵のみ震え、他は涼しい顔だ。
「大金貨十六枚……十七枚……十八枚」
ミモザの顔は紅潮しまくりだ。そりゃ半年間でそれだけの収入になれば、踊り出したいくらいに違いない。しかも、半年後には私からさらに金貨七枚が入るのだから。
ミモザが十九枚……と言おうとした時、ザンテ伯爵が崩れるように座り込んだ。
彼の持ち金は大金貨十八枚小金貨五枚だった。
私はホッと息を吐く。
最悪な人物は回避できた。
「ここからは刻んでいきます。大金貨十八枚小金貨五枚、小金貨六枚、七枚、八枚、九枚、大金貨十九枚」
そこでワグナーが腰を下ろした。
ニヤニヤした表情は、自分に出来る範囲で、掛け金をつり上げてやったぞと言わんばかりだった。
しょうもない叔父さんだ。
しかし依然として二人が立ったままだ。
ジークは勿論として、皆の視線が銀髪の美男子に注がれる。誰だ?誰だ? という声が多いから、きっとメジャーな貴族ではないのだろう。しかし、そんな人物がそんな大金を用意できるものなのだろうか?
この時初めてジークは後ろを振り向いた。
そして、驚愕したように目を見開く。私にはその表情は見えず、呟いた声も聞こえなかった。
「何であなたが……?」
ジークはそう呟いていた。
★★★
その頃王宮では、華が咲き誇るように美しく成長したアンネが、楽しげに塔の上から王宮下に広がる街並みを眺めていた。
今年十五歳。
彼女の美貌は近隣諸国にも鳴り響き、是非妃にという王子達の求婚はひっきりなしだった。
アンネはばっさりとその全てを断り、鼻で笑うばかり。
ジークに続いて、アンネまでも嫁にいかないつもりか?! と、王が焦ったのは言うまでもない。
出来れば婚姻により、他国との同盟を深めたいところであり、その持ち駒としては美しいアンネは最強であるのだが……。見た目威厳があり王の中の王、ライオネル一世の再来と聞こえの良いライオネル三世であったが、何分身内の女子にはからきし弱く、中でも正妃キャサリンと、末の姫であるアンネには強く言えなかった。
「アンネ、ここにいたか」
「お父様」
アンネはフワリと微笑み振り返った。こうして見れば、深層の令嬢であり、見目麗しい姫ぎみなのだが……。
「……様はまだ戻らない? 」
「まだだな。しかし、おまえ、これがジークに知れたらどうするつもりだ」
「あら、たった半年くらい、私にディタを貸してくれたっていいと思わない? 娼館に私が行く訳にいかないし、滅多に彼女に会えないんだもの」
「そりゃそうだろう。しかし、嫁ぐ条件がそれとは……」
「いいじゃない。……様は快諾して下さったんだし、面白いとお笑いになられたのだから」
アンネが、まあ彼ならばお嫁に行ってもいいかなと首を縦に振った唯一の人物は、アンネが選ぶだけあって、見た目も中身も男前で、何より人を驚かすことが大好きという茶目っ気満載な人物だった。
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