十五話

「……あの日、は……っ」


 痛みを思い出したように、顔を歪めた友紀人。


「……庭で、アティリオがチコと追いかけっこをしてた。子どもってさ、夢中になると、周りの物が目に入らなくなるんだよね」

「そうね」

「澪さんもだよね」

「そのひと言は、いらないと思うの」

「ごめん。ちょっと、違うこと言わないと……」


 泣くのを我慢している顔で、友紀人は笑った。それから、わななく唇を開き、大きく息を吐いて話を続けた。


「……アティリオが、チコから逃げてきて……木に、ぶつかりそうになったんだ。全力で走ってきたスピード、そのままで……」


 友紀人が澪の手を握りしめた。

 すがるように、強く。


「……俺は、慌ててアティリオを庇ったよ。小さい子が怪我でもしたら、大変、だから……っ」

「そうね」


 その時の痛みと戦っていることが、澪に伝わってきたから。

 声を詰まらせた友紀人の代わりに、口を開いた。


「あなたは、自分の身を挺して、アティリオくんを守ったのね」

「……うん……」


 友紀人は様々な感情を乗せて、ひとつ頷いた。

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