第33話 あれから三年

 私は今日十四歳の誕生日を迎える。正確には、夕方に生まれたらしい(カシスの記憶では……よく覚えてるな)ので、あと数時間後になるのかもしれないけど。


 この国にしては珍しいストレートの黒髪は、艶々と輝き腰の長さまで伸びていた。

 黒髪の醜女……。

 何度も言われ続けた言葉であったが、今ではそう呼ぶ者は限りなく少ない。

 低かった身長はある一時期にぐっと伸び、ピタリと止まった。高すぎず、低すぎずといったところだろう。

 身体のラインは、女らしく変化して姉のようなタワワな胸……にはならなかった。


 遺伝子はどうなった?!


 遺伝情報を書き換えてまで、脳内の楠木彩の記憶に左右される私の身体って……。

 Aカップ……あるかないか。ブラジャーがないからわからないけど、片手に余る……余りまくりで、期待していた程大した成長を見られませんでした。チーン!


 顔だけ見れば、かなりイケてる部類に成長したと思う。やはり、ジークに絶えず「可愛いね」「素敵だよ」などと褒められて育ったからじゃないかと思う。

 人間、可愛いねを連発されると、本当に可愛くなるもんだ。


 ジークとは勿論いまだにラブラブだ。キスまでの関係ではあるが、よく我慢してくれていると思う。実は、私はまだ女(初潮がまだ)になっていない。かなり遅いというか、この身体大丈夫? と思うが、こればかりは自分でどうにかできる訳じゃないからどうしようもない。だからこそ、実はまだ一縷の望みを捨てとなかったりする。(もちろんオッパイの成長だ)

 それを盾にジークに清い関係を 迫り、私の理想とする甘々だけどセックスレスな関係を継続中だ。


「今日、何人くらい集まるかな?」

「さぁ? 」


 私とジークのラブラブぶりは周知の事実となっており、ジークは二十歳を迎えるというのに、いまだに妃も愛妾も娶っていない。本人いわく、私以外と結婚しなきゃならないのなら、王位継承権を破棄するとまで言っており、国王もキャサリン妃も静観する姿勢を示していた。


 つまり、もし私がジークと結婚することになれば、正妃不在愛妾一人という状態になる訳だ。つまり、私が生む(生むどころか、初体験すら辞退したいです)だろう子供が、次々国王になるということになる(と思われている)。私をゲットできれば国王の外戚になれると思い込んだ貴族達が、こぞって今日の御披露目に顔を出すことだろう。


 私は今日の御披露目の参加資格を、実は事前に通達していた。


【身体を浄め、ミモザ製の石鹸使用者に限る】


 つまりは、私を身請けしたければ、うちの客になって良い匂いをさせなければ入れないよ……ということだ。

 なにせ、うちの石鹸は市場販売していない。他の娼館に情報が漏れないように、持ち出しも不可にしていた。

 娼館以外で持っているのは、ジークとアンネ、北のアステラの姫ウスラだけだ。ウスラは、三ヶ月ばかりはこちらにいたが、すでに隣国へ帰っており、今はどうしていることやら。結婚したという噂は聞かないが。


「髪の毛、結ってあげる」

「うん」


 すでに、私以上に器用に髪を結うようになったカシスが、私の髪の毛をすきだした。


 カシスは、すっかりおとなしく女性らしくなっていた。あの乱暴な口調のカシスはすでにいなく、思慮深い口数少ない女性に成長していた。

 しかし、私は知っている。思慮深く口数が減って見えるのは、言葉を吟味して喋るようになっただけで、いまだに気性が荒く短気なカシスは健在である。ただ、それを隠す術を身につけただけだ。


「ディタの髪の毛は気持ちいいね。サラサラだ」


 カシスは私のストレートの髪の毛を際立たせるように、わざと襟足の髪の毛をたらし、3/4アップに結い上げた。ジークが私の為に作らせた髪飾りをつけ、左手の人差し指に初めてジークに会った時にもらった指輪をつけた。質種にならずに、今も私の手元にある。サイズは相変わらず大きいが、ギリギリ人差し指なら落ちずにつけられる。


「今、大金貨六枚と、小金貨二枚弱貯まったんだっけ? 」

「うん。昨日でかなり貯まったね。カシスの御披露目までには、間に合いそうよ」


 私は鏡の前で衣装のチェックをした。姿見があるのは私達の部屋だけだ。これはワグナーから貰ったもので、南の国からの輸入品らしい。


 残念な体型だから、胸はアピールしない(できない💧)ように首までレースで覆い、胸元で布地を切り替えている。腰の高い位置からチュチュのような広がったフレアスカートになり、できる限りのミニスカートになっていた。この世界には下着は存在しないから、テニスのアンダーのような下着は一点物だ。みな知らないからドキドキすることだろう。


 私のちょっとした悪戯で、これはジークにも知らせていなかった。

 ハラハラドキドキも、恋愛には大切なスパイスだ。


「時間よ」


 新しいミモザの部屋付きのミナが呼びに来た。以前の部屋付きだったミシャやアイラはすでに娼婦になっており、かなり頭角を表していた。ここ数年で、上位はかなり入れ替わったり、身請けされてリタイアしたりしていた。不動の一位は変わらなかったけれど。


 私は鏡に向かって微笑むと、自室を出て大広間へ向かう。カシスもその後ろをついてきた。


 普通御披露目はここまで大々的にやらないが、私の場合くるのが王族貴族だったりするから、大広間を使っての御披露目になった。

 扉の前でスタンバイし、ミナが合図と共に扉を開ける。


 大広間には沢山の人間が集まっていた。誰が誰やらわからないが、私は簡易に作られた壇上に上がり、用意された椅子に腰かけた。途端にオオッ! とドヨメキが起こる。


 アハハハ、見えないんだな、これが。


 私は内心ほくそ笑む。


 真っ正面にジークがおり、険しい顔をしていた。自分の彼女が公衆の面前でギリギリッな素足を披露しているんだから、そりゃ穏やかではないのだろう。まだ見たことのない私の秘所まで他人に見られそうだと慌てているに違いない。


「ではこれからディタの御披露目を開始します。ご存知かと思いますが、ディタは専属契約となります。期間は半年。それを踏まえた上での入札でお願いします」


 つまりは、半年しか好きにできないのだから、高値を出し過ぎて後で文句を言うなということだ。

 ミモザの響く声がし、続いて皆に起立を促した。


 ミモザが金額を言っていき、それ以上払えないという人は座り、最後まで立っていた人間が私の半年間の所有者になる訳だ。小金貨一枚から始まる。

 最初は誰も座ることなく、大金貨に入り、バラバラと座る人が出てきた。この辺りの人達は冷やかし半分といったところなのだろう。噂の王子の恋人を見てやろう的な。


「大金貨十枚」


 さすがに半年の為にこれだけの大金を支払う人間はいな……、ジーク以外に四人の人間が立っていた。

 何故かワグナー。これは確実に冷やかしに違いない。もしワグナーが私を落札したら……マジで性奴隷扱いかも。ジークの恋人関係なく、私の初めては奪われてしまう……のか?


 私は壇上からワグナーを睨み付けた。早く座りなさいよ! と圧をかけるが、ワグナーは涼しい顔つきで腕を組みながら立っている。


 マジであの男ムカつく!

 他の三人は……。


 立っている他の男に目を向け、私は目を丸くした。

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