第15話 温室にて
「で、病弱なの? 」
そんな、髪を撫でながら耳元で甘く囁かないでほしい。身体は十歳だけど、気持ちは成熟した三十路の女だから、ムラムラっとムズムズっとしてきてしまう。いや、そういう行為は好きではなかったけど、それまでの甘い雰囲気は大好物だ。じゃなきゃ恋愛なんかしてきてない。
「病弱なの? 」
耳元で二度聞きされて、くすぐったさとフニャンッとしてしまうのを押さえつつ、コクリとうなづく。私に病弱だった記憶はないけど、カシスがそう言っていたからそうなんだろう。
「あ、でも最近は健康よ。ここ数ヶ月は熱も出てないしね」
「なら良かった。具合が悪い時はいつでも呼んで。最高の医者と薬持参で看病に行くよ」
「けっこうです。カシス……姉が看病してくれるだろうから」
「つれないなぁ」
私の髪の毛をクルクルッと指に巻き、軽く引っ張り口元に持っていく。
「髪の毛、食べないでください」
「ダメなの? 」
そんな眩しい笑顔を向けられても、絶対フラフラなんてしないんだから!
そう、この王子は顔は無茶苦茶いいけど、ロリコンのド変態!! 忘れたらダメダメ!!
「王子は何歳なんですか? 」
このまま流されてしまいそうだったから、お腹に力を入れて背筋をピンと張る。気を抜くと、まるでジークに引力があるかのように、ついペトッとくっついてしまいたくなるからだ。
「僕? 僕の年知らないの? 」
「申し訳ありませんけど、さっぱり! 」
「十七だよ。ライオネル歴三年生まれさ。ちなみに、十二月二十四日が誕生日で、国民の祝日にもなっているからね」
十二月二十四日! クリスマスイブだ。……って言っても、こっちの人には意味わからないだろうけど。忘れられない誕生日のベストスリーに入るかも。
「君は? 」
この世界に来て、あんたとかおまえとかは呼ばれるけど、君なんて上品な呼ばれ方初めてだ。しかも、このフルッと弾力がありそうで、むしゃぶりつきたいような唇から……って、変態は私だ! あまりにジークが完全無欠のいい男っぷりをしているから、ついつい年齢(絢年齢三十)も忘れて十代の男の子に盛りそうになってしまった。
「わ……私は十歳ですよ! あなたよりも七つも年下ですから!! 」
動揺から、ついつい声が大きくなってしまう。でも、意識してしまったジークの唇から目を離すことができない。
ああッ!!
Sexは大嫌いだけど、キスは大好きなんだもの!
心の声が駄々漏れなら、きっと私は愧死してしまったことだろう。それくらい恥ずかしいことを思わず想像してしまっていた。
「さっき、年齢は聞いたから知ってる。誕生日だよ」
「誕生日……」
誕生日っていつ?
楠木絢の誕生日なら、二月二十日だけど、ディタは違うよね?
今度、カシスに聞いておかなくちゃ。
「そ……そんなことはどうでもいいでしょ! 私とあなたは七歳も違うのよ。私からしたら、あなたなんか……おじさんよ! おじさん!」
「おじさんは酷いなぁ」
王子をおじさん呼ばわりは、さすがにヤバいかと思ったが、ジークは特に気にする様子もなくニコニコ笑っている。
……頭弱いの?
などと失礼な突っ込みを頭の中でしながら、ジークの反応を見る。
「そりゃね、最初は二・三歳くらいの差かなって思ったんだよ。少し小さいな~とは思ったけど。ほら、付き添いでくる娘達は、だいたいもうすぐ御披露目の娘が多いから、十四か十五くらいかなって」
確かに、他の娘達はそれくらいだ。私が特別だっただけで、ジークが勘違いしてもしょうがない。
なら、勘違いだってわかったんだから、私にこだわったら……ロリ確定になっちゃうし、王子としてまずいでしょ。
「私は十歳です。あなたの相手にはなれないでしょ」
「う~ん? まぁ、今はね。でも六年後なら? 問題ないんじゃない。うちの親も十違うし」
「いやいやいや、申し訳なくて六年も待たせられないし、第一私に決定権はないですから」
「どういうこと? 」
「私の所有権は、ミモザにあるからですよ。私(とカシス)を大金貨五枚で買ったのはミモザですから」
「なら、大金貨五枚で君を買えばいい? 」
「冗談止めて! 」
本気で声を荒らげた。髪をいじっていたジークの手をはね除け、真っ正面から睨み付けた。ジークの甘い笑顔の前に、つい怒りがどっかにいきそうになるのを、気力で引き寄せつつ、眉間の皺を無理やり深くする。
「私を買うのは私! 六年後には、私はミモザの館から独立してるから。娼婦にはならないし、変態の餌食にもならない! 」
ジークは信じられないというように私を見ると、満面の笑顔を浮かべて私を抱き締めた。
「ちょいちょい!! 」
「なんて素敵なんだ! 君は本当に十歳の女の子なの? 」
いえ、三十路の中年女です……中身だけは。
なんとなく、うまく人生を渡り歩いて、彼氏も途切れたことないし、それなりに満足した生活を送ってきました。Sexは好きじゃないけど、彼氏とイチャつくのは大好きだし、そういう面では彼氏は必須で、この世界にきて初めてこんなに長い間彼氏なしの生活送ってますけど。でも、石鹸作ったり、香水作ったり、それなりに充実した生活送ってます。
なんて……、言える訳ないじゃないの~!!
「十歳……ですよ」
「ああ、可愛いディタ。君をもっと欲しくなったよ」
「だ~か~ら~! 」
「うん。わかってるよ。なら、この話しは君の所有権を持つミモザと話すことにしよう。もしミモザが君を譲ってくれたら、その時は君は僕の物だ」
「物じゃないし! 」
プーッと膨れると、ジークは愛しそうに私の頭を撫で撫でする。
そんな……そんなことされると、ゴロゴロニャ~ンってしたくなるじゃないか~ッ!!
久し振りの恋愛脳を封印すべく、私は必死になってジークの甘々攻撃から逃れるように頭を振った。
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