第7話 正しい保健体育とその他諸々

 私とカシスの専属の教師、座学はミモザ、技術はイライザが担当することになった。


 座学でまず驚いたのは、子供が何故できるかまだ知られていないということ。避妊の方法には諸説あるが……から始まり、それって中学生だって知ってるよね? ということすら知られていなかった。

 男の人のナニがナニするのも、まさに人体の神秘扱いで……頭が痛い。

 いや、この世界の人間は身体の作りが違うのか? とも思ったが、自分の身体を見る限り女性としとの機能に違いがあるようにも思われず、男性は……スッポンポンを見ていないからわからないが、教科書の図解によれば、大差ないように思えた。


 カシスは、「ウワッ! 」とか「ウォッ! 」とか叫びながら、顔を赤らめ手で顔を隠しながらも、ばっちり指の間から教科書を見ていた。

 こういう反応は、どの世界の子供も同じかもしれない。


 まあ、知らないことはなかったし、実際に向こうの世界の楠木絢はすでに経験済みなことなので、今さら顔を赤らめるとかあり得なかった。


「あんた、ずいぶんさめてるガキだね」

「だってミモザ、これ嘘ばかりですもの」


 今や、この館で唯一ミモザを呼び捨てにするのは私だけだった。


「どこがよ? 」

「まずね、精子飲んだくらいじゃ妊娠しないから! 」

「え? 」


 私は前に立って黒板に図解しだした。

 そりゃね、私だって細かい図なんて書けないし、アバウトな部分はあるけど、口から食道、胃、小腸、大腸、肛門と続く画くらい書けるし、その中に生殖器に繋がるラインはどこにもないんだって説明くらいできる。


「えっと……、男性から出る液体が子供の元ってのは正しいけど、それは口から入っても女性の中の子供を育てる袋には届きません。消化されて終了です」


 消化されるかなんて知ったことじゃないけど、妊娠しないことは本当である。


「そうなの?! 」

「そうなんです! 」


 教科書の中で禁止されている事項は、中出し、口出しとなっており、もし万が一強要された時は、しっかり洗ったりゆすいだりすることって……やらないよりはマシだろうけど、基本アウトだよね。


 この世界には避妊具がないらしいので、はっきり言ってうちら(一週間も同じ釜の飯を食べると、自然と仲間意識が生まれてくる)の職業、いつだって妊娠や性病と隣り合わせだから、その辺りの知識はこんな曖昧じゃまずいと思う。


 いや、私には娼婦は無理なんだけど。いろんな意味で……。需要もないようだし。


「まず、妊娠とは……」


 座学を受ける筈が、いつの間にか私が小学校レベルの性教育を始めていた。いつの間にか部屋にはイライザを始め、上級娼婦のトップが集まってきていた。


「ねえ、これって正しいの? 」

「わかんない。でも、間違ってはいないんじゃない? なんとなく納得って感じ? 」

「そうよね、確かに安全日っていうの? あれそうかも。この間失敗しちゃった子、あたしと生理かぶってたけど、ちょうど生理と生理の真ん中辺りに、客に無理やり……って話してたし」

「そういや、あの子もそうだった」


 私の講義を聞きながら、ボソボソと話している。


「はい、そこ静かに。ここ大事ですからね」


 まあ、別にテストをする訳でもないのだが、ついつい学校の先生ノリで黒板を叩く。背が小さいから指し棒が欲しいところだ。


「全く、あんたの知識は、いったいどこからきてんだろうね」


 思わずギクッと固まる。


 ミモザは私に対する問いかけではなく、感心して思わずつぶやいてしまった……という感じであったが、あまり知識をひけらかすのも良くないと反省する。それからはざっくりと流して保健体育を終了した。


 次の授業は地理・歴史であったため、ミモザに席を譲り生徒に戻った。

 この世界は沢山の国が存在し、その中でも大きな国は三国、私達のいる東のザイザル王国、南にワイナ王国、北にアステラ王国。この三国が均衡をとってお互いに睨み合っているため、小競り合い程度はあるものの、大きな戦にはならずにすんでいるらしい。小国は腐る程あるが、大三国の属国になるか協定を結び、細々と国を存続させているということだ。


 ザイザル王国は現在二十九代目の国王ライオネル三世が支配している。専制君主の王政を確率したのはライオネル一世、凄まじい武勲を上げた豪傑だったらしい。その時にライオネル一世の麾下に馳せ参じたのが今の五公であり、その下に八侯、十伯……と続くらしい。

 ミモザの館の娼婦達が相手にするのは、この手の貴族と高級官僚までということだ。


 歴史に興味がなくはなかったが、とりあえずその位の順位を頭に叩き込んだ。


 続いて、淑女のマナーの時間になる。

 話し方、立ち居振舞い、食事のマナー、ダンスまで、徹底的に叩きこまれる。技術とはどうやらこっちのことだったらしく、違う技術を想像していた私は、一人赤面してしまった。


 こちらは、三十歳のそこそこ常識を持つ一般女性であった私は、ダンス以外は楽々クリアする。

 カシスは喋り方からして大目玉をくらい、優しげに見えるイライザのスパルタな一面を垣間見ることになった。


 後で聞いた話しであるが、始めて男性と××する時は、下手な知識がない方が男性は喜ぶらしく、その手の実技は初めて××した後に仕込まれるらしい。

 それまでは、王族貴族の相手をするのに相応しい淑女としての教育と、ちょっとした性教育のみを詰め込まれるということだ。


 他の子と違い、丸々一日みっちり一週間、座学と技術を叩き込まれた私とカシスは、なんとかほぼほぼ「可」をもらい、やっと美容の方へ時間をとれるようになった。私はダンスだけは……補習となったけれど。

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