十四話

「そうよ。……私の誤算は……あなたが、プロにならなかったこと」

「──っ」


 友紀人は体を強張らせ、青ざめた。


「誤解しないでね。責めているわけじゃないの」


 澪は街へと視線を移した。


「あなたがこの街にいるのに、公演の話は今日まで私の耳には入って来なかった。あなたが日本へ帰って来るのは、凱旋公演をする時だと、私は思っていたから」


 誇らしげな、澪の答え。


「……その、自信は……」

「私は素人だけど、あなたの音は本物だと感じたから。だからこそ、リメルさんも未成年だったあなたの滞在を、許可したのでしょう?」

「……そう、だけど……」


 澪に見つめられた友紀人は、左腕をわずかに動かした。


「もう、俺は……」

「……さっき、気づいたわ。あまり、動かせないって……」

「……そっか……」


 友紀人は小さく息を吐いた。


「……師匠の家に住むようになって、二年目くらいの時かな……アティリオがたまに遊びに来てた。アティリオが来た日は、一緒にチコと遊ぶのが約束だったんだよ」


 憂いが残る中に、優しい表情を見せる友紀人。


 澪が知っている友紀人は、面倒見の良い子だった。

 だからその子とも、よく遊んであげたのだろう。

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